なんだかあれ以来ずっと体がだるい。とにかく疲れた。
あのときのことを考えるのが、怖い。
私は自室にもあいつらが居る部屋にも居る気にはなれず、ただただ廊下を歩いていた。鈍い痛みが走る腹部に手を添え、ゆっくりと歩く。

「おい」

頭上から低い声が聞こえ、下に向けていた視線をゆっくりと上にあげる。
目の前にはオルガがいた。

「腹、まだいてえのか」

そう言って私が手でおさえている腹部に視線を落とす。私はオルガと目を合わせないように顔を背けた。

「……ちょっと痛いだけ」

それだけ言って、さっさとこの場から立ち去ろうとしたのに。オルガはそんな私の行動なんか無視して、私の行く先に立っている。無意識にオルガを睨み上げていた。

「どいて」
「傷、見せてみろ」
「は、意味分かんない」
「どうせ包帯かえてねえんだろ」
「お風呂入ってるんだからかえてるに決まってんじゃん」
「そうかよ、そんじゃ傷の具合見せてみろ」
「なんであんたにお腹見せなきゃなんないのよ、変態」
「んな、」

私の暴言にオルガは眉を吊り上げた。無視して立ち去ろうとする私の腕を引っ張るオルガ。私はなかば呆れた状態でオルガに向き直った。

「あのさ、いい加減にしてくれない?」
「うっせえ、…忘れんな」
「なにを」
「オ、オレが、ここに」

オルガは視線を泳がせながら必死に言葉を口にしている。
私はただじっと耳を澄ませていた。

「オレがここに、いること、忘れんなよ…」

真っ赤な顔で、オルガは小さく呟いた。

「……わかった」

私は聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟き、オルガの手を解きその場から去って行く。後ろからオルガのついてくる気配はない。
変なの、あいつらしくない言葉。
それでも、ほんの少しだけ体が軽くなった気がした。

「あ、」
「……」

なんてタイミング。さっきオルガに会ったばかりなのに今度はこいつか。
小さくため息をついた私は壁に体をもたれ、シャニが横を通り過ぎるのをひたすら待った。

「まだ痛いの?」
「…ちょっと」

ああもう、なんでこいつは私の目の前で止まるんですか。
シャニの視線の先はやっぱり私の腹部。

「ちゃんと手当てしてる?」
「してる」
「うそ、なまえがするわけないじゃん」
「あんた私を何だと思ってんのよ」
「さあ」

まったく、こいつはなんなんだ。
趣旨の分からない会話をし、深くため息を吐く。そんな私の頭を子供をあやすように優しく撫でるシャニ。

「…なに」
「いいこいいこ」
「いや、わけわかんないから」
「大丈夫だよ」
「は、」
「大丈夫、大丈夫」

なにが、あんたは何のこと言ってんの。そんなことは分からない、けど。
たぶん、きっと。

「…うん、わかったよシャニ」

そう呟いた私にシャニは何も言わずに頭から手を退けると、そのまま歩いて行ってしまった。
大丈夫、大丈夫って。なにがとか、よく分からないけど。きっと先日の戦闘のことを言ってくれてるのかなと思ったりした。
自室の前に来た私はゆっくりと足を運ぶ。それと同時に隣のやつの扉も開いた。

「……」
「…あ、」

なんだか今日は一気に3人に会ってしまった。自室に入ろうとしている私と自室から出てこようとしているクロト。数秒の間のあと、クロトはなんだか気まずそうに視線を逸らした。

「……腹、まだいてえの」
「それ聞かれるのあんたで3回目なんだけど」
「は!?あいつらも同じこと聞いてんのかよ!?」
「そーです」

クロトはなぜだか思いっきり眉間にシワを寄せる。あいにくクロトに付き合う体力もなかったため、私はさっさと自室に入ろうとした。ロックを解除して自室に入る。扉が閉まる瞬間、背後からクロトの声が聞こえてきた。

「バ、ブワァーカ!!」

扉が閉まり静まり返った室内で、私はひとり固まっていた。あの野郎。怒りで震える拳を必死で押さえベッドに腰かける。
体はどこもかしこも痛いし、あの日からの脱力感はまだある。もう何もかも無気力だった。でも、今さっきあいつらに会って、私はこの部屋から出て行くときより元気になった気がする。
ディアッカを殺した罪は消えない。私はその罪を背負って、また人を殺す。今までもこれからも、ずっとそうだったから。イザークが私を殺してくれるまで。

「……ありがと」

誰もいない室内に私の言葉は虚しく広がった。
不器用ながら私を気にかけてくれたあの3人へ、少しのお礼を呟く。

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