06 おもいやり

「ちんたら歩いてんじゃねえよリリー!」

背中を襲った衝撃で体が前のめりに倒れそうになるのを、足を踏ん張ってなんとかこらえた。振り返るとにやにや笑みを浮かべる友達の姿がある。
大学からの帰り道。あまり嬉しくないその存在に内心ため息をつく。今日はひとりで帰りたかったのに。

「お前ひとりか?カーリーはどうした?」
「今日は彼氏とデート」
「ああなるほどね、ひとり者は辛いよなあリリー」
「そうだね」
「…お前、ほんと最近ノリが悪くなったよな」

じっとりとした視線を向けてくる友達に見向きもせず、前を見据えたまま歩き続ける。友達はからかうのを諦めたらしいが、私の隣を歩くのはやめないらしい。いつの間にかふたりで帰る雰囲気になってしまったが、私がほとんど反応を返さないので気まずい沈黙が続いた。

友達には悪いが、昨日ラチェットとあんなことがあったおかげで今日の私の気分は最悪だ。ラチェットと会う前までは、友達と喧嘩しても次の日には仲直りしてすぐいつも通りに戻っていたのに。
ラチェットが相手だと、どうしても素直になることができない。どんなに簡単なことでも、すべてうまくいかない。

「あれってカーリーか?」

黙々と歩き続けていた私を止めたのは、隣を歩いているはずの友達の声だった。足を止めて振り返ると半歩後ろで立ち止まっている友達が、私に教えるように指差しをする。その指先を辿った先にカーリーとスパイクの姿があった。
ふたりは私たちには気づかず、楽しそうに身を寄せ合って歩いている。

「なんだよ、すげーラブラブじゃん」
「……」
「幸せそうでいいな」

幸せ。まさに今のカーリーとスパイクにはその言葉がぴったりとあてはまる。
ふたりで笑いあうその姿に胸が締めつけられ、焦がれるように目が離せなかった。

「俺らにも誰かいねえかな、なあリリー」

私の脳裏にひっそりと白い彼の姿が浮かんだ。



カップラーメンを手にした私は、リモコンでチャンネルを回しながら椅子に腰を下ろす。
ひとり暮らしを始めてから、晩ご飯を作るのが面倒なときはいつもカップラーメンだった。用意したお湯を注いで蓋を閉じる。カップラーメン越しに見えるテレビの画面を見つめ、できあがるまでの3分間を待つ。せっかくだから短いようで長いこの待ち時間を有効利用しようと思った。

私は愛について考えることにした。

今日のカーリーとスパイクの姿を見てわかったことがある。愛とは相手を思いやること。私のような押しつけるだけの愛は本当の愛じゃない。
思い返せば、私の愛はずいぶん自分勝手なものだった。私の身勝手な思いで何度もラチェットを傷つけてしまった。本当は一番優しくしてあげたいのに。

私はラチェットに幸せになってほしい。デストロンと戦っているこの状況で思うことじゃないかもしれないが、それでも願う。目を閉じると暗闇の中にカーリーとスパイクの幸せそうに笑いあう姿が浮かび上がり、それを打ち消すように瞼を押し上げた。
きっと、ラチェットを幸せにできる相手は私じゃない。たくさんひどいことをしてきた私のことを、ラチェットは嫌っているはずだ。お前のことを好きになるやつなんていねえよ。ずっと前に友達に言われたその言葉は的確で、本当にその通りだと思った。

ラチェットに傷ついてほしくない。地球上の誰より一番幸せになってほしい。そのためにはどうするべきか。答えはすぐにみつかった。ラチェットを傷つけているのは私自身じゃないか。
ラチェットを傷つけるだけのこんな愛なんて、なくなってしまえばいい。私の愛がなくなることで、少しでもラチェットの心が安らぐのなら。私は一生ラチェットに会えなくてもいい。

結論がでた頃にはカップラーメンもできあがっていた。ちょうどいい硬さの麺をすすり飢えを満たしていく。味はしなかった。

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