今日の夢はいつもと違って赤い葉っぱが舞い散る中で、イザーク達が言い争いをしているのをじっと見ている私がいた。

「最後の質問だ。コーディネーターは普段は普通の人間と変わりないが戦闘中、莫大な戦闘能力を発揮する事があると言うのは本当か」
「何度も同じ事言わせないでよ、答える気無いって言ってんじゃない」
「捕虜風情が!いい加減にしろよ!!」
「いい加減にすんのはあんた達の方でしょ、こんな事続けても意味無いってまだ気づかないわけ?」
「このクソアマ!!」

怒りが頂点に達したのか。さっきから尋問をしていたひとりの研究員が私の頬を思いっきり殴りつけてきた。私は勢いよく床に叩きつけられる。

「あーあ、やっぱりこうなっちゃいましたねえ」
「アズラエル様!申し訳ございません」
「あー、いいんですよ、それより何か聞きだせましたか?」
「それが…」
「やっぱり聞き出せないですよねー、君もいい加減従ったらどうですか?」

ニヤニヤ笑いながら私を見下すアズラエル。私は思いっきり睨んで意思表示を露にした。
誰があんたらなんかに協力するか。

「うーん、まだ自分の立場が分かっていないようですね、それじゃ実験台になってもらいますか」

アズラエルは一層顔を不気味に歪ませ、研究員に指示をして私を無理矢理歩かせた。

「やめて!離してよ!!」
「静かにして下さいよ、こっちは徹夜で眠いのを我慢してるんですからね」
「うっさい!離して!!」

アズラエルは深いため息をついてさっさと私の前を歩いて行った。実験台、この言葉がすごく怖かった。
研究員に連れられて廊下を歩いてる時、前方から歩いて来ているあの3人を見た。なんでこんな時に、あいつらの顔なんか見たくないのに。私は小さく舌打ちをした。

「これは奇遇ですね、これからこの子にあれをやろうと思いましてね」

ニタニタ笑いながらアズラエルは3人に話しかけていた。私は少しだけ顔をあげてみる。瞬間、あのクロトとか言うむかつく奴と目が合ってしまった。私を見下すようにバカにした笑いを浮かべて笑っている。私はすぐに視線を床に向けた。
そのすぐ後にアズラエルと前髪が触覚っぽい3人の中じゃ一番背の高い男との会話が終わり、再び歩き始める。通り過ぎる時クロトの笑い声が聞こえ、私は一層クロトを睨み返した。研究員さえいなかったら速攻ぶん殴ってたのに!私はキレる寸前になりながらも研究員に連れられて行った。
これから何が始まるのか、そんな事なんか知りもせずに。このとき私は、アズラエルの不気味な笑みの意味をまだ知らなかった。
目の前にはひとつの部屋が見える。
今まで見た中で最も大きいその部屋は中に入ると見た目通りの大きな空間があった。

「君達、この子に実験の準備をして下さい」

アズラエルの言葉で一斉に動き出す研究員達。私は無理矢理ベッドに寝かされ、手足は縛られた。冷たい器具が私の体のあちこちに取り付けられて行く。嫌な薬品の匂いが鼻にツンとくる。何人もの研究員達の手が私の体を這いずり廻った。
いやだ、気持ち悪い気持ち悪い!触んないで!!怖い怖い助けて!!助けてみんな!

「それでは諸君、これから実験を執り行います」

アズラエルの声が引き金となり、周りにいる何人もの研究員の中のひとりが私の腕に注射を打つ。その瞬間、塞がれている私の口から声にならない叫びが漏れた。


私が自室に戻ったのは深夜の1時。当然周りは真っ暗で辺りは静まり返っていた。

「明日も実験はあるから今日はゆっくり休んで下さいよ?」

アズラエルの薄気味悪い笑い声が消え、自室には私の荒い息ずかいだけが響いている。まだ息がしづらい。うまく息が吸えず、体全体を使ってやっとで呼吸をした。
昼に研究員に殴られた頬には湿布が貼られているがMSの時クロトにやられた腹の傷はまた裂けて、痛々しく血が滲んでいる。研究員に注射を打たれた時から心臓が大きく脈を打ち、神経を直に刺激するような体の叫びが痛くて苦しい。
しばらく自室のベッドでうずくまっていたが時間が経ち、だいぶ楽になった。意識が戻りかけて喉がひどく渇いている事に気づく。私はやっとで体を起こしてゆっくりと自室から出た。

