最近、オレは赤い葉っぱの夢を見るようになった。なまえがいなくなる前に見たものと同じ。
毎晩見るこの夢に、なまえは居た。

目を覚ましたオレは、ゆっくりと体を起こした。数日前から見るようになった赤い葉っぱの夢。
なまえはたしかに居た。連合のやつらと。

「イザーク、おっはー」
「ああ」
「何だよ、今日機嫌悪いなー」

ディアッカの言葉を無視して、さっさと食堂へ向かう。食堂へ入る直前、アスランがオレ達を呼び止めた。

「朝食の前に少し話があるとクルーゼ隊長が」
「話?」
「うっわー、何だろうねえ」

オレ達は疑問に思いながらもクルーゼ隊長の部屋へと向かった。

「失礼します」

中に入るとすでにニコルが居た。ニコルの隣に一列に並ぶ。クルーゼ隊長はオレ達を見てから、ゆっくりと口を開いた。

「この間の戦闘での報告は本当かね?アスラン」
「はい、すべて真実です」
「そうか」

クルーゼ隊長は少し間を置いて、オレ達の方へと視線を送った。なぜだか嫌な予感がした。

「連合の捕虜となり囚われているなまえの事だが、先日の報告によるとなまえが我々の艦隊を撃破し、連合に寝返ったそうだ」
「な、まだそうと決まったわけでは!」
「それでも艦隊を撃破し、君達を襲ったのは真実なのだろう?イザーク」

クルーゼ隊長の言葉に反論できず口を閉じた。

「よって会議の結果、なまえは連合軍の仲間と見なし、これからの戦闘では敵として処理することが決まった」
「……」
「君達も、かつての戦友だということを忘れ戦闘の際には彼女に攻撃を加えて構わない」
「はい」
「話はそれだけだ」
「失礼しました」
「……イザーク」

クルーゼ隊長に呼ばれ、ハッとして隊長へ向き直る。

「君には少々認めがたい事実だが、君ならすぐにきりかえてくれると信じているよ」
「…はい」
「今後の活躍に期待しているぞ、イザーク」
「…はい、失礼しました」

クルーゼ隊長に一礼をし、部屋をあとにした。
なぜこんなことに。なまえ、お前は本当に連合に寝返ったのか?オレ達を裏切ったのか?違う、オレの知ってるなまえはそんなやつじゃない、なまえは仲間を大切にしていた。そんななまえがオレ達を裏切る。絶対にそれはありえない。なまえは、連合で何かあったんだ。オレ達には言えない何かが。

「イザーク」

我に返り顔を上げると、アスランが目の前に立っていた。

「…なんだ」
「何を、考えていたんだ」

アスランの問いに何でもいいだろうと答えた。

「なまえの事か?」

図星を言い当てられ、少しだけ視線を泳がせる。そんなオレを見たアスランはゆっくりと口を開いた。

「まだ信じられないのか?」
「貴様は本当になまえが連合に寝返ったと思うか?」
「…先日の戦闘を見る限りではな」
「き、貴様!」
「認めたくないのは分かるがクルーゼ隊長の言う通り、これは現実だイザーク。オレ達はそれを受け入れなければならない」

アスランの言葉に口を閉ざす。なまえがオレ達に攻撃したのも、ザフトの艦隊を撃破したのもすべて現実だ。
だが、それでもオレは。

「オレには、なまえがオレ達を裏切るなんて考えられん」
「……」
「なまえは仲間を大切にしていた、そんななまえがオレ達を裏切るなどそんなバカげた話があるか!」
「……」
「なまえは連合で何かあったんだ、オレ達には言えない何かが、」
「イザーク」

