スポーツマンシップは永遠に


トビは変わった。
トビのお父さんがまだ生きていたころは、バスケが大好きでみんなに楽しい雰囲気を与えてくれる明るい幼なじみだったのに。トビのお父さんが仕事場での事故で亡くなって新しいお父さんがトビの家にやってきたときから、トビは変わってしまった。

昔はあんなに私と一緒にバスケをやって遊んでいたのに、いまは私に会っても目を逸らすようになった。明らかに変化が生じた私に対するトビの態度。私が何度一緒にバスケをしようと誘ってもトビは聞いてもくれない。原因はきっとトビのお父さんが亡くなったこと。トビはお父さんといるときが一番楽しそうだった。
次第に私を避けるようになっていったトビに、諦めたかのように私もトビを避けるようになった。トビはなにも言わない。お父さんが亡くなったときも、新しいお父さんが家族に加わったときも、トビは私になにも言わなかった。昔はあんなに仲がよかったのに。年相応として仕方がないと言われればそれまで。だけどトビの場合は違う。

トビと会わなくなってから一度だけ、久しぶりに見たトビの姿。それはトビが自分の妹の樹里ちゃんとふたりで楽しそうに歩いている姿だった。昔からそう。トビは人一倍妹を大事にしている。そのときもトビは樹里ちゃんと一緒に笑っていた。昔と変わらない笑顔で。
それから少しも経たないうちに、トビはいなくなった。親と樹里ちゃんを置いてたったひとりで神奈川へ。あとから聞いた話でそれはトビの新しいお父さんが決めたことで、トビの意志ではないということがわかった。ときどき耳に入るトビと新しいお父さんの仲。それは決していいものだとは言えず、きっとトビの新しいお父さんはケンカしかしないトビのことを鬱陶しく思っていたんだと思う。
トビのいなくなった広島は、なぜだか寂しかった。トビが変わってからトビと会うことも、話すこともなくなっていたのに。女の子と遊ぶことやケンカしかやらなくなってしまったトビだったのに。トビがいなくなってたまらなく寂しかった。だからと言ってただの幼なじみな私がトビに会いたいなんて言えるわけがない。変わってしまったトビは私に何も言わずに行ってしまったのだから。

それから地元の高校に入学して少し経ったころ。神奈川に用事があるからと言ってきた親の言葉に私は無意識のうちに飛びついた。神奈川にはトビがいる。そのことが忘れられなくて、話せなくてもいいからせめて一目だけでもトビに会いたいと思った。
そんな私のことを親は理解していた。トビの通っている高校は九頭龍高校というところだと私に話し、その高校の付近に私を連れて行ってくれた。用事がすんだらすぐに迎えにくるからと告げられ、車が発進したのと同時に私も歩き出す。トビの通う九頭龍高校へ。

私はすべてが普通の一般人。知らない高校の校門に堂々と入っていけるほどの度胸も無ければ勇気もない。こそこそとしきりに辺りを気にしながら校舎裏へと回りこみ偶然見つけたもの。それは古びたバスケットゴール。やっとの思いで中に入ると嬉しいことにバスケットボールも置いてあった。
かなり痛んでしまっているボールを眺めながらそれを持ち上げる。どこか見覚えのあるような気がするそのボールをゴールに向かって投げるが簡単に弾かれてしまった。もうバスケなんてやってないからなとため息をこぼしボールを拾い上げる。その拍子に顔を上げるとそこには怪訝そうな顔をして私を見ているあの人の姿が。

一瞬息が止まった。私の知っているトビより幾分か大きくなったトビがすぐそこにいる。トビも私もいきなりの再会に動揺を隠し切れずにいた。トビが変わってしまったあの日から会話なんてしていない。今更久しぶりだね元気だった?とかそんなことを聞ける仲に戻れるはずもない。そんなのわかってる。
お互い何も言えずにいる中、トビの足が一歩前へと動く。それは止まることなく簡単に私のすぐ目の前まできた。こんなに近いと身長の差が歴然としていてまるで子供と大人だ。少しだけ見上げた先に見えたのは、殴られたような傷が痛々しく残るトビの頬。

ケンカしたの?そう思ったものは思いがけず口から漏れていて、はっきりトビの耳に届いていた。いきなりなにを言ってるんだとあたふたする私とは対照的に、トビの表情は何かを決意したようにぴくりとも動かない。そのままトビは静かに私からボールを受け取った。

「もう、ケンカはせん」

それは、私がまた見たいと強く願ったものだった。

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