ザフトと私との唯一の繋がり、赤い葉っぱの夢。
これが無くなった今、私にザフトの現状を知る術はなかった。

「今日は君達に戦闘に出てもらいます」

早朝からアズラエルに呼ばれた私達は早急に着替えて、MSのところに集まった。

「君達は敵艦隊の始末をして下さい。あと目障りなモビルスーツ達もお願いしますよ」

そう言って、アズラエルは私達に薬を差し出す。オルガ達は迷わず口に入れた。

「なまえさんも飲んで下さい?」

口角を歪ませるアズラエルを思いっきり睨みながら、薬を口に含んだ。

「なまえさんはもうひとつ。これも飲んで下さい」
「なんで」
「いいから君は僕の指示に従っていればいいんですよ」
「……」

アズラエルの手には3人とは違う薬がひとつ。私は仕方なくその薬を飲み干した。

「お仕置きを受けたくなかったら、皆さん頑張って下さいね?」

ニヤリと笑うアズラエルを無視して、私達はそれぞれのMSに乗る。
コックピットで調整していたらいきなりクロトが画面に出てきた。

「お前のモビルスーツだっせえ」
「あんたのほうがださいよ」
「は!?てめえ!」

まだ何か言いたそうにしていたクロトを無視して、強制的に画面を切った。オルガが発進の用意をしているのが見える。私の番になり、ゆっくりと発進した。

「……」

みんな、私はもう薬無しじゃ生きられない。もう、みんなのところには戻れないのかな。

「来たぞ!!」

オルガの声に反応して前方を見ると、敵艦隊と敵モビルスーツの集団が私達の方へ迫ってきているのが分かる。オルガ達はすぐ様敵の方へと突っ込んで行った。薬の効果でかなり強くなったオルガ達は弱いMSを簡単に倒している。目を凝らすと、MSの後ろの方から見覚えのある機体が来るのが分かった。イザーク、アスラン。2機は私の機体に気付くと、すぐに私の方へと近寄ってきた。

「なまえ!?なまえなんだろう!?」
「返事をしろ!」

アスランとイザークの問いかけに、どう答えていいのか分からなかった。

「なまえ!あいつらがオレ達に気付いていない今の内だ!早くザフトに戻ろう!」

必死に叫ぶアスランの声に、私は手を握り締める力を強める。

「なまえ!何を迷っているんだ貴様は!いつまでもこんなナチュラルなんかと居ていいのか!?」

痺れを切らしたイザークが私の機体の手を掴んだ。

「なまえ!!」

分かってる、私だって帰りたい。みんなのところに帰りたいよ。

「わ、私も、帰りた…」

最後まで言葉を言い終わる前に、私の脳裏にくすりの3文字が浮かび上がってきた。

「わ、私は…」
「なまえ!?どうした!?」
「かえり、た、」

帰りたい、帰りたい、みんなに会いたい!会いたい!!
その瞬間、私の中で何かが弾けた。何度も何度も何度も何度も、私の中で何かが弾けた。

「う、うわあああ!!」
「なまえ!?」
「貴様!オレ達が分からないのか!?」

私の頭の中は真っ白になって、無意識に目の前のアスランとイザークを攻撃していた。

「やめるんだ!なまえ!」
「なまえー!」
「わあああ!!」

アスランとイザークの言葉が耳に入ってこない。
いやだ!何をしてるの私は!?相手はアスランとイザークなのに!私の仲間なんだよ!?止まって!

「うわああああ!!」

お願いだから止まってよ!
何度心で願っても私の体は意志に関係なく、次々とアスランとイザークに攻撃を仕掛けていた。

「なまえ!止まれ!」
「っ!なまえ!」

私の攻撃を回避して、イザークが私の機体のすぐ目の前にきた。

「うわあああ!」
「なまえ!なまえ!」

イザークは何度も何度も私に呼びかけてくる。

「なまえ…!」

イザーク。
私はイザークの機体を振り払い、瞬時にザフトの艦隊へと向かった。

「なまえ!?何をする気だ!?やめろー!!」

アスランの声が聞こえたけど、私は構わずザフトの艦隊のひとつに狙いを定める。

「なまえー!」
「う、ああああ!!!」

イザークの声が聞こえたと同時に、私は艦隊にビームを放っていた。お願い、回避してという私の気持ちとは裏腹に、ザフトの艦隊のひとつは私のビームによって破壊された。

「あ、ああ、」

なんて事を、私は。

「なまえ!何を、貴様何をしているんだ!!」

イザークは私の機体に掴みかかり、勢いよくどなりちらしてくる。
私の耳にはほとんどイザークの声が聞こえていなかった。

「なまえ、お前」

隣に居るアスランは、私に信じられないという視線を送っている。

「お前、オレ達を裏切ったのか!?」

アスランの言葉は酷く私の耳に響いてきた。
裏切った?私がザフトを?

