真っ暗な宇宙の中、私達はただ一点をめざす。前方からザフトのMSが近づいてくるのが見え、そこにはイザークの機体もたしかにあった。

「行くぜええ!!」
「ひゃっはー!撃滅!」
「うらああ!!」

3人はザフトのMSを見つけるなりすぐに襲い掛かって行った。私はその場に待機し、前方から来るイザークを待つ。イザークはまっすぐ私の元へ来ると即座に攻撃を仕掛けてきた。私達を囲む宇宙は戦場と化し、ところどころで爆発音や光が目や耳に入る。私はイザークと戦いながらこの光景を目に焼きつけていた。
あの3人は大丈夫だろうか。言いようのない不安が襲い、私はイザークから距離をとりつつあの3人の姿を探した。昨日オルガと話していたときから続いているこの恐怖、心臓がどくどくと鳴り響いているのが自分でもわかった。
私の位置から少し遠い場所にあの3人はいた。フリーダムとアスランの機体を相手にして戦っている。
あの3人は大丈夫。ほっと息をついた瞬間、大きな衝撃が私の機体を襲った。

「よそ見をするとはいい度胸だな!」
「…っ!」

目の前にはイザークの機体、私はすぐさまイザークから距離をとり攻撃を仕掛ける。今のイザークの攻撃で少し機体を損傷してしまった。なにをやっているんだ私は、よそ見なんてしていられない、このイザークとの闘いに集中することだけを考えるんだ。
大丈夫、あの3人は絶対に死んだりしない。

「あ、ぶないっ!」

私の視線の先には、アズラエルの乗る艦隊に攻撃を仕掛けている機体が。私は背後から追ってくるイザークをどうにか回避しながらその機体を破壊した。
その時、一瞬だけ目の前に真っ赤な葉っぱが降り注ぐ映像を見た。その赤い葉っぱの先にはシャニの後姿が。

「シャニ!!」

少しだけ遠くのほうで、大きな光が爆音と共に消えていった。

「シャニ!くっそ!!」

クロトとオルガの声が聞こえる。たしかにそれはシャニと、あの人の名前を口にしていた。
うそだ、そんな、シャニが。
唖然と立ち尽くしている私の機体に大きな衝撃が加わる。目の前にはイザークの機体。私の機体の腕を壊された、そう頭で理解しても私は一向に動こうとはせず、シャニが消えた遠い空間を見つめていた。そんな私に異変を感じたのか、イザークの動きがぴたりと止まった。
だめだ、早くイザークに攻撃しないと、じゃなきゃ私が殺される。でも、もうシャニは。
シャニはいない。

「シャニ、」

なまえにあえてよかった。
あの言葉が聞こえた気がして、それと同時に私の体から一気に力が抜けた。もういい、もういいんだ。再度小さくシャニと声を発すると、動かない私に対し敵からのビームが放たれたことがわかった。オルガとクロトの私を呼ぶ声が聞こえる、避けろと。でも今の私は、そのビームを食らうことを望んでいた。

シャニが死んだ。跡形も無く私達の前から消え去ってしまった。ガラガラと何かが崩れ、私の中は絶望ばかりが埋め尽くす。ビームの光がすぐ目の前に来た瞬間、私はゆっくりと目を閉じていた。これで私も死ぬ、オルガとクロトは生きて欲しい。イザーク、イザークは。
ゆっくりと目を開く。あれから私に痛みは伝わってこない。目の前にはイザークの機体があり、イザークがビームを防いだのだと理解した。

「イザーク」

なんで、あんたなにやってんのよ。なんで私を助ける真似なんて。
混乱している頭では今の現状を信じられず、目の前にいるイザークをただただ見つめていた。

「イザーク!お前、何を!」

アスランの怒りのこもった声が聞こえる。それにも何も反応を示さないイザーク。イザークが何を考えているのかわからない、どうして、なんで。
視線を変えると、オルガとクロトが私とイザークのほうに向かってきているのがわかった。

「オルガ、クロト」

すぐにでもイザークに攻撃を仕掛けるのかと思っていた私の考えとは裏腹に、ふたりはすぐそばまで来ると、私の機体をイザークの機体のほうへと押しつけた。

「なに、してんの」
「なまえ、もういい」
「え、」
「こいつと一緒にザフトに帰れ、お前はもう、仲間と戦うんじゃねえ」

オルガの言った言葉に私は目を見開いた。
なにを、いまさらなにを言い出すの、イザークもオルガもクロトも、今日はみんなおかしい。シャニが死んだことが原因で?それとも、本当に今日ですべてが終わるから?

