「サヤー、起きてー」
「んー、うわ!」
「やっと起きた、次移動だよ」
「え、もしかして私、授業から休み時間までずっと寝てた?」
「うん」

愛の言葉に、自分はそんなに寝ていたのかとため息をつきながら急いで準備をし、廊下を歩く。
いつもなら私が愛を起こしてるはずなのに。そういえば昨日はデータとるのが大変であんまり眠れなかった。

「疲れてるね、いつもは授業中寝たりしないのに」
「うん、野球部のことでいろいろやらなきゃいけないことがあって、あんまり寝てなくて」
「そっか、野球部もう少しで大会あるもんね、花井も頑張ってる?」
「うん!花井くんすっごい頑張って、…愛って花井くんのこと知ってるの?」

私の問いかけに愛は委員会が同じで少し話したこともあると言った。
愛って花井くんと委員会同じだったのか、知らなかった。

「花井くんは野球部のキャプテンなんだよ」
「花井がキャプテン?あー、なんかわかるかも」
「だよね!花井くんはキャプテンって感じするよね!」
「うん、似合ってる」

愛はそう言って小さく笑みを浮かべた。愛がこんなに柔らかく笑うなんて初めて知った。綺麗だな、花井くんと話してるときはいつもこうなのかな。
始業ベルが鳴ったのが聞こえ、私と愛は急いで移動教室場所へと向かった。

「今日は3人グループになり実験をしてもらいます、グループは自由に作ってください」

先生の言葉に従い、私と愛は2人でグループを作った。どうしよう、あとひとり誰かいないかな。
辺りを見渡していると、ひとりの女の子が目に入った。そうだ、あの子にしよう!

「ひなこ!一緒に実験やろー!」
「あ、愛とサヤだ!いいよやろー!」

ひなこは私達の誘いに喜んで答えてくれた。
岡崎ひなこは最近よく話すようになった友達で、元気いっぱいで面白い子。

「ねえ愛、このビーカーには何入れるんだっけって、サヤー!愛が寝てるー!!」
「ほんとだ、愛起きて!愛が寝ると私も眠くなる…」
「え!?サヤも眠いの!?」
「うーん…」
「ちょ、サヤも寝ないでよー、」
「あっれ、名字寝てんのー?」

愛につられて寝そうになっていると、聞き覚えのある声が。
起き上がると、私達の隣のテーブルに田島くんと三橋くんと泉くんがいるのがわかった。

「そういや名字、この頃疲れてるもんなー」
「だ、大丈夫だよ!田島くん達より全然動いてないし!田島くんこそ疲れてない?」
「そう!すっげヘトヘトになんの!だから毎日1回しかオナニーできねーし」
「え!?」
「たーじーま!声でけえんだよ!」

すかさず泉くんがゴンッと音をたてて田島くんの頭を殴った。いってー何すんだよ!って叫んでる田島くんの隣には、おどおどする三橋くんの姿がある。
まだ赤くなっている顔を隠しつつ、私は未だぐっすりと眠っている愛の隣に腰を降ろす。反対隣にはまだ楽しそうに何かを話している田島くんがいて、その隣には三橋くん、そして田島くんと三橋くんと向かい合わせで座っている泉くんに視線を向けた。

その瞬間、なぜか泉くんと目が合った。とっさに泉くんから目をそらして目の前のビーカーに顔を向ける。
どうしよう、思いっきり目そらしちゃった、泉くん変に思ったかな。
泉くんに謝ろうかとおろおろしていると、私と愛に向き合うように座っていたひなこが泉くんに声をかけていた。

「泉、このビーカーに何入れるんだったっけ?」
「知らねー」
「うそつけ、今ビーカーに液体入れてるじゃん!」
「うっせ、つーか先生の話くらいちゃんと聞けっつーのバカ」
「バカってあんたねえ!」

いきなり物凄い勢いで言い争いを始めたひなこと泉くん。この2人普段からこんなによく話すのかな。
泉くんと話せるなんていいな、私はまだ泉くんとちゃんと話せない。

「2人とも仲いいんだね!」
「どこが!?」
「え、ご、ごめんっ」
「あはは!声揃ってんじゃん!」

2人の反応に驚いていると、隣の田島くんが笑いながら2人を見ていた。そんな田島くんに対しても2人は反論をしていた。
凄いよ、ちゃんと声が揃ってる。2人は怒るけど仲はかなりいいよね。

