やっぱり、今日も夢を見た。
イザークが怒って壁を殴ってる夢。やっぱり私は、赤い葉っぱの舞い散るところに。

目を覚ますと、私は自室のベッドにいた。ぼーっとしながら昨日のことを思いだす。
アズラエルに薬をもらって、そうだ、そのまま自室にきたんだ。
ゆっくりと起き上がって、シャワーをあびる。シャワーからあがり、軍服に着替えて自室をあとにした。この前、オルガ達に案内された食堂への行き方を思い出しながら廊下を歩いていると、偶然にも食堂に着くことができた。食堂の中に入り、中を見渡す。食堂内には知らない軍人がちらほらとテーブルに座っていた。私は一番奥のテーブルに着き、朝食をとることにした。

「……」

食堂内に居る軍人は、私のことを知っているのかじろじろと私の方を見てくる。こそこそと話す声や、突き刺さるような視線。私は朝食を半分以上残した状態でさっさと食堂を出た。
コーディネーター様はオレ達の食い物じゃ口に合わないんだとよ。
食堂を出る直前に私の耳に響いてきた一言。この言葉を発した男の顔は見ていない。

「なまえさん、いいところにいましたね、今君を探していたところなんですよ」

ハッとして振り返ると、そこにはあの不気味な笑顔を私に向けるアズラエルが立って居た。思いっきりアズラエルを睨む私を無視して、アズラエルは淡々と話を進める。

「今日は戦闘も実験もないですから、ゆっくり過ごしていいですよ」
「……は?」
「しかし、もしかしたら戦闘になる事態もありえますねえ、念のため君は外出しないで君達専用の部屋で待機していて下さい、分かりましたね?」

それじゃ、僕は仕事があるので。と言ってアズラエルはニヤニヤしながら私の前から去って行った。
こんな場所にゆっくり過ごせる場所なんてあるはずがない。ここはどこに居たってみんな同じ。私の安らげる場所なんて存在していない。
アズラエルの命令に従おうか、かなり迷った。あの部屋に行けば絶対あいつらが居るに決まってる。それにあのクソガキクロトだって絶対居る。
何分かその場で考えた結果、仕方なくアズラエルに言われた通りあの部屋に行くことにした。確かあの部屋は、私の部屋よりもっと奥にあったはず。ゆっくりと歩を進めると案の定、私の自室よりも少し進んだところにあの部屋はあった。

だんだんとここの迷路のような空間も把握できてきた自分にいらつきながら、目の前の部屋の扉を開ける。クロトだけは、クロトだけは居ませんように。祈りながらそっと中を覗くと、部屋の中はシーンとして誰も居ないようだった。ほっとしたのも束の間、すぐに私は大きく息を飲み込んだ。
ソファに、誰か寝てる。
ゆっくり近づくと、ソファに寝ている人間の顔がはっきりと見えた。

クロト…
ソファの上で、クロトは寝ていた。あとのふたりは居ないみたいで辺りを見渡しても見当たらない。再びクロトに視線を戻すと、クロトの片手にはゲーム機があってまだ電源がついていることからゲームの途中で寝たのだと推測した。
クロトが仮眠ではなく、熟睡しているのは誰の目から見ても明白で、私は無意識にクロトの寝顔をじっと見ていた。
私が、安易にザフトに戻れなくなったのも、薬無しじゃ生きられない体になったのも、全部こいつのせい。そうだ、こいつがあの時私に攻撃を仕掛けていなかったら、私をちゃんと殺していたら、こんな事には、なっていなかった。私がこんなナチュラルなんかの所に居るのも全部、全部こいつのせいだ。
ゆっくりと、クロトの首に両手を添えた。両手に力を込めていく。だんだんと首が締め付けられ、クロトは寝苦しいのか苦しそうに顔を歪めていた。無意識に私の額には、冷や汗が吹き出している。

「……バイバイ」

小さく呟いて私の両手に一層力が加わった瞬間、目の前のクロトが一気に目を開けた。クロトが起きたことに一瞬力を抜いた私もろとも、クロトと私は床に転がり落ちる。

「く、てっめ!離しやが、れ!!」
「う、うるさい!あんたの、あんたのせいで私は!」

ドタドタと床で私とクロトの掴みあいが始まった。それでも絶対クロトの首から両手を離さない私。クロトは苦しそうに必死に私の手を自分の首から離そうとしていた。

「こ、の!クソアマ!!」

クロトが一気に力を加えた瞬間、私の両手はクロトの首から離れてしまった。抵抗も虚しく、瞬時にクロトは私を床に押し付け、仰向けの状態になった私の両手を凄い力で押さえつけてくる。相手は男だ。私が力を入れて手を振り払おうとしても一向に動く気配が見えなかった。
静かになった空間には、私とクロトの荒い息使いしか聞こえない。私はすぐ目の前にあるクロトに苦し紛れの睨みをきかせた。

