お年頃ですし青臭くいきましょう


最近、奇跡的なことばかりが私に訪れている。初めて見たときから夏目のことが気になって、すごくモテる夏目は女の子の扱いにもなれてていかにも遊び人って感じだったけど、私にとってはもうそんなの関係なかった。ただ夏目と少しでも関わりたくて、夏目のことが気になりだしたその日から必死になって夏目を追いかけてた。
そのおかげか、今では夏目のことをトビってあだ名で呼び合えるほどたくさん話せるようになった。それだけでもすごく嬉しいのに、ついこの間もっと嬉しいことが私に訪れた。もうこれは奇跡としか言いようがない気がする。だって、あんなにかっこいいトビが、女の子にすごく人気なあのトビが、私のこと好きって言ってくれたから。

当然、初めて会ったときからずっと好きだったトビに告白されて断るはずもなく私はすぐに承諾した。それからトビと付き合って二週間。さすが女の子の扱いには慣れてるんだなと実感した。トビとは付き合ったその日にキスして手を繋いで、デートはトビの部活が忙しいからまだしてないけど。今まで一度も男の人と付き合ったことのない私には、それだけで毎日がきらきらしてて充実している日々だった。

そんな日が続いてた金曜日の帰り道、トビが突然明日ワシの家にこいと誘ってくれた。部活が終わったあとにトビの家でデート。明日は家に誰もいないからと気になる一言も告げられ、私はうきうきしていた気分をぴたりと止め硬直する。家に誰もいない?それじゃあ明日はトビの家に私とトビだけってこと?
家に着いてからそのことをずっと考えていた。その考えが何かに結びついたと同時に、私の顔はパンクしそうなくらい真っ赤に染まった。うそ、ちょ、まってまって!そんないきなり、いきなりそんなこと。だってまだ付き合って二週間しか経ってないんだよ!?は、はやいよ、絶対ない、でも。

トビはもしかしたらそのつもりで、明日私のことを家に呼んだんじゃないだろうか。トビは私と違って今までだってたくさんの女の子と。もし、もし明日そうなっても、頑張って乗り切ろう!初めてだけど、私が無理って言ってトビに嫌われて別れたら今まで頑張ってきた日々が全部台無しになる。大丈夫、緊張するけど相手は大好きなトビだから。
こんなとき時間というものはすぐに過ぎていってしまうもので、約束の時間に私はトビの家に来てしまっていた。初めて入る男の人の部屋。ここがトビの部屋なんだ。そう考えれば考えるほど緊張ばかりが募ってトビの顔を見ることができない。

「なあ」
「な、なに」
「なんでそんな離れて座っとるんじゃ、もっとこっち「あっあれー!?あの雑誌なに!?私見たことないなあ!ちょっと見てもいい!?」

トビの言葉を聞かないように適当な雑誌を指差して言うと、トビは眉を潜めて怪訝そうに好きにせいと言った。あっ危なかった。私の現在位置はベッドに腰かけ座っているトビと向き合うように座っていて、トビがこっちにこない限りトビとの接触はまずありえない。完全に意識しすぎだ。
これ面白いねー!とぎこちなく笑いながら、雑誌をめくる私の心臓は壊れるんじゃないかってくらいどくどく鳴り響いている。