所々灯かりのある廊下を壁つたいに歩いて行く。ズキンズキンと鈍い痛みを発するお腹を抑えて、まだ理解不十分な地理を頭の中で働かせて迷路のような廊下を歩いた。だいぶ歩いた時、目の前に自販機とソファがあるのが見えた。私はゆっくりとソファに腰掛け大きく息を吐いた。体全体を使って呼吸を整え今だ鈍い痛みが走るお腹に手をあてる。息も整い意識もしっかりしてきた頃、ふと目の前のテーブルに目をやった。
そこには一冊の本が置いてある。無意識にその本に手を伸ばしていた。取り上げて見るとその本が小説なのが分かる。私は何も考えずにゆっくりとページをめくった。

「……何してんだよ、お前」

いきなり背後から声が聞こえ、勢いよく後ろを振り返った。背後にはあの3人の中で一番背の高い前髪が触覚っぽい男が立っている。なんでこんな時間に?本日2度目の遭遇に私は軽く舌打ちをした。
ゆっくりと立ち上がると、自分よりだいぶ背の高い相手の目を見ないように本を差し出す。

「…この本、あんたの?」
「ああ」
「はい、別に盗もうとしたわけじゃないから」
「……」

男は無言で私の手から本を取り上げる。私はそのまま自販機の方へ歩いて行き、少し震える手でお茶を買った。足音が聞こえない、まだ男はソファの後ろに立っているのだろう。
私は無言でお茶を取り、すぐさまこの居心地の悪い空間から遠のこうとまだ鈍い痛みが走るお腹を抱えて歩き出した。

「……頬、殴られたのか」

背後から聞こえる問いかけ。驚きすぎて私は振り返って男と目を合わせてしまった。その瞬間、ほんの一瞬だけ赤い葉っぱが舞い散る景色が頭にイメージされる。イザークが、赤い葉っぱが舞い散る中で手で顔を覆い隠して立ち尽くしているのが微かに見えた気がした。
初めてちゃんと男の顔を見た。前髪は相変わらず触覚っぽいけど長身で、顔はそこら辺の男なんかよりずっとかっこいいと思う。
私は無意識に男の顔に見入ってしまった。

「な、なんだよ」

男の声でハッと我に返りすぐに目線をそらす。

「頬はただ、ぶつけただけ」

とっさについた嘘。ナチュラルなんかに殴られたなんて思われたくなかったから。そんな事で弱音をはくやつにはなりたくなかった。

「…その腹もか」

手で覆い隠してたのに血が滲んで見えるくらい服に染み付いてしまっている。私は男に聞こえないように舌打ちをして、目線を下に向けた。

「あんたには関係ない」

私はそう言うとすぐに男に背中を向けておぼつかない足取りで自室に帰って行く。その場から離れる時、背後から男からの問いかけも無く無言の空間が流れていた。


いつの間にか眠っていたのか。私は今まで生きた中で一番最悪な朝を迎えた。連合に囚われてから毎日見ていた不思議な夢も飽きることなくまた私に夢を見させてくる。今日の夢は昨日あの男と居た時に一瞬頭にイメージされたものとまったく同じく、赤い葉っぱの舞い散る真ん中でイザークが手で顔を覆い隠して立ち尽くしていた。
まるで、泣いてるみたいに。
そういえばみんな元気かな。今日見た夢みたいにイザーク泣いてないかな。私の事、忘れてないかな。
私は込みあげる涙を堪えて朝食をとるために自室を出た。

「ここ、どこだっけ?」

自室から出て数分、迷ってしまった。左右を見てもどこをどう行けばいいのか分からない。私はため息をついて適当に歩いてみる事にした。
新しく変えた頬の湿布の匂いが鼻にツンとくる。お腹の傷は新しく手当てし直したおかげで血は止まった。
全然分かんない。辺りを見渡しても同じようにしか見えず余計に混乱を招いた。朝食は諦めよう、そして今日も実験がある。私はもと来た道を戻ろうと方向を転換させた。

