そのままでいて

「リリー、バンブルたちとバスケしに行きましょうよ」
「うーん……」
「なにを悩んでるのよ、今日こそコンボイ司令官をやっつけなくちゃ!」
「……ごめんカーリー、今日はいいや」

離れた位置で作業をしていたラチェットの動きが止まる。そのまま聞き耳を立てるラチェットの聴覚に、カーリーの残念そうな声が届いた。

「珍しいわね、そんなにそのゲームが面白いのかしら」
「うん……」
「ふうん?」

言葉の少ないリリーに疑問を抱きつつ、辺りを見渡したカーリーはすぐに状況を理解した。ちらりとラチェットの背に目を向けるとゲームに没頭しているらしいリリーを置いて、にやにやしながらバンブルたちとバスケをしに去って行く。

カーリーがいなくなったあとラチェットは振り返ってみた。部屋のどこを見ても異様な静けさばかりで、ラチェットは少しだけ驚く。いつの間にみんないなくなっていたのか。
ラチェットは離れた位置にいるリリーに目を向けた。椅子に座りながらもこっちに背を向けているリリーは、小さなゲーム機に夢中らしい。この部屋には、ラチェットとリリーのふたりしかいなかった。

「リリー」
「……なに」
「みんなとバスケをしに行かなくてもいいのかい」
「……別にいい」
「そうか」
「ゲーム、してるから」

言い訳のようにつけ加えられた言葉は、ひどくぶっきらぼうなものだった。ラチェットは今にも笑いだしそうになるのをなんとかこらえ、平然とした態度で作業を再開させる。
この部屋にはふたりしかいないにもかかわらず、ラチェットもリリーも別のことをしていてお互いが背を向けあっていた。その場には、ただ穏やかな空気だけが流れている。

しばらくした頃、ラチェットは作業をやめて振り返った。少しの異変を感じ足音をたてないように静かにリリーへと近づいていく。椅子に座っているリリーの顔を背後から覗きこむと、その異変の理由がわかりラチェットの口元に笑みが浮かんだ。
リリーは今すぐにでも眠りの世界に飛び立とうとしているのか、うとうとしている。膝の上に置かれた小さなゲーム機にはもはやふれてもいない。ラチェットはゲーム機をつまみあげテーブルの上に置くと、カーリーたちが持ち込んでいた仮眠用のタオルケットをもってきてリリーの体にそっと掛けた。

体にかかった少しの重みに反応したのか、リリーの瞼がゆっくりと持ち上がる。目を開けた先にこちらを覗きこむラチェットの姿が見え、リリーは慌てて顔を背けた。眠気など一瞬で覚めてしまったらしく、顔を真っ赤にして明後日の方向をひたすら見続けている。その慌てようにラチェットは少しだけ笑うと、椅子ごとリリーを抱きしめた。

リリーはラチェットがすきだった。
ラチェットもリリーがすきだった。

それはふたりにとって、この上なく幸せなことだった。

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