ふてぶてしい来客

殺伐としたデビルハンターとしての日々の中で、休日というのは心身ともに安らげる唯一の時間だった。

「喜べサヤ!ワシが来てやったぞー!!」

乱暴に開けられた玄関から無遠慮に入りこんできたパワーは、居間のソファに寝転ぶ私を見てにんまりと笑みを浮かべる。露骨に嫌そうな顔をしても、パワーは気にもとめずに人差し指をこちらに向けてきた。

「それはワシのソファじゃ!人間風情が使っていい物ではないわ!」
「いや、私のソファなんだけど…」
「いーやワシのじゃ!ウヌはさっさとワシを盛大にもてなす準備をせんか!」
「ええ?いやだよ、なんで私が」
「そうじゃのう、今は鳥が食べたい気分じゃ、唐揚げを所望する!」
「話聞いてる?」
「唐揚げじゃ!!」
「……はいはい、わかりましたよ」

仕方なく重い腰を上げるとパワーはすぐさまソファにダイブする。さっきまで私が寝転んでいた場所に同じく横になると、早くしろとふてぶてしい態度で命令してきた。
なぜせっかくの休日まで魔人に振り回されなければならないのか。これで今日の休日はなくなったのと同じだと思うとため息が止まらなかった。

パワーはいつの頃からか、私が休日のたびに無理やり家に押しかけてくるようになった。鍵をかけても魔人の力で容易く突破されるため意味がなく、私は休日のたびにパワーの召使いと化していた。
律儀に唐揚げを作りながらぼんやりと考える。どうしてこんなに懐かれてしまったのか。頭のネジがぶっ飛んだ連中が多いデビルハンターの中で、まだまだ新米の私は日々をびくびくと怯えながら過ごしていた。だから目をつけられたのかもしれない。パワーは自分より弱い者には無駄に強気なのを思いだし、再度深いため息をついた。

「なにをうなだれておる」

いつの間に近くに来ていたのか、隣にはパワーが立っていた。その視線は私の手の中にある唐揚げに釘づけになっている。

「なんでもないよ」
「遠慮するでない!ほら、話してみるがいい」
「いや、その……」
「サヤのことじゃ、どうせ自分が弱いことに悩んでいたんじゃろ?なっさけないのう、これだから人間は」

そう言って声をあげて笑うパワーの姿にむっとした私は、顔を背けて唐揚げを作っていた手を止める。ここまで言われて黙っていられるほど私だって弱くないんだと、反撃の言葉を口にしようする私を止めたのはほかでもないパワーの言葉だった。

「安心せい、サヤのことはワシが守ってやるからの」
「……え?」
「なんじゃその顔は、手下のひとりくらいワシが守ってやるわ」

聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がするが、それよりも言われた言葉の衝撃が強すぎて唖然とするしかなかった。言いかけた言葉はすっかり喉にはりついてしまっている。にっこり微笑むパワーの瞳に優しさがにじんでいるようで、なんだかむずがゆく居心地の悪さを感じてしまった。
どこまでもパワーに打ち負かされているようで悔しくなった私は、わざと悲しげな表情を作りそっと目をそらした。

「……ひどい」
「え?」
「私が弱いのは知ってるけど、そんなに弱いって言わなくてもいいじゃん」
「なんじゃ、どうしたサヤ?」
「もうやだ、こっちこないで」
「え!?」

背を向けると後ろからあたふたしているパワーの声が聞こえてきて、こっそりとほくそ笑む。たまにはパワーも私に振り回されればいい。
存分にパワーが困っている様子を堪能できたことに満足した私は、にこやかに後ろを振り返った。目の前の信じがたい光景に、冗談だよと言いかけた言葉はまたもや喉にはりついてしまう。

「……サヤ」

うるうるとした瞳でこちらを見つめてくるパワーは、聞いたこともないか細い声で私を呼んだ。
捨てられた子犬のようなパワーの姿に、開いた口が塞がらない。

「怒ったのか……?」
「え、」
「こっちにくるなと言ったじゃろ」
「言った、けど……」
「……」
「いや、その、嘘だよ」
「嘘……?」
「うん、嘘……」
「……ほんとか?」
「う、うん、怒ってないよ、大丈夫……」

ほっと息をつくパワーにつられて私も細く息を吐く。驚きから動けずにいる私にパワーは声を荒げた。

「サヤ、唐揚げはどうした!」
「え、まだです…」
「なにをぼけっとしておる!さっさと作るのじゃ!」
「あ、はい」
「早くせんか!ワシは腹ペコじゃぞー!!」
「わかったよ……」

すでにいつものパワーに戻っていた。さっきまでのことが現実であったことだなんていまだに信じられない。なんだか今日はいろんなパワーを見てしまった気がする。

ひとりだったら決して味わえなかったひとときに、こんな休日も悪くはないかもしれないとひそかに思った。


title by 大佐

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