無敵

「あのとき私は、自分のことを無敵だと思いました」
「いつ?」
「悪魔を殺したときです」
「あの悪魔はどうやって殺したの?」
「友達の悪魔に殺してもらいました」
「友達の悪魔はどんな悪魔なのか教えてもらえる?」
「秘密です」
「友達の悪魔とはどうやって知り合ったの?」
「それも秘密です」
「じゃあ悪魔を殺したとき、どう思ったのかもう一度教えてくれる?」
「……子供っぽいですか?」

私の問いにマキマさんは首を傾げた。穏やかな表情をはりつけたその顔は不気味なほど美しい。まっすぐにこちらを見つめるその視線から言いようのないプレッシャーを感じたが、私はその程度のことではまったく動じなかった。なぜなら。

「無敵」

マキマさんはにこりと微笑んだ。

「サヤちゃんはデンジくんと同じ年齢だから、まだ子供だよ」

そう言ってようこそと手を差し伸べてきたときのことを、私はいまだに覚えている。



「天童ちゃん、サヤちゃんを少しの間お願いね」
「はい」
「サヤちゃん、天童ちゃんの言うことをよくきいておくんだよ」
「マ、マキマさん、今からなにをするんですか…?」
「秘密」

穏やかに微笑むマキマさんは、そのまま私たちから離れていってしまった。
一秒ごとにめまぐるしく変わりゆく現状に私はついていくことができず、ただ情けなくうろたえるばかり。

新幹線で不意打ちの銃弾をくらったはずのマキマさんはなぜか生きていた。私自身もなぜ生きているのかわからない。気づいたときには敵は腹に穴を開けて死んでいた。混乱するまま京都に到着し、待っていたふたりに指示をだしたマキマさんのその指示内容にさらに混乱は増していく。

私たちは今、標高の高い神社にいて、マキマさんの前には終身刑以上の犯罪者がずらりと地面に座らされている。全員縛られた上に目隠しをされている状態だった。

「目隠しをして」
「え、え?」
「早く」

天童という女性がもたつく私に無理やり目隠しを施していく。されるがままの私は真っ暗な視界の中、隣にいる黒瀬という男性の声を聞いた。

「なぜ俺たちも目隠しを…?」
「マキマさんは内閣官房長官直属のデビルハンターだ、一端のデビルハンターじゃ契約している悪魔を知ることは許されない」

天童さんの言葉を何度も脳内で再生する。次第に内容を理解していくと混乱と共に驚きや焦り、そして疑問が頭の中を埋め尽くしていった。
なぜ、私はそんなすごい人と一緒にここにいるのか。偉い方との会食だとマキマさんは言っていた。遠出できるのが楽しみで深くは考えていなかったが、わざわざ下っ端の私を連れていくことはおかしいことなんじゃないだろうか。姫野先輩や早川先輩すら置いて私を連れていく、その理由は。

もしかしてマキマさんは、最初からこうなることを知っていたのかもしれない。
そう考えると私でなければならなかった理由も見えてくる。

「外して良し」

私の思考を止めたのは、マキマさんの透き通るような声だった。
恐る恐る目隠しを外して真っ先に確認できたのは、座っていたはずの犯罪者たちが皆一様に地面に倒れている姿だった。

「ここで私ができることは終わりました、東京に戻ります」

そう口にするマキマさんは美しかった。凛とした佇まいは神社の雰囲気によって神々しくさえ見えてしまう。その足元でぴくりとも動かずに倒れている何人もの人間は、その神々しさ故にそうなってしまったのか。
残酷で美しい、圧倒的な存在がそこにはあった。

マキマさんは最初からこうなることを知っていた。知っていた上であえて私を連れてきた。それはほかの誰でもなく、私でなければならなかった。
私に、本当の無敵というものを教えるために。

マキマさんは私を見つめて、穏やかに微笑んだ。


運命の女の子/無敵パロ

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