ふれられるしあわせのすべてよ、君よ
契約者が肉体のすべてをゴーストに捧げ消滅した。
ゴーストが次に契約したのはサヤだった。
「本当は両目を食べさせてお前の両手を使いたかったんだけど」
がりがりと眼帯の上から左目をかきむしるサヤは、病室のベッドの上であぐらをかいて座り、ひとりごとのように呟く。
「そうすると全然見えなくなっちゃって、デビルハンターとして使い物にならなくなっちゃうし」
サヤの右目が残念そうに細められるが、目玉の中心を陣取る黒はどこか喜んでいるように感じられる。
契約時、サヤはあの女とは逆の目をゴーストに差しだした。
「しょうがないから今はこれで我慢するよ」
サヤはそう言ってにやりと口角をあげた。誰もいない病室で、なにも存在しない空間を見つめながら。
サヤはあの女の後輩だった。よく一緒に行動していたことを、あの女と契約していたゴーストは知っていた。
ゴーストの透明な左手がサヤへと伸びていく。それはどこにもふれることはなくサヤの体を貫通した。手を開いて閉じてみたが掴めるものはなにもなく、すべてが無意味に終わる。
「……早川先輩にはやく会いたいなあ」
ひっそりとした声は静かな病室に影を落とす。
ゴーストはもう一度サヤに手を伸ばしてみたが、その手にふれるものはなにもなかった。