「……あ」
「…!」

最悪!!今日は朝からなんでこんなについてないんだ!
目の前にはあの3人が居る。昨日の男とその横に不敵な笑みを浮かべているクロト。そのふたりの背後にはまだ一度も会話をした事の無い緑髪の男がいた。

「…朝飯食いに行くのかよ?」

いきなり昨日のやつに声を掛けられ、恐る恐るそいつの目を見る。そいつはちゃんと私を見る訳でも無く、私と目が合いそうになった瞬間目を逸らした。
ちらっとクロトを見るとクロトは心底驚いたのか、ありえないというような顔で触覚を見ている。後ろに居るやつも驚いたみたいで少しだけ目を見開いていた。

「オルガ、お前なに話かけてんだよ」

オルガと呼ばれたのは、昨日から妙に私に話しかけてくるやつだった。

「おっさんが言ったじゃねえか、こいつ、オレ達の新しい仲間になるってよ。話くらい別に普通だろーが」
「おっさんが言ったからってこいつを仲間だって認めんのかよ!こいつはコーディネーターでオレ達の敵だ!!」
「敵は敵でもこいつはここにいる、もう仲間も同然だろ」

オルガのこの言葉を聞いてクロトの口は閉じた。それと同時に思いっきり私を睨んでくる。睨んでくるクロトなんかより、私はオルガに釘付けになってしまっていた。
驚きを通り越して頭が真っ白になる。オルガの言葉は私を庇う言葉。即ち、敵を庇っているという事になる。なんで?

「食堂、知らねえのか?」
「……うん」
「こっちだ」

これも驚いた。どうやら私を食堂に案内してくれるみたいだ。私は内心焦りながらもオルガの横を歩く。後ろから舌打ちが聞こえた。たぶん、てか絶対クロトだろう。
迷路のような廊下を歩きながら私は自分より背の高いオルガを見上げる。私の視線に気づいたのか、一瞬私と目を合わせてまたすぐ目を逸らした。
この人は、何を考えているんだろう。ふいに頭に浮かんできた疑問。だって私は敵で、コーディネーターで、私がナチュラルを嫌いなのと同じようにオルガもコーディネーターを嫌いなはず。じゃあ何で?
とにかく私を庇う意味が分からなかった。でもひとつだけ確かな事は、オルガは悪いやつじゃないという事。そう認めざるおえなかった。

気まずい雰囲気の中、朝食は終了した。なぜかオルガが4人で食べようと言い4人無言で朝食を食べた。クロトの睨みが感じられたが気にしないようにさっさと食べた。
4人で食堂を後にする。私は道が分かんないから自室までオルガ達について行く事になった。会話なんて飛び交うはずも無い無言の空間。そんな空間だから男の声はよく響いた。

「なまえさん、実験の時間ですよ。来てください」

後ろを振り向けば不気味な笑みを浮かべるアズラエルが居る。心臓が大きく波打った。額に冷や汗が伝うのが分かる。

「早くして下さい、君に試さなきゃいけない薬がまだたくさんあるんですよ?時間がもったいないですからね」

少しだけ強い口調になったアズラエルに私は一歩後ろに引いた。

「……逃げられると思っているんですか?」

アズラエルの顔が一層歪む。アズラエルの後ろに居る研究員達が冷めた目で私を見ている。私は彼に底知れない恐怖を覚えた。
逃げられない。
私は決心して前に進んだ。

「おや?往生際がいいですね、やっと我が軍に力を貸してくれる気になったんですか?」

不敵に笑うアズラエルに私も笑みを浮かべた。

「そんなわけないでしょ、ナチュラルの薬ごときで折れるような弱いやつじゃないのよ私は」
「へえ、まだ悪態つく元気があるようですね。今日はとびっきりの薬を試してみるとしましょう」

研究員に乱暴に腕を掴まれ、私は歩き出す。その光景を無言で見つめる3人が居た。

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