黙って聞いていたアスランが、いきなりオレの言葉を遮った。

「憶測で話をするのはやめてくれ」
「た、たしかにこれはオレの憶測だが!もしかしたら、」
「やめろと言っているんだ!!」

アスランの大声は廊下中に響き渡った。叫んだと同時に、オレの胸倉を掴んでくるアスラン。

「くっ!離せ貴様!」
「イザーク!お前はクルーゼ隊長に何と言われた!?忘れたのか!?」

覚えている、分かっている、すべて頭では理解しているんだ。それでも。

「なまえがオレ達を裏切ったなど信じられるか!!」

オレは勢いよくアスランの胸倉に掴みかかった。

「そんな下らない私情を貫き通すつもりか!イザーク!」
「貴様はなぜなまえを信じてやらないんだ!?なまえはオレ達の仲間だろう!そんなに簡単に、」
「違う!!」
「な、」
「今は、もう違うだろ、イザーク…」

無意識にアスランの胸倉から手を離していた。

「イザーク、これは命令なんだ、なまえがオレ達を裏切ったと信じたくないのならなまえを忘れろ、最初からザフトにはなまえなんて存在していないとな」

アスランはオレから手を離し、ゆっくりと離れていく。

「忘れろイザーク、ここには最初からなまえなんていないんだ」

強い口調で言葉を放つアスランは、最後にそれだけ言ってこの場をあとにした。

忘れる?仲間だったなまえを?
自室に戻ったオレはベッドに横になった。これからの戦闘、なまえに対してどうするべきかを考えていた。ゆっくりと目を閉じると、目の前には暗闇しか存在しない。

オレは真っ暗な空間にひとり立っていた。何度か見覚えのある空間。オレは黙って立ち尽くしていた。しだいにゆっくりと、オレの前方に赤い葉っぱが降り注ぐ。オレは映し出されるその光景をただ見ていた。
ちらほらと降り注ぐ赤い葉っぱの中心になまえは居た。なまえがベッドにうずくまり泣いているのが分かる。オレは無意識になまえに近づいて行った。

なまえ!
そう言った瞬間、その光景は一気に消え、次に違う光景が映し出された。そこには、連合のやつと抱き合うなまえが居た。泣いて、すがるように。なまえはそいつに抱きついていた。
ゆっくりと、なまえに手を伸ばす。その瞬間、オレの目の前に大量の赤い葉っぱが降り注いだ。
なまえとの世界を遮断されたオレが最後に見たのは、安心しているなまえの顔だった。

「なまえ…!」

勢いよく起き上がると時計に目をやった。10分ほどしか経っていないことに、自分が寝てしまったのだと自覚する。仕事までまだ少し時間があったため、オレはシャワーを浴びに行った。

「……」

なまえと一緒に撮った写真を手にし、それをじっと見つめた。
それを粉々に引き裂くと、鏡に映る自分に目を向けた。もう迷いはなかった。


「……イザーク?」

イザークの声が聞こえたと思い顔を上げたが、当然イザークは居なかった。
イザーク、アスラン、みんな。信じて、私裏切ってなんかないよ。アスラン、イザーク。
ため息を漏らし、ゆっくりと自室をあとにした。廊下に誰も居ないことを確認すると、さっさと販売機の場所へと足を急がせる。今はあの3人に会いたくなかった。
販売機に着き誰もいない事を確認すると、私は販売機の前へと移動した。そしていつも通りのお茶を買う。お茶を手にした私は、それを見て少しだけ思いだしていた。

貴様はいつもそればかり飲むな。
いいじゃん。イザークも飲む?
バ、バカを言うな!誰が貴様の飲んだものなど!
うっわー、イザーク顔真っ赤。初心だねえ。
き、貴様ー!!
イザーク。
なんだ!?
イザーク、あのさ。
だからなんだ!
イザーク、私…。

「…バッカみたい」

微かに笑いを零し、自室に戻ろうと振り返った。その直後、私はその場に立ち尽くしてしまった。

「……」

視線の先には会いたくない3人のうちのひとり、オルガが居た。
オルガはいつもと違い私から視線を外すことをせず、ただ静かに私を見ていた。

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