こんなにもつらくて、そして弱い彼ら。
一瞬でも、離したくないと思ってしまった。

「飯、食いにいこうぜ」

翌朝、私の自室に訪ねてきたオルガに対してうんと返事をした。よく見るとオルガのほかにシャニしか居ない事が分かる。あいつがいない。

「ねえ、あいつは?」

問いかけるとオルガは、ああと言って口を開いた。

「なんか知らねえけど、今日は飯いらねーって言ってたぜ」
「ふーん」

昨日の事でも気にしてんのかな。
そんな事を考えながら、私はさっさとふたりと一緒に食堂へと足を進めて行った。

朝食終了後。
アズラエルから今日も戦闘が無いことを聞き、私達は3人でいつもの部屋でそれぞれの時間を楽しんでいた。オルガはいつも通り本を読み、シャニもいつも通りアイマスクを付け曲を聴いている。私は以前オルガから借りた小説を読み始めた。
あいつ、まだ部屋に居るのかな。
あいつの事だ、昨日の事で私に何かと言われるのがいやなんだろう。私もそこまで最低なやつじゃないのに。
いつまで経っても姿を現さないクロトに対し、大きくため息を漏らした。読んでいた小説をテーブルに置き、ゆっくりと歩き出す。

「……ちょっとジュース買ってくるね」

一応それらしい理由をつけてその部屋をあとにした。ったく、あのバカクロト。なんて言ってやろうかと考えながら廊下を歩いていると、ひそひそと小さな話し声が近くの部屋から聞こえてきた。不審に思い、ゆっくりとその部屋を覗いてみる。そこには4人の軍服を着た30代くらいの軍人達がいた。

「アズラエル様はあのコーディネーターを使って何をするおつもりなんだ?」
「あの女に薬を試した以外は何も聞き出そうとしていないじゃないか」
「アズラエル様のお考えになられる事だ、あの女を使って何かするおつもりなんだろう」
「あれを使って?確かにコーディネーターはオレ達とは違うからな」
「まあ、あの女が気に食わないなら好きにしていいとアズラエル様はおっしゃったんだから、イラついたらあの女を好きにやっちまおうぜ」

男達の話を聞いて一瞬、息をする事を忘れてしまった。私は男達に気付かれないようにゆっくりとその場を離れようとした。その瞬間、後ろから思いっきり肩を掴まれる。

「これはこれは、コーディネーター様がこんな所で立ち聞きとは、趣味が悪いですねえ」

最悪だ。
その男は部屋の中に居る男達の仲間だったようで、すぐに仲間に声をかけた。

「おいお前ら、コーディネーターに立ち聞きされてるぞ」
「な、この女!いつからいやがった!?」
「まあいいじゃねえか、丁度アズラエル様から許可も貰ってることだし」
「楽しませてもらおうぜ」

男達は口元を歪ませ、私を部屋の中へと引きずりこんで行く。

「離せ!!」

力一杯抵抗してみたが、それはあまり意味を成さなかった。男達はニヤリと口元を歪ませ、私をソファの上に放り投げる。私は恐怖で声が出なかった。

「さ、さわんないで!!」
「うっせえガキだな、少しは黙れよ」

男達がゆっくりと、私の軍服に手をかけて行く。ゾクリと、悪寒が走った。
気持ち悪い、触らないで、誰か。

「離せ!!」

思いっきり腕を振ったらひとりの男の顔にそれが当たった。
その瞬間、男は凄い形相で私の顔を一発殴りつけてくる。

「このクソアマ!ざけんじゃねえよ!ぶっ殺してやる!」
「おいやめろ!気絶したら楽しめねえじゃねーか!」

尚も殴り続けようとしている男を止め、他の男達は危ない危ないと笑いあった。

「じゃ、続けるぜ」
「や、やめ、」

ねっとりと、男の舌が私の首筋を這う。その感触に私はひっと声を上げた。

「なんだこの女、初めてかよ?」
「ラッキー!軍人やっててよかったぜー!」

ハハッと笑った男はそのまま舌を私の鎖骨に移動させる。気持ち悪くて、吐き気がした。男は手を休めずに、ゆっくりと私の軍服の中に手を入れていく。
いやだ、誰か助けて!

「へえ、面白そうなことやってんじゃん」
「なっ!?」

いきなり扉の方から声が聞こえ、焦った男達はすぐに声のした方に顔を向けた。そこにはニヤリと怪しく笑う、見覚えのある彼が。

「シャ、ニ…」
「オレも混ぜてよ」

そう言った瞬間、シャニは勢いよく男達を蹴り上げ壁に叩きつけていく。次々と倒れていく男達は完全に意識を失っていた。
最後のひとりの髪を引っ張り上げ、シャニは顔を近づけて一言言葉を漏らす。

「今度うざい真似したら、殺すよ…」

その言葉と同時に男を殴りつけ、立っているのはシャニだけとなった。シャニは疲れたと言って、肩に手をやりながら私の方に近づいてくる。私の目の前まで来ると、屈んで私の頬に手を添えてきた。

