09

静かな夜に雪を踏みしめる音が聞こえる。
その音に寄り添うように大きな翼がせわしなく羽ばたいていた。

「結局、鬼狩りどもは儂らに気づかなかったのか」
「そのようだ、柱でもない鬼狩りなど所詮はその程度よ、積怒のやつめ、妙に神経質になりおって」
「八重子がいるのだから神経質にもなるだろう、積怒は八重子に危険が及ぶのを危惧していた」
「なに?それならそうとはっきり言えばいいものを、なぜ隠す必要がある?」
「お前のように馬鹿正直なやつばかりではないということだ」
「カカカッ!ただの腰抜けというだけではないか、俺には到底理解できん!それだけではない、やつは俺の助言を真に受けて八重子に花など贈ったようだぞ、よほど八重子に嫌われたくなかったとみえる」

空喜の高笑いが暗闇の中に響きわたる。腹を抱えて笑う空喜に目もくれず、哀絶は降り積もった雪をかきわけひたすら歩き続けていた。
哀絶の隣を低空飛行している空喜が空中でくるりと回る。ふたりは目的地である八重子の家を目指していた。

「ああ、そういえばお前」
「なんだ」
「八重子と口づけをしただろう」
「それがどうした」
「可楽もしたな、しかも一番乗りだ」
「なにが言いたい」
「俺も八重子と口づけがしたい」

ちらりと視界の端に空喜をとらえた哀絶は、ひどく気だるそうに息を吐く。雪をかきわけながら進む自分とは違い、空中を自由に飛び回る空喜はやはりどうしても気楽に見えてしかたなかった。加えて言動も幼稚なもので、哀絶の気だるさが目に見えて増していく。

「…すればよかろう」
「カカカッ!お前もそう思うか、俺も今しがたそうすることにした!」

翼を大きく羽ばたかせた空喜は一気に上空へ舞い上がると、はるか下にいる小さな哀絶に向かって声を張り上げた。

「俺は一足先に行くぞ!お前に合わせていたら八重子の家に着く頃には日が昇ってしまうだろうからな!!」

それだけ言うと空喜はさっさと飛び去ってしまった。その姿はすぐに暗闇にまぎれて見えなくなる。哀絶は止めていた歩みを再び動かした。

「……去り際まで騒がしいやつだ」




「八重子!会いに来てやったぞ!」

勢いよく襖を開け放った空喜はずかずかと八重子に近づくと、どかりと向かい合うように座りこむ。豪快な空喜の登場に目を丸くする八重子のそばには、美しい花が飾られていた。積怒の贈った花に違いない。
空喜はかすかに口角を上げると大きな翼で八重子を包みこみ、ぐっと顔を近づけた。

「八重子、俺と口づけをしよう」

そう言ってちゅうっと唇を尖らせる空喜は、今か今かと口づけを待っている。
八重子の目が優しく細められた。

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