夢を見た、赤い葉っぱの真ん中でたたずむ私。
鼻にツンとくる薬品の匂い。耳障りな話し声。私はゆっくりと目を開けた。

「おい、気がついたぞ」
「アズラエル様を呼んで来い!」

目を開けると明かりが目に入ってきて何秒かは目を開けられずにいた。目が慣れてくると私はベッドに寝かされていて、手足は縛られベッドの周りには何人もの研究員らしき人達がいる。ここはどこ?こいつらは誰?
何度思い返しても海底に沈んで行った事しか思い出せない。私は死んだんじゃないの?なんなの、ここはどこ?アスラン、ニコル、ディアッカ、イザークはどこ?

「目が覚めたみたいですね、気分はどうですか?」

混乱状態な私を見下ろしながら話し掛けてきたのはうさんくさそうな男だった。見た事も無い人。スーツを着ていて他のやつらとは明らかに違う雰囲気を漂わせている。少しだけ冷静になった私の頭には絶望的な展開が思い浮かぶ。
ここはザフトじゃない。

「状況がよく掴めていないと思うので簡潔に君がここに居る理由を述べますね」

男はニヤリと不気味に微笑んだ。

「ここは地球連合軍で、君は地球軍の捕虜になったんですよ」

やっぱり、思った通りだった。
私は無言でその男を睨み続ける。

「君が我が軍の近くの岸に上がって居るのを見つけましてね。それで君はここに居るんです。理解できましたか?」
「……」

私は海に流されて岸に上がったんだ、それで捕まった。

「少しは感謝して下さいね?君がここに運びこまれた時、君は重傷だったんですよ。それを手当てしてあげたのですからね」

そう言われて初めて体の痛みの原因がわかった。ナチュラルのやつらなんかに手当てされるなんて。
私は屈辱に耐えきれず唇を噛み締める。

「ここでひとつ提案があるのですが、よろしいですか?」

男はまた、ニヤリと笑った。

「君に2択の選択肢を与えます」

男は人指し指を私の目の前に突き出す。

「ひとつは君のコーディネーターの力を全面的に地球軍の物とし、地球軍として生きて行くか」

男は不気味な顔を一層歪めて指を2本に増やす。

「ふたつ目は地球軍に力を貸す事を拒み、今ここで死ぬか」

一瞬、心臓が大きく鳴った。

「選択肢は2択。君はどちらを選びますか?」

私の返事を待つ男の顔は楽しそうにニコニコ笑っている。この究極とも言える選択の中、私の頭にはみんなを裏切ってはいけないという事だけがぐるぐると巡っていた。
地球軍に力をかす、則ちザフトを裏切る行為。みんなを死においやる行為。だめだ、そんなの絶対だめだ。私ひとりが生きたいというわがままでみんなを死なせる訳にはいかない。死ぬのは恐い、死んだらみんなには絶対会えなくなる。でも私が地球軍に寝返ったら、みんなが死んでしまうかもしれない。アスランもニコルもディアッカもイザークも。
そんなのは絶対ダメだ。
みんなが死ぬよりだったら私が死んだ方がマシ。

「さあ、答えて下さい」

不気味に笑う男を睨みながら私は強く言った。

「私が地球軍なんかに寝返る訳ないでしょ、寝返るよりだったら私は死を選ぶ」

私の言葉にその場に居た研究員が一斉にざわめき始めた。男は不気味な笑みを止め、冷たい視線を私に送る。

「さすがさすが、ザフト様は違いますねえ、それじゃご希望にお答えしますか」

男は懐から拳銃を取り出し私に銃口を向けた。これで私は死ぬ、これでよかったんだよね?これでみんなを助けられるよね?
私は高鳴る鼓動を必死に止め、ぎゅっと目をつぶった。

どれくらい待っても私の体には痛みがこない。私は不審に思いゆっくりと瞼を開けた。

「ほんとに撃つと思いました?君は殺しませんよ」

目の前にはニヤリと笑う、不気味な男の顔がある。なに、一体どういう事?私が不審そうに男を見ていると男はゆっくりと口を開いてきた。

「君は利用させてもらいます」
「え…?」
「分かりませんか?君には最初から選択肢なんて無かったんですよ、君には地球軍のために生きてもらいます」

何を、こいつは何を言ってるの?

「さあ君達、この子に地球軍の軍服を用意して下さい。君に紹介しなきゃいけない人達もいますからね」
「ちょ、ちょっと待ってよ!私は寝返ったりしな、」
「物分かりの悪い人ですね、さっきも言ったように君に選択肢は無いんですよ」

男は私を見下しながら言葉を続ける。

「君には地球軍のためにおおいに活躍して頂きます、期待してますからね?」

男はニヤリと笑って部屋から出て行った。私の手足を縛っているものは外され地球軍の軍服を渡される。そのまま何人かの研究員に連れられて自室となる部屋に案内された。自室に入ると私は緊張の糸が切れたようにその場に倒れた。
なんで、なんでこんな事に。私はみんなを守りたかっただけなのに、結果的に私は地球軍になってしまった。みんなの敵の地球軍に。みんなを裏切ってしまった。
ごめん、ごめん、ごめんなさい。
私は静かに涙を流した。