「ほっぺた赤くなってんじゃん、こいつらに殴られたの?」
「だ、大丈夫、ありがとシャニ」

シャニの顔を見た瞬間、安心した私は目から零れ落ちそうになっている涙を必死に堪えていた。そんな私を見て、シャニは私の首元に視線を落とす。

「…キスマークついてる」
「え、」

シャニの言葉を聞いて、私は急いで首元を隠した。きっとあの時だ。さっきのおぞましい光景を思い出し、ぎゅっと手を握り締めた。

「なまえご褒美」
「は?」
「助けたんだからオレにご褒美ちょうだい」

は?いきなり何言ってんのこいつ。

「ご褒美って、何もあげるものなんて無いけど」
「じゃあキスでいいよ」
「は!?」
「お礼はオレにキスでいいって言ってんの」

突然の意味不明な発言に、私は思いっきり眉間にシワを寄せた。

「助けてあげたのにオレにご褒美くれないの?」
「いや、ご褒美ってあんたねえ」
「ふーん、それじゃ今の事オルガ達に話してくるから」
「は!?なんでよ!?」
「なまえは淫乱女なんだって言うよ、いいの?」
「んなっ!」

絶句する私に向かってニヤリと口元を歪ませるシャニ。こいつ、私の事脅してやがる。
根っからのサド野郎だとやっとで理解した私はハアと大きくため息をついた。

「んじゃ、言ってくるね」
「ちょ、ちょっと待って!」
「何?してくれんの?」
「う、そっその」

シャニを止めたはいいものの、なんて言っていいのか分からない。こいつがこんなやつだったなんて。
いつまでたっても答えを出さない私に痺れを切らしたのか、シャニはゆっくりと私の襟元に手を掛けてきた。

「なまえがしたくないならオレがする」
「は?何を、」

私が喋る途中でシャニは私の首元に唇を近づけ、チリッと少し痛いくらい吸い付いてきた。

「シャ、シャニ、あんたまさか」

わなわなと震える私に向かって、シャニは意地悪そうに笑う。

「イエーイ、なまえにキスマークつけたー」
「あ、あんたねえ!」
「これがご褒美って事にしといてやるよ」
「ふざけんなー!」

そそくさと逃げ出すシャニを追いかけ、私も急いでそのあとを追った。


「あの野郎、今度会ったらただじゃおかない…」

自室に戻った私はシャワーから上がりぶつぶつと独り言を言っていた。鏡で首元を見てみると、キスマークが2つしっかりとついているのが分かる。私はため息をつきながら首元を隠した。

でも、シャニのおかげであの男達の事を忘れてた。
いつまでもあんな事を覚えていたくない。私は頬に湿布を貼りつつ、自室を出た。

「……あ」
「ゲッ」

私が自室を出たと同時にクロトの自室の扉も開き、今まさに向かい合っている状態。
クロトは私を見た瞬間、顔を真っ赤に染めてすぐに自室の中へ戻ろうとした。

「ちょ、待てってば!」

私も急いでクロトの自室に入り、クロトは入って来た私を見て口をぱくぱくとさせている。

「な、なんでてめえも入ってくんだよ!」
「あんたが私の事避けてるからでしょ!」
「さ、避けてねーよ!ブワァーカ!」
「ふーん」

顔を真っ赤にさせて目線を泳がせるクロトに疑問を持ちつつ、さっさと本題を口にした。

「私、昨日のこと誰にも言ってないよ」
「なっ、」
「だからあんたも気にしないで普通にしてたら?バーカ」

それだけだからと言ってクロトの部屋から出ようとした瞬間、ぐいっと腕を掴まれて私は瞬時にクロトのほうへ視線を向ける。

「なに?」
「お、お前、それどうしたんだよ」
「それって、これのこと?」
「いいからさっさと言いやがれ!ブワァーカ!」

顔を真っ赤にしながらクロトは恥ずかしそうに大声を上げる。何こいつ、私の頬の腫れなんて気にして。
私はやれやれと肩をすくめて適当に言葉を並べた。

「むかついたんで自分で自分を殴りましたー」
「はあ!?お前バッカじゃねーの!?」
「あんたにだけは言われたくないんだけど」

ベーと舌を出すと、クロトはムッとした表情をする。
クロトは私を掴んでいる手とは反対の手を、私の怪我をしているほうの頬に添えた。

「クロト?」
「バ、ブワァーカ」

あんたがね。
ほんとは、そう言いたかったけど。クロトがあんまりにも恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めるもんだから。私は黙って頬に添えているクロトの手に自分の手を添えた。
それを見て、クロトの顔はますます真っ赤に染まっていく。

「心配しなくても大丈夫。私、打たれ強いから」
「し、心配なんてしてねえよ!」
「あっそ、じゃーね」

するりとクロトの手を外し、クロトの自室から出て行く。
出る直前に見たクロトは相変わらず顔を真っ赤にして、私に向かってベーと舌を出していた。

「…あいつも人の心配するんだねえ」

ちょっとだけ、嬉しかった。

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