02

憎珀天と私のふたり旅が始まった。のだが、歩いても歩いても同じ景色が続くばかりで移動しているという気になれず、楽しさもなにもなかった。加えて憎珀天が妙によそよそしいため、ふたりの間には常に謎の距離がある。
振り返って見ると、憎珀天はすぐに私から目をそらした。その顔は眉間にしわが寄りとてつもなく不機嫌そうだった。見た目は私と一番近いくせに、憎珀天は喜怒哀楽の誰よりも話しかけづらい。

「……憎珀天、疲れてない?そろそろ休憩する?」
「それは儂を侮辱しているのか、儂が疲れなど感じるわけなかろう」
「そ、それもそうだね」
「……」

沈黙。どうにかして場を和ませようと笑ってみせたが、憎珀天の眉間のしわが消えることはなかった。
ため息がこぼれそうになるのを我慢し空を見上げると、いつの間にか日が沈む間際になっていたことに気づく。この世界でも朝と夜は存在するが、太陽の光を浴びても憎珀天が消滅することはなかった。そのことがわかってからは日の出ている時間帯でも、憎珀天は自由に日の下を歩いている。

森の中で憎珀天と共に休めそうな手頃な場所を探した。ふたりが休む分には良さそうなスペースを確保すると、憎珀天は早々に私から離れた場所に腰を下ろしてしまった。木に背を預け固く目を閉じるその姿は、まるで私を全身で拒否しているかのようにも見える。

どうして憎珀天は私から距離をとるのだろう。出会ったときは私を抱きしめてくれたのに。私のことなど、もうどうでもよくなってしまったのだろうか。悲しい、つらい。暗い感情で押しつぶされてしまいそうだった。
気がつくと私はあぐらをかいて座る憎珀天の目の前にしゃがみこんでいた。憎珀天はちらりと片目を開けると、すぐにまた閉じてしまった。

「……憎珀天」

小さく名前を呼んだが返事はもらえなかった。こんなにも近くにいるのに、心はずっと遠くにあるようでたまらなくさびしい。憎珀天に嫌われてしまった。やっと好きだと自覚したのに。そこでふと、あることに思い至った。そういえば、憎珀天に自分の想いをちゃんと告げていただろうか。この世界で憎珀天に出会ってから今までのことをざっと思い返したが、一度も口にしていなかったことに気づいた。

可楽と積怒の言葉が蘇る。彼らは私の言葉が欲しいと言っていた。欲しい言葉はひとつだけだと。
私には、彼らに告げるべき言葉がある。

「すき」

ぽつりと呟かれた言葉に反応した憎珀天の両の目が一気に見開いた。伸びてきた手が私の腕を掴むとぐいっと乱暴に引き寄せる。
突然のことに声もなく固まる私の目の前には、見開いた目でこちらを凝視する憎珀天の顔があった。

「もう一度言え」
「え、え?」
「もう一度言えと言っている」
「す、すき、だよ」
「もう一度だ」
「もう無理!」
「もう一度言うまで離さんぞ」
「……す、すきだってば!!」

やけくそになって叫ぶと、あっという間に憎珀天の腕の中に引きずりこまれてしまった。
出会ったとき以来の抱擁はあまりにも力強く苦しいものだったが、同時に心をあたたかく満たしてくれるものだった。

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