「はあ、残念だったねえ、てめえなんかに殺されるほど僕は落ちぶれてねえんだよ!!」
「私が力入れるまで爆睡してたくせに…!!」
「うっせえよブワァーカ!!」

私が精一杯クロトを押しても逆に押し返されてしまう。

「てめえなんかでも所詮は女だし?僕に勝てるわけないじゃん、お前ってマジ馬鹿じゃねえ?」

不敵に笑うクロトの顔を見て、私の中で何とも言えない感情がうごめいた。
なんで私はこいつに負けてばっかりなの!?なんでこんなやつに勝てないのよ!なんで、なんで私は、こんなに弱いの。

「こ、こんな事なら」
「ああ?」

こんな事なら、

「あの時、死んだ方がマシだった!!」

叫ぶと同時に、私の目から涙が流れた。
私はこの時、初めて他人の前で泣いた。

「う、」

いやだ、クロトに見られてる。こんなやつの前で泣きたくない!!
必死に声を殺して泣き顔を隠そうとするが、クロトが両手を塞いでいるため、クロトから私の泣き顔ははっきりと見えてしまっていた。
止めたくても止まらない涙。私は床に押さえつけられながら静かに泣き続けた。
数分間、クロトの言葉は聞こえてこなかった。その間、私はクロトと目を合わせないようにするだけで必死だった。

「クロト!てめえ何やってんだよ!!」

いきなりの声に驚いた私とクロトは瞬時に離れた。ドアの方に顔を向けると、オルガとシャニがずかずかと近づいてくる。

「へえ、クロトって意外と大胆、こいつ襲ってたんだ」
「は!?ち、ちっげーつの!僕はただ、」
「ただ、何だよ」

厳しい目を向けてくるオルガにクロトはもごもごと言いにくそうにしていた。私は気付かれないように涙を拭いて、ちらっとクロトを見ると視線が合い、私が視線をそらす前にクロトが先に視線を外した。

「おい、こいつになんかされたのか?」

声を掛けられ少し上を見上げると、オルガと視線が合う。

「…別に、何もされてない」

私はそれだけ言ってさっさと部屋から出て行く。部屋から出る直前、クロトに視線をやるとまたクロトは私を見ていたのかすぐに視線が合った。私はすぐにクロトから顔を逸らして早足で部屋を出て行った。
自室につくと、すぐにベッドに飛び込んだ。何やってんだろ私、あんなやつの前で、泣いちゃった。ため息をついて、ゆっくりと目を閉じた。


「……ん、今何時?」

体を起こして時計に目をやると時計は午後3時を指していた。私あのまま寝たんだ。かなり自分が寝ていたんだと自覚した私は、ジュースを買いに行こうと自室を出た。
確か、こっちに自動販売機があったはず。
頼りない記憶を探って歩いていくと偶然にも前に来た時と同じ場所の自動販売機に来ることができた。周りを見て誰も居ないのを確認しながらお茶を買う。お茶をとって自室に戻ろうと振り返った時、私の思考は一瞬で止まった。

「あ、」
「……」

オルガは私と一瞬目を合わせて、すぐに視線をはずした。オルガの手にはあの時とは違う小説がある。私は少し下に視線を向けながら、さっさとオルガの横を通り過ぎようとした。

「……クロトが」

オルガの横を通り過ぎて2、3歩歩いた私の耳にオルガの小さな声が聞こえてきた。
私は足を止めて振り返る。

「お前が居なくなったあとからいつもじゃありえねえぐれえ静かになってよ、何回も廊下を行ったり来たりしてたぜ」
「……」
「それだけだ」

そう言ってオルガはすぐに自動販売機の前にあるソファに座って、持っていた小説を読み始めた。私は少ししてからその場をあとにした。
クロトが何を考えてるとかどうでもいい。クロトには極力会いたくない。

「あ…」

今度は前方から人が歩いてきた。それも私の知ってる人、シャニだ。

「……」

私もシャニも無言で通りすぎた。その瞬間、シャニのポケットから1枚のCDが出て廊下に転がった。シャニの方を振り返るとヘッドホンをしているため、気付いていないらしくスタスタと歩いていってしまう。

「ちょ、ちょっと!」

CDを持って追いかけて声をかけても反応無し。仕方なく、シャニの軍服の裾を軽く引っ張った。それに気付いたのか、シャニはトロンとした目で私の方を振り返る。

「これ、落ちたよ」
「……」

差し出したCDをじっと見て、ゆっくりとシャニは受け取った。

「…どーも」

それだけ言って、シャニはスタスタと歩いて行った。ヘッドホンからかなり音漏れしてたな。そんな事を考えながら私もシャニ同様、さっさと自室に戻って行った。

「うわ、マジ?」

自室に着いて、ドアを開ける前に隣の部屋の人が誰なのか知りたくて見てみたら最悪なことに隣の部屋はクロトだった。私の反対隣の部屋を見てみると、私の反対隣の部屋はオルガなのが分かる。シャニはオルガの部屋の隣だった。こんな近くにこいつらが居たなんて。
私は部屋に入る際のパスワードを難しいものに変えてから自室へと入って行った。

「はあ、」

疲れた。

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