「あ、」

田島くんの隣から三橋くんの声が聞こえて目を向けると、私の足元にころころと消しゴムが転がってきた。三橋くんはおろおろと消しゴムを探している。
私はすぐに消しゴムを拾って三橋くんに手渡した。

「三橋くん、消しゴム探してるんだよね?はい」
「あ、あり、あり」
「あり?」
「あ、ありが、」
「だーかーらー!それ見せてって言ってるだけでしょ!?」

ガシャンッ!と大きな音をたててひなこが大声で泉くんに怒鳴り込む。私は急いでひなこと泉くんを落ち着かせようと声をかけに行った。そんな光景を見て笑っている田島くんと未だ寝ている愛。
どうしよう、これじゃあ実験終わんないよ。
気づけば授業終わりまであと5分になっていた。私はなんとかひなこを落ち着かせて、何も実験できないまま急いで後片付けを始めた。

「へえ、それで実験できなかったんだ、全然気づかなかったよ」

授業がすべて終わり、あとはSHRだけとなった時間にやっとで起きた愛と実験のときの話をした。愛は本当に寝ていたらしく、ひとつも実験のときのことを知らない。そんな愛に私は苦笑いを浮かべた。

「そんなにひなこと泉って仲いいんだね、同中だったとかかな」
「あ、そうかも」

愛の言葉にそれもありえると思い、ふいにひなこのほうに視線を向ける。今気づいた、ひなこと泉くんって席が近いんだ。
またひなこと言い争いをしている泉くんが見えて、私は小さく笑った。
その瞬間、実験のときと同じく泉くんが私のほうを見て目が合ってしまう。また目を背けそうになるのを我慢して、ぎこちなく笑みを浮かべながら少しだけ頭を下げた。それを見た泉くんは笑って私から視線を外す。
よく、わかんないけど、今のでよかったんだよね。泉くん笑ってくれたし、失礼なことしてないよね。
悶々とそんなことを考えていると担任が教室に入ってくるのが見え、すかさず顔を前に向けた。

「よっしゃー!部活だ部活!三橋、泉!浜田も名字も早く行こーぜ!」
「う、うん」
「おっしゃ!今日も頑張っか!」
「オレ今日もランナーやんの?最近筋肉痛やべえんだよなあ」
「なーに言ってんだよ!筋肉痛くらいフツーだって!」

痛がる浜田くんを引っ張りながら連れていく田島くんが、早く早くと私を呼ぶ。
準備をしていると愛が身支度をしながら私を呼んだ。

「なに?」
「今日、放課後に委員会の集まりあるからたぶん花井と栄口は部活遅れてくと思うよ」
「栄口くんも同じ委員会なの?」
「うん」
「わかった、監督と先生に伝えとくね!」

愛はお願いねと言って委員会へと向かった。
私も急いで支度をし、頑張ってねと手を振るひなこに手を振り返しながらグラウンドへと走って行った。



「今井、今井」

ぽんぽんと少し強めに肩を叩かれ、ゆっくりと目を開く。隣には同じ委員会で最近少し話すようになった花井の姿があった。
ああ、また私寝てたんだな。そんなことを考えながらゆっくりと体を起こした。

「お前、ほんとよく寝るよな」
「知らないの?寝る子はよく育つのよ」
「え、まだ身長伸びてんの?」
「…中2のときにもう止まった」
「んじゃもう育たねえじゃん」

花井は呆れたように笑った。そうそうこの顔、最初花井が笑ったときはこんな風に笑うと思ってなかったからほんとに驚いた。眉を下げて優しく笑う。
私より全然身長が高くて坊主で部活は野球部。なんだか怖そうな人と委員会が一緒になったなとか思ってたけど、今ではそんな考えも無くなっていた。
見た目と違って全然優しいし面白い。それで頼りがいがあるし面倒見がいい。だからサヤから花井は野球部のキャプテンだって聞いたときは素直に納得できた。