「アスラン!?貴様何を言って、」
「なまえ!お前は連合に寝返ったのか!?」

アスラン、何を言っているの。

「アスラン!貴様それ以上くだらん事を言うと、」
「じゃあなんでなまえはオレ達を攻撃した!?オレ達の艦隊を破壊したんだ!?」

アスランの言葉にイザークは反論できなかった。

「アスラ、」

アスラン、私は。

「く、う」
「なまえ!?どうした!?」

苦しみだした私にイザークが声をかけてくる。
きた、薬の副作用だ。

「アスラン!なまえをザフトに連れて行くぞ!」
「……」
「アスラン!聞こえていないのか!!」

イザークの言葉を聞いても、アスランに動く気配は見えなかった。私がアスランに声を掛けようと思った瞬間、私とイザークの間にビームが放たれた。

「く、何だ!?」

間一髪で避けたイザークはビームを撃ったであろう方向を睨み上げる。そこにはあの3人がいた。

「オラオラオラオラァ!!」

オルガの猛攻撃にイザークは私から離れる。その隙に私の機体の腕を持って、連合へと帰っていくオルガ達。

「貴様ら!なまえを離せ!!」

追いかけてくるイザークにオルガが何度もビームを放つ。イザークと私の距離がどんどん離れて行った。

「なまえー!!」

イザークの声を聞き、ゆっくり後ろを振り返る。
もう微かにしか見えない後ろの方で、アスランは静かに私を見ていた。


「今日はよかったですよ、本命とまではいきませんでしたが敵艦隊のひとつを落とすことができましたので」

ベッドの上で必死に苦しみを耐えている私達に、アズラエルはニッコリ笑った。

「これもなまえさんが頑張ってくれたおかげです」

そう言って私を見下ろすアズラエルは心底楽しそうだった。

「今回はお仕置きは無しですよ」

アズラエルの手渡す薬を次々とむさぼるように飲み干していくオルガ達。アズラエルが私に薬を差し出してきた瞬間、それを思いっきり床に叩き付けた。

「おやおや、なんて事をするんでしょうねえ、君は」
「わ、私に…」

ゆっくりと言葉を発する私に視線を向けるアズラエル。
薬を飲んで落ち着いた3人もじっと私を見ていた。

「私に何を飲ませた!!」
「何って、いつもの薬ですが?」
「ふざけんな!!」

力を振り絞り、アズラエルの襟元を勢いよく掴む。

「そんなに怒らないで下さいよ」
「て、めえ!」

私が睨み上げるとアズラエルは怪しく口元を歪ませた。

「君はいつまでたっても敵を攻撃しませんからね、だからちょっと自我が混乱する薬を使ってみたんですよ」
「な、」
「そしたら大当たり、君はやっとでザフトを攻撃してくれました、しかし少し強すぎたようですね。次からはもう少し少量で行いましょう」
「てめえ!」

アズラエルに殴りかかろうとした瞬間、アズラエルは凄い力で私をベッドにねじ伏せた。
そして、私の首に手を添えまたがってくる。

「君はまだ、自分の置かれている状況が分かっていないようですね」
「く、」

ギリギリと、アズラエルの両手に力が入る。

「君はここに居る限り、僕に従いなさい。僕の機嫌を損ねないようにしないと、君はいつ死んでもおかしくないのですから」

アズラエルはニヤリと笑い、君はまだお仕置きしますと言ってさっさと部屋から出て行った。
ごほごほと咳き込みながらゆっくりと呼吸を整える。
必死に苦しみを耐えていると、私のベッドにオルガとシャニが座ったのが分かった。私が視線を送ると、ふたりは何も言わずに座っているだけ。どかっと音がしたと思い後ろを振り返ると、隣のベッドにクロトが座っていた。私に背中を向けて。私も何も言わずに、痛みに耐えた。

やっとでお仕置きから開放された私は、4人で一緒に研究室をあとにした。みんな無言で、目も合わせなかった。私は3人と別れてひとりで自室に向かう。自室に入った瞬間、一気に脱力した。
アスランの声が頭の中で渦を巻く。私は、みんなを攻撃して、ザフトの人を殺してしまった。私は、裏切り者?違う、違うよアスラン。
私はきつく目を閉じ、唇を噛み締めた。
この日、私は一度も自室から出なかった。

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