02 ざまあみろ

カーリーにサイバトロン基地に連れてきてもらってから、私は頻繁に基地に顔をだしている。
視界の端に白い体の存在を確認し、背を向けて座った。

「バンブルたちって戦い以外はなにしてるの?」
「ドライブとか、バスケとかアメフトかな」
「え!バスケとアメフトもできるの!?」
「もちろんさ!今度リリーも一緒にやろうよ!」
「やるやる!」
「ねえリリー!ちょっとこっちにきて!ラチェットが面白いことしてるのよ!」

カーリーの言葉につられてバンブルが立ち上がる。一緒に見に行こうと私の腕を掴むバンブルの手を、やんわりと撫でた。

「私はいいよ、バンブルだけ行ってきて」
「でもカーリーは君を呼んでるよ?」
「いいって、私はクリフと話してるから」
「え、俺?」
「わかったよ、じゃあおいら見てくる!」

私が行かないことに若干の不満はあるものの、好奇心には勝てなかったバンブルはいそいそとラチェットのもとに走りだす。カーリーが不思議そうに私を呼んでいるが、手を振って答えるだけに留めた。
カーリーたちに背を向けると、突然指名されておどおどしているクリフと目が合う。

「クリフ、話すのは初めてだね」
「あ、ああ、そうだな」
「クリフはバンブルと同じくらいの大きさだね」
「それがどうした?」
「かわいいなって思って」
「かわいいだと!?リリー、お前はわかってない!俺は戦いじゃ誰よりも活躍するんだぜ」
「へえ!クリフは強いんだ!」
「あったりまえだろ!どんな敵にも引くことなく突撃していくんだぜ!怪我なんていくらしてもラチェットがリペアするから気にしないで戦えるしな!」
「私としては少しくらい気にしてくれるとありがたいんだがね」

突然、割って入ってきた声に目の前のクリフの顔が引きつった。その声は私の背後から聞こえて、クリフも私の背後を凝視している。私は振り返らずに背中に全神経を集中させた。

「い、いやラチェット、もちろん最初からラチェットの世話になろうとなんてしてないさ」
「それを聞けて安心したよ、言ってわからないようならこちらにだって考えはあるからね」
「リリー聞いて!ラチェットったら、アイアンハイドの発声回路切っちゃったのよ!」

目を輝かせて私の顔を覗きこんできたカーリーの後ろでバンブルが体を震わせている。人間の私にはわからないがバンブルと同様にクリフも表情をこわばらせていることから、カーリーの言っていることはあまりよろしくないことだと察した。

怯えるバンブルとクリフには目もくれず、カーリーは私から離れるとリペア台に横たわるアイアンハイドのそばに戻っていく。トランスフォーマーの内部を知れてよほど嬉しいのか、もっと教えてと興奮気味にラチェットを呼んだ。
私の背後にあった存在が、空気を揺らしてカーリーのもとへ去っていく。

「ねえラチェット、ほかにはどんな機能があるのか教えてくれる?」
「そんなに興味があるのかい?」
「もちろんよ!私、あなたたちのことをなんでも知りたいと思ってるの」
「カーリー、君はなかなかに教えがいがありそうだ」

顔を見合わせて笑いあうふたりの姿が視界の隅に映りこんだ。その瞬間、例えようのない気持ち悪さが体の奥底から次々とわきあがってくる。

これは一体なんなのか。生まれて初めての感覚にどうしていいかわからず、助けを求めるようにカーリーのほうへ目を向けてしまった。
気づいたときにはすでに遅く、私の目には初めて会ったとき以来、ずっと見ないようにしてきたラチェットの姿が。それはまるで魅了するかのように、私の目をとらえて離さない。私とラチェットの視線は交わることはなく、彼の青い瞳はカーリーに向けられている。

どうしてカーリーはラチェットと一緒にいるんだろう。
スパイクも来てるのに、どうしてスパイクのそばに行かないんだろう。
いつもスパイクのそばから離れないのに、どうして今日はラチェットのそばから離れないのか。

正体不明の気持ち悪さは次第に苛立ちへと変化していく。ラチェットとカーリーが楽しそうにすればするほど増す苛立ちは、私に暗い感情をもたらせた。
近すぎるふたりの距離が許せない。はやく離れてほしい。私の思いとは裏腹に、ふたりは楽しそうに笑いあうとラチェットの大きな指先がカーリーの頭を優しく撫でた。その光景に私は雷にうたれたような衝撃を受ける。頭の中でなにかが切れる音がして、積もりに積もった苛立ちが一気に爆発した。

気づいたときには基地の中は静まり返っていた。私の足元にはラチェットのリペア器具が無残に散らばっている。私が床に叩きつけたのだから当たり前だ。
顔をあげるとラチェットとカーリーが目を見開いて私を見ていた。極限まで熱くなった全身がゆっくりと冷えていき、溜まった苛立ちが消えていく。

早鐘のごとく鳴り響く心臓は、落ち着きを取り戻し始めた私を容赦なく責めたてた。

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