「今日は前作った班と同じ班になって、指定された校内、校外のゴミ回収を済ませたら解散となります」

委員会の先生の説明が終わると生徒達は立ち上がり、班になってそれぞれの場所へ散らばっていく。
この前決まった班は私と花井と栄口で、私達も3人で指定された場所へと向かった。

「今井、はい、ごみ袋」
「あ、持ってくるの忘れてた、ありがと栄口」
「たぶんそうじゃないかと思ってたから余分に持ってきててよかった、早く終わらそ!」
「うん」

栄口はニッコリ笑ってゴミを拾いに校舎裏のほうに行った。栄口は見た目通り凄くいい人で、いつも寝てる私に対しても優しく接してくれた。
彼も野球部で、花井と栄口に会ってから、野球部への印象が随分変わったのも事実。
ところどころに落ちているゴミを拾っていると、花井がせっせとゴミを拾っている姿が目に映った。偉いなあ、花井も栄口も真面目にゴミを拾っている。
だんだんと重くなってくる瞼を擦りながら、私も必死にゴミを拾った。
眠い、眠すぎる、やっぱり今日は授業中もあまり寝れてなかったからな。どうしよう、もう限界。
ふらふらとおぼつかない足取りで壁に寄りかかり、少しだけ目を閉じる。あたたかい風が心地よかった。

「今井、そっち終わったかって、寝てんのかよ」

ぽんっと軽く頭を叩かれてゆっくり目を開くと、目の前にはまた呆れたように私を見下ろす花井の姿があった。
私は眠気を消すように目を擦りながら、こっちは終わったと花井に伝えた。

「お前、そんなに寝てて大丈夫なのかよ、授業中も寝てんじゃねえか?」
「寝てるよ」
「寝てるよって、お前なあ」
「花井、少しかがんで」
「は?なんで」
「いいから」

花井は顔を赤くしながら私と顔が同じ位置になるところまでかがむ。
そんな花井に笑みを浮かべて、花井の頭から一枚の葉っぱをとった。

「葉っぱついてた、ごみ拾い頑張ったんだね」
「え、あ、まあ、な…」

花井は私を見ると途端に目線を泳がせ、さっきよりも顔を真っ赤に染め始めた。
ほんとに面白い、花井といるといつも楽しくて、定期的にある委員会の仕事もあっという間に終わってしまう。

「今井、花井終わった?ゴミ捨ててこよー」

栄口と一緒に私と花井もゴミ捨て場に向かった。花井に少しだけ視線を向けると花井はまだ顔を赤くしてて、それを見て私はまた小さく笑みを浮かべた。



今日はやっとで出来上がった桐青のデータを千代と一緒に監督に渡して、それから私と千代は倒れてベンチで30分だけ寝ることにした。
ベンチのかたさで体が痛み、ゆっくり体を起こすと、30分どころかもう部活は終わっていた。
どうしよう、私あのままずっと寝てたんだ。千代がいない、え、もしかして千代は、あのあとちゃんと起きてマネジの仕事したのかな。
おろおろしている私に気づいたのか、近くにいた阿部くんと田島くんが声をかけてきた。

「おはよーさん、よく寝てたな」
「おっせー!しのーかはもう起きてんぞー!」
「あ、え、どうしよ、あの、ご、ごめんなさいっ」
「いや、つーか落ち着け」

おどおどする私に阿部くんは大きなため息をひとつ。どうしようどうしよう、呆れられた。千代はちゃんと起きてマネジの仕事やったのに、私はのんきに寝てて、使えないマネジだって思われたんだ。
そう思うと顔を上げられなくてとっさに下を向いた。泣いたらまた呆れられる、なのに涙が出そうになる。なんで私はいつもこうなの、なんで千代みたいにちゃんとできないの、いやだ、泣きたくない。
いつまでも顔を上げられずにいる私の肩に優しく手が置かれた。ゆっくり顔を上げると目の前には田島くんの姿が。
田島くんは私を見て普段と変わらない表情で言った。