「な、なに言ってんのよ!そんなこといまさら、私はちゃんと、もうイザーク達とは敵同士だって決めたのに!」
「お前はそうでも、少なくともそいつはそう思ってねえんじゃねえか」

オルガはそう言って、私の隣にいるイザークの機体に視線を送った。まだ一言も口を開いていないイザーク。
なんで私を守ったのか、本当にいまさら、敵同士になってからの覚悟なんてもうとっくの昔にしていたはずなのに。イザーク、あんたはどうして。

「ここまで来てめんどくせえこと考えてんなよ、まあお前がいなくても僕らはさびしくないし?お前だってほんとはずっと帰りたがってたじゃねーか」
「クロト、」
「そういうことだ、おいお前、悪いけどこいつのことあと頼むぜ、こいつ死なせたらオレがてめえをぶっ殺すからな」
「オルガ、なに言って」
「じゃあな、なまえ」

オルガは私の言葉に耳も貸さず軽く私の機体の頭を撫でると、クロトと一緒にフリーダムとアスランのほうへ行ってしまった。
待って、じゃあななんてそんな、いやだ。私はまだ一緒にいたい。
すぐにふたりのあとを追おうとするが、イザークがそれを許さなかった。
オルガの言葉を了解したように、無言で私を行かせまいとする。

「どいて!私はもう、イザーク達の仲間じゃない、薬がなきゃ生きられない!私は、私はあの3人のそばにいたい…!」
「オレは、お前のそばにいたい」

イザークの言葉は、静かに響いた。

「なにをしているんだ、イザーク!!」

イザークが私をザフトの艦隊へと連れていこうとする光景を見て、アスランが大声を張り上げた。アスランが近づいてくる。それを止めるかのように、オルガがアスランに攻撃を仕掛けた。まるで、私を早く連れて行けと言うかのように。

「イザーク!」

どうしていきなり、イザークはなにを考えてるの。
オルガが、クロトが戦ってるのに、私はこのままザフトに帰るの?

「イザーク離して!!あんたを倒さなきゃ、私は、」
「……」
「イザーク!聞こえてんでしょ!?イザーク!!」
「……」
「っ、イザーク!!」
「オレは…!」

イザークの大声と共に、遠く離れた背後で大きな爆発音が聞こえてきた。
ゆっくりと後ろを振り返る。オルガとクロトがいた場所に、ふたりの姿は無かった。

「オルガ!クロト!!」
「なまえ!!」

オルガとクロトのいた場所へすぐにでも行こうとした私の機体を、イザークが静止させた。
いやだやめて、うそだこんなの、今さっきまで私のそばにいて、私にじゃあなって言って話しかけてくれてたのに。さっきまでちゃんとそばに居てくれてたのに。
もう自分でも何がなんだかわからなかった。ただただあふれてくる涙を流して消えてしまったあの3人の名前を呼び、叫んで叫んでいかないでと。まだ一緒にいたい、じゃあななんてそんなのいらない、だから。

「なんでなんで、なんで!!」
「なまえ落ち着け!!なまえ!」

泣き叫ぶ私を必死に抑えるイザーク。その光景を遠く離れた場所から見ているフリーダム、アスランとディアッカ、そしてニコルは唖然と立ち尽くしていた。
必死に私に向かってくる攻撃物を阻止しているイザークのそばで泣き叫んでいた私の体に、大きな痛みが走った。口に手を当て何かを吐き出す。手のひらは真っ赤な血で染まっていた。
薬の効果が切れた。死ぬほどの痛みはあっても、今まで血なんて吐いたことなかったのに。
今までの体への蓄積、そして今日の異常なほどの量の薬を飲んだことで、私の体は限界を超えたのだろうと直感的に思った。

私の体は、もうだめなんだ。
目の前にいるイザークの機体を思いっきり蹴り上げ、私は即座にアスランに向かって行った。背後からイザークの私を呼ぶ声が聞こえる。
向かってくる私に、アスランはゆっくりと構えた。

「なまえ!!」

イザークの叫び声と同時に、私の機体はアスランではない敵の攻撃によって破壊された。
一瞬の光と痛み。
暗い宇宙で、イザークの私を呼ぶ声だけがいつまでも響いていた。


ゆっくり目を開く。私がたたずむ空間は真っ暗で何の音も聞こえない、静かだった。この場所にくるのは久しぶりで、もうほとんど私はこんな場所を忘れていた。連合にきた当時はあんなに何度も夢で来た場所だったのに。
一歩、足を踏み出す。それと同時に、たくさんの真っ赤な葉っぱが頭上から舞い落ちてきた。どうして私はここにいるんだろう、本当に私は死んでしまったのだろうか。
ふいに足を止めた。少し先のほうには、会いたくてたまらなかったあの3人の後ろ姿が。
うそ、ほんとに、ほんとにあの3人?