「起きて下さい」

ハッとして目を覚ますと目の前にはあの男が居た。

「君の新しい仲間を紹介します」

新しい、仲間?
私がゆっくりと立ち上がると男はじろじろと私を眺めてくる。

「地球軍の軍服、似合うじゃないですか」

男の言葉を聞いて私は自分の着ている軍服を見てみる。私の軍服はどっからどう見てもデザインは男用でサイズは少し大きい。私の髪はショートだけど男用の軍服が似合うとか言いやがってこいつ。私は鋭く男を睨みつけた。

「おっと、これは失礼。例えコーディネーターと言えど女の子に失礼な事を言いました。すみませんね」

ニヤニヤ笑いながら喋る男。こいつ、いつか絶対ぶん殴る。

「申し遅れましたが私の名前はアズラエル。君の名前も教えて下さい?」

アズラエルと名乗った男のあとをついていきながら私はゆっくりと口を開けた。

「……なまえ・名字」
「ふーん、案外簡単に教えてくれるんですねえ」
「ひとつ言っとくけど」

目の前の男を思いっきり睨みつける。

「私はあんた達に協力する気なんて全然無いから。私を戦闘に出そうとか考えてんなら考え直した方が身のためじゃない?」

私の言葉を聞いたアズラエルはいきなり笑い出した。
しばらく笑ったあと、アズラエルはニヤリと笑いながら私を見下す。

「そう言ってられるのも今の内ですよ。そのうちここから離れられなくなりますからね」
「…寝言言うのも大概にしたら?見苦しいだけだし」
「はいはい、そーですね」

私の言葉を流してまた歩き始めるアズラエル。強がってはみたものの内心はアズラエルの言葉を少し気にしていた。離れられなくなる、アズラエルのあの口振りは絶対的な確信を感じさせる。なんであそこまで断言できるわけ?
アズラエルの自信がどこから湧いてくるのか考えていたらいつの間にか少し広い部屋に着いていた。部屋に入ると同じ年代くらいの男が三人。

「あー、君達ちょっと話を聞いて頂けますか?」
「あ?」

だらしなく返事をして三人の男はアズラエルに顔を向ける。

「この人の名前はなまえ・名字、君達の新しい仲間です」
「はあ!?」

アズラエルの言葉に私と三人の男達は同じく顔を歪ませる。新しい仲間?こいつらが?はっきり言ってナチュラルのMS操縦士は絶対おっさんみたいな人達だと思っていたからかなり驚いた。ナチュラルなのに私と変わらない年代の人達がほんとにMS操縦できるの?私はただただ三人の男を眺めていた。

「おっさん、そいつコーディネーターじゃねえのかよ」

三人の中で一番大人っぽいオールバックの男が睨みながらアズラエルに言う。

「そうですよ、捕虜として利用させてもらうんです」
「はあ?なんでコーディネーターなんかと一緒に戦わなきゃなんないんだよ!てかそいつって僕が落としたやつじゃない?」

赤い髪の男の言葉に反応して私はすぐ様そっちを見た。
まさかこいつがレイダーの?

「まあ、そんな感じですね」
「へえ、女だったんだあ」

そう言って赤い髪の男はじろじろ私を見て来た。
こいつが私を?同年代くらいの、しかもナチュラルなんかに自分が負けたのかと思うとものすごくイラついてくる。こんなやつに私が?

「お喋りはこのくらいにして自己紹介と行きますか。なまえさん、このオールバックがオルガ・サブナック、こっちの赤毛がクロト・ブエル、そして緑髪のシャニ・アンドラスです、覚えて下さいね?」

それだけ言うとアズラエルは足早に部屋から出て行った。静まり返った部屋の空気が鬱陶しくて私は部屋の隅のイスに座る。
地球軍に居るってだけで吐き気がするのに、こんなやつらなんかと仲間になんかなりたくない。私は三人に背を向け窓の外を眺める事にした。

「ねえ」

ふいに後ろから声をかけられ私は仕方なく後ろを振り返る。振り返って目線が合った相手はあいつ、クロト・ブエルだった。

「なんで地球軍に寝返ったわけ?やっぱ殺されたくないから?コーディネーターって言っても所詮ただの人間って事だよねえ、やっぱり」

クロトの言葉にピクリと眉が動く。

「つーかコーディネーターもたいした事なくない?あっさり僕に負けちゃうしさあ、てか自分が死なないなら仲間も裏切るってのが信じらんないよ」
「てめえはいっつも裏切ってんだろーが」
「うっせえオルガ!てめえだってそうだろーが!」
「クロトうざい、少しぐらい黙ったら?」
「うっせーよシャニ!!てめえが黙ってろ!」

三人が口喧嘩を始めた時、私の頭は怒りで満ちていた。
自分が死なないためなら仲間も裏切る?うるさい、ふざけんなよ。何も、何も知らないくせに、ナチュラルのくせに。

「うっせーよ!バカ野郎!!」
「バカって言った方がバカなんだよ!ブワァーカ!!」
「てめ、」
「うるさい!!」

怒りが頂点に達した私は声を張り上げた。一瞬で静まり返る三人。
三人の視線はもちろん私の方に向けられている。

「誰も好き好んでナチュラルなんかのとこにいるわけじゃないし!ベラベラと好き勝手な事言わないでくれる!?」

一気に喋ると私はそのまま部屋を出た。
なんなのよあいつら。あんなやつら絶対仲間なんかじゃない。帰りたい、ザフトに、みんなの所に、帰りたいよ。私は自室のベッドにうずくまり声を殺して泣いた。
私はまだ知らない、これは始まりの序章。赤い、赤い葉っぱが舞散る先の。

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