ゴーストが笑うのだ、
きみの幸せになりたいと

姫野先輩が死んでから、それは私の周りをさまよい続けている。

「デンジ、先に行ってて」
「あ?どうした、便所かよ」
「そうだよ、だから先行って」
「ちゃんとケツ拭いてこいよー」

デンジの言葉を軽く聞き流しつつ、建物の隙間を縫って人通りのないほうへと進んでいく。そうすると、わかりやすくそいつが嬉しそうにするものだから、私はなんだか面白くなくなりじっとりとそいつを睨み上げてしまう。そこには汚れたアスファルトしかない。

「いつまでつけまわす気だよ、ストーカー」

ふいに冷えた空気が頬を撫で上げた。忌々しげに手で払う仕草をすると、喉を鳴らして笑う声が頭上を通りすぎる。
そうしてやっとのことで姿を現したそいつは、仮面のようにはりついた微笑みを浮かべて私を見下ろしていた。

「お前、姫野先輩のゴーストだね、私になんの用なの」
「サヤ」

ぴくりと、自分の片眉が動いたのがわかる。なぜ私の名前を。首を傾げる私を見てもゴーストは楽しそうに微笑むばかり。

「私はサヤが欲しい、サヤ、私は契約を交渉する」
「契約?なんで私なの」
「私はあの女と契約していたときからずっとサヤを見ていた、ずっとずっと、サヤが欲しいと思っていた」
「いろいろ言ってるけどさあ、結局は姫野先輩だけじゃものたりないってだけでしょ」

ゴーストは微笑んだ。元から微笑んでいたものからもっと深く、慈しみをこめて。

「……いいよ、どうせ断ってもずっとつけまわされそうだし、契約してあげる」

ゴーストの微笑みがどこか喜んでいるように見える。ひんやりとした冷めた気配が少しだけあたたかくなった気がした。
さて、なにを差しだそうか。姫野先輩は右目を食べさせていたはず。目を失うのはいやだなあと考えている私のそばへ、なぜかゴーストが顔を寄せてくる。

「なに?」
「キスをしてやろう」
「いらない」
「唇にだよ」
「もっといらない」

微笑むゴーストが少しだけ拗ねたように感じたのは、きっと私の気のせいだろう。

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