「オルガ!シャニ!クロト!」

3人を呼び、私は嬉しさのあまり急いで彼らの元へと駆け寄った。
何度呼んでも返事がない。私に背中を向けたまま、3人はじっと動かない。

「ねえ、どうしたの…」

オルガの腕に手を伸ばした瞬間、3人は私の手から逃れるようにゆっくりと歩き出した。何も言わず、何も話さず、私に背中だけを見せ、一歩一歩暗い闇のほうへと歩いていく。だめ、そっちに行かないで。直感的に思った、そっちに行ったらもう二度と会えなくなってしまうと。
彼らを連れ戻そうと走りだそうとしたとき、3人が背中を向けたまま小さく私の名前を呼んだ。
その声に私は顔を上げ、暗闇へと進む彼らに視線を向ける。3人が歩きながら、私に顔も向けずにバイバイと手を振っているのが見えた。そしてオルガが人差し指を上に向け、何かを指し示している。不思議に思いながらも顔を頭上に向けた。そういえば、ここへは夢で何度も来たけど一度も上を見ようとはしなかった。
赤い葉っぱが降り注ぐ原点となる頭上、そこに見えたものに、私は目を見開いた。

「青空……」

周りが真っ暗だったから気づかなかった。頭上には綺麗な青空が広がっている。なんでこんな青空なんて。
とっさに暗闇へと歩いている3人に視線を向けると、3人の姿はほとんど見えないほど遠く離れていた。

「待って!!」

急いで3人のあとを追う。私の声に耳も貸さずに3人は暗闇へと消えていく。
私も暗闇へと足を踏み入れようとしたとき、頭上に広がる青空からたしかに聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「なまえ!!」

はっきりとその声は私の名前を呼んでいる。どこかで聞いたことのある声。
いつも私のそばにいて、いつも私の心配をしてくれて、いつも私の名前を呼んでいた。
そうだ、この声は。

「イザーク!!」

そう叫んだ瞬間、突然赤い葉っぱが私を包み込むように降り注ぎ、私は綺麗な青空へ向かっていく。少しだけ振り返ると、私を見つめる3人の姿が目に入った。青空へ向かう私に、3人は小さく笑顔を浮かべている。よかったとでも言うように私を見つめている。
3人が小さくお前は生きろと、呟いたような気がした。


ゆっくりと目を開く。真っ白な空間の眩しい光が目に入り、私は目を擦りながら辺りを見渡した。薬品の匂いが鼻をつく。たくさんの点滴が自分につけられていることから、病室にいるのだと理解した。体を起こそうと力を入れると鋭い痛みが体中を這いずり回る。それに耐えながら上半身を起こした。

「……イザーク」

なぜかイザークが椅子に座り私のベッドに顔をうつ伏せ、静かに眠っている。もしかしてずっと見ていてくれたのだろうか。そうだ、私は。
手を動かそうと身をよじる。右手両足は焼けるように痛いが、なんとか動く左手をイザークの頭の上に乗せた。

私は、生きている。
あのとき、もし、彼らの元に行っていたらどうなっていたんだろう。たぶん私もここにはいない存在になっていたに違いない。最後の最後まで彼らは私を助けてくれた。
生きていることをたしかめるようにゆっくりとイザークの頭を撫でると、突然イザークがガバッと起き上がり、驚いたように私を見つめた。

「なまえ、目が覚めたのか!?」
「うん、今覚めたけど」

イザークはあふれる涙を隠すように、強く私を抱き締めてきた。苦しいと言ってもイザークは私を離そうとしない。
私が生きているとたしかめるかのように、強く強く抱き締めている。

「イザーク、腕、痛い、」
「なまえ!今まで悪かった、覚悟はしてもお前を殺すなんてこと、オレにはできなかった」
「…うん」
「お前が、お前が死んだと思ったとき、オレは本当に後悔した…!お前が、死んだなんて考えたくもなかった」

イザークは声を震わせ、必死に私を抱き締めている。そんなイザークの背中に動く左手だけを添えた。
イザークも私が連合に行ってからたくさん苦しんだんだ。連合は本当にいやだった。でもあの3人がいて、あの3人に出会えたから。
私は今、ここにいる。

「イザーク、ありがとう」

またイザークとこうして会うことが出来てよかった。
そう呟くと、イザークは私を見つめてくる。イザークの目は涙で赤くなっていた。

「……好きだ」

もうずっと前から。ずっとずっと、なまえが好きだった。
私を再度強く抱き締めるイザークと共に、降り注いでいた赤い葉っぱが止んだ気がした。

わたしに同化するすべてのものよ愛よ

その風は流れるように一定の速度を守っている。
君が幸せになりますようにと、祈りながら。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -