愛し愛され慈しむ

サイバトロン基地の前が一面真っ白に染まっている。冬の訪れを知らせるようにたくさんの雪が降りつもっていた。

「わあー!!すっごい雪!全部真っ白!」
「ねえリリー、雪合戦しましょうよ!」
「いいね!やろうやろう!くらえバンブル!!」
「うわっ、やったなリリー!よーし、おいらだって!」
「なんだなんだ、楽しそうだな!」

基地の前で雪合戦をするわたしたちの声が聞こえたのか、基地の中からクリフやほかのサイバトロンのみんながぞろぞろと出てきた。興味津々に近寄ってきたクリフの顔に雪玉をぶつけると、クリフはにこにこしながら反撃の雪玉を作り始めた。

ほかのみんなも雪玉を作り始め本格的に雪合戦が始まりそうになったとき、ふいに視界の端に映りこんだホイルジャックの姿にはっとする。
ホイルジャックがここにいるということは、まさか。

「あら、ラチェットも雪合戦するの?」

カーリーの透き通る声がいやに耳に響いた。雪玉を作っていた手が止まる。後ろでカーリーとラチェットがなにかを話しているが、その内容を聞き取れるほどの余裕が今の私にはなかった。
ラチェットが後ろにいる。楽しかった気持ちが一気に沈み、跡形もなく消えてなくなってしまった。

たくさんの雪玉をそのままに静かに立ち上がると、後ろのふたりが私に目を向けたのがわかる。

「……雪合戦か」
「ラチェットもやりましょうよ!せっかくこんなに雪があるんだしみんなで遊びましょ!」

場を盛り上げるように張りきるカーリーの言葉に、バンブルたちもそうだそうだと言って雪合戦を再開させた。いろんな形の雪玉が飛び交う中、私はひとりで立ち尽くしたまま一歩も動けずにいる。
ここでこの場から離れたら、せっかくのみんなの楽しい雰囲気を台無しにしてしまう。だからと言って、みんなと混ざって楽しく雪合戦なんてもうできそうになかった。だって、ラチェットがいるのだから。

ただじっと立ち尽くす私の体に、ぽんっと軽いなにかがぶつけられる。それは私の足元に落ちると、降り積もった雪と同化してわからなくなってしまった。
雪玉が投げられた方向に顔を向けると、少し離れたところにラチェットが立っていた。ラチェットは私と目が合うとすぐに顔をそらし、自分の大きな手を見つめていた。よく見るとラチェットの指先には小さな雪玉らしきものがちょこんと乗っている。

どうやってあんな小さな雪玉を作ったんだろう。
ラチェットの器用さに驚いていると、顔を上げたラチェットの青い目が私に向けられ、今度は私がラチェットから顔をそらしてしまった。

その瞬間、再度軽い衝撃が体を襲う。ラチェットが優しく投げた雪玉は私の腕に当たり、足元へと崩れ落ちていった。ラチェットが私に。そう思うと、眩暈がするほどの甘い感情が心臓をぎゅうっと力一杯しめつけていく。気恥ずかしさからますます顔があげられなくなってしまい、自分の足元ばかりを穴が開くほど見つめていた。

そこであることに気づく。さっきまで騒がしかったはずのみんなの声が、一切聞こえなくなっているということに。

恐る恐る顔を上げて辺りを見渡すと、みんなは雪合戦を中断して私とラチェットを見ていた。カーリーやバンブルでさえも興味津々と言った様子でこっちをじっと見ている。
いつの間にみんなの視線の的になっていたのか。あまりの羞恥に顔が燃え上がるように熱くなる。楽しい雰囲気を台無しにするとかもはやどうでもいい。私は逃げるようにその場から走り去っていった。



雪合戦のあと、ラチェットは怒っていた。
それは誰の目から見ても明白で、機嫌の悪いラチェットに誰も近寄ろうとはしなかった。ラチェットの苛立ちの理由はおそらくリリーだろう。いや、絶対にリリーだ。誰もがそう思ったが、それを口にする者はいなかった。

ラチェットは常々思っていた。リリーの好意はわかりづらいと。
今だって、雪合戦に参加したらリリーは逃げてしまった。たまに本当に自分のことが好きなのかと、真剣に問いただしたくなってしまう。

「なんだか不機嫌そうねラチェット」
「……カーリー、少しほうっておいてくれないか」
「はいはい、ああそういえば、リリーはさっき帰ったわよ」
「なんだって!?」
「じゃあ私も帰るわね」
「まて!リリーは本当に帰ったのか!?」
「だからそう言ってるじゃない、ついさっきバンブルに乗って帰ったわ」

カーリーの言葉が信じられずラチェットは大急ぎで基地の外にでたが、すでにリリーの姿はなかった。基地の外にでるまでにバンブルを見かけることもなかった。カーリーの言うようにリリーはもう帰ってしまったのだろう。
ラチェットの口角が引きつり、握りしめられた拳がわなわなと震えだす。ふつふつとこみ上げる怒りは容赦なくここにはいないリリーへと向けられた。

リリーはなぜ、こんなにも、自分を苛立たせるのか。

ラチェットが睨むように基地のそばにある木を見ると、その根元に不自然にも白いなにかが見える。苛立ったままどすどすとそれに近づくと、その白いなにかは木の裏に隠されるように置かれていた。

「なんだこれは」
「あら、雪だるまじゃない」
「雪だるま?」
「そうよ、でもこれ、なんかラチェットに似てない?」
「ええ?そういえば……」

そうかもしれない。見れば見るほどいびつなそれはラチェットにそっくりだった。あまりうまいとはいえない出来栄えの雪だるまラチェットは、こちらの気も知らずににっこりと笑みを浮かべている。こんなものを一体誰が。落ち着かない気持ちをしずめるように、もはや疑問ですらないことを考えてしまう。
こんなことをする人物など、ラチェットの頭の中にはただひとりしか思い浮かばなかった。

「リリーったら、隠れてなにか作ってると思ったらラチェットの雪だるまを作ってたのね」

まっすぐにラチェットを見つめてくるカーリーの目を見ることができない。
苛立ちなどはとうに消え去り、体があたたかな幸福に包まれる。

ぎゅうっとスパークをしめつける甘い痛みに、ラチェットは耐えられずに顔をうつむけた。

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