「なに泣きそうになってんだよ、お前データとんの頑張ってたじゃん、それで疲れてたってのはみんな知ってんだから誰もお前のこと怒ったりしねーよ」
「で、でも、千代はちゃんと起きて、頑張ってるのに、私は、」
「お前データとかとんの初めてだったんだろ、それでも頑張ってんのちゃんと知ってっから」

な!と言って隣に立つ阿部くんに同意を求める田島くん。阿部くんは少しどもりながらもああと返事していた。それを聞いた田島くんはほらなって言って、私に笑顔を見せてくれた。
どうしよう、田島くん、すごく嬉しい。田島くんはなんでこんな嬉しいこと私に、私を使えないやつって思わないで、頑張ってるって言ってくれるなんて。
私、これからもたくさん頑張ろう、みんなの役にたてるように。

我慢していた涙がぽろぽろあふれてくる。田島くんが先生に呼ばれて離れていくのを感じた。泣いてる場合じゃない、早く千代の手伝いしなきゃ。
そう思い、ごしごし目を擦る。

「名字」
「は、はいっ」
「…なんで敬語なんだよ、つーかその、お前ってほんと三橋に似てるよな」
「み、三橋くん?」
「お前も三橋も、もっと自信持てよ、あとさっきはため息ついて悪かったな」

それだけ言って私の前から去って行く阿部くん。前も阿部くんに私と三橋くんは似てるって言われた気がする。そんなに似てるのかな、よくわかんないけど。
そんなことを考えながら、私は急いで千代の元へと走って行った。

「じゃあね千代!」
「うん!また明日!」

学校で千代と別れて暗い夜道を自転車で進んでいく。
千代と私の家の方角はまったくの逆方向だから、帰りはいつもひとりで帰っていた。
野球部のみんなもすでに帰ってしまい、ところどころに点いている街灯を頼りに自転車のライトを点けながら、早く家に着くように急いで自転車を漕いでいく。
そのときふと田島くんの声が聞こえて、自転車を急ブレーキさせた。

「やーっぱり名字だ」
「田島くん!」

田島くん宅だと思われる家の玄関から顔を出している田島くん。
田島くんの家ってここだったんだ、いつもここ通るけど全然気づかなかったな。

「名字、家あっち?」
「うん、すぐそこだよ」
「んじゃオレと家近いじゃん!ぜんっぜん気づかなかったー!あ、名字知ってる?ここずーっと行けば泉ん家なんだぜ!」
「し、知らなかった!」
「たぶん泉も知らねえだろーから、今度驚かせに行ってみっか!」
「え、う、うん!」

田島くんの提案に私は戸惑いながらも返事をした。
田島くんと一緒に泉くんの家に行くってことだよね、泉くんやっぱりびっくりするのかな。でもあんまり話したことないし、変に思ったりしないかな。
気がつくとバットを持った田島くんが素振りをしているのが目に入り、私はそんな田島くんをじっと見ていた。

「…田島くん、いつも部活のあと素振りしてるの?」
「おー!まあすっげ疲れてっからちょっとしかやんねーけどな!」
「…な、なにか、」
「ん?」
「私、なにか手伝えること、ないかな?」

自分でも何を言ってるんだろうって、あとから恥ずかしくなって顔が熱くてたまらなくなった。田島くんは私の言葉を聞いてきょとんとしている。
私、ほんとに何言ってんだろ、素振りの手伝いなんて。でも、部活終わってからも頑張ってるんだなって知って、私も何かやりたいなって思った。田島くんだけじゃなく、みんなも部活終わってから何かしてるのかな。
目を泳がせていると、田島くんは何かを考えたあと、私に声をかけてきた。

「じゃあさ、数えてよ!オレ、素振りすんのに集中すっから、数えんの忘れんだよね」
「う、うん!数えるよ!今日は何回やるの?」
「んじゃ、今日は50回!」

私はわかったと返事をする。田島くんはサンキューと言って笑うと、素振りを始めた。私は自転車を停めて田島くんのそばで素振りの回数を数える。
田島くんはビデオを観ていたときと同じく集中していた。声だして数えると集中乱れるかな、声は出さないで数えよう。
綺麗な星が広がる空の下で、私はひたすら素振りの数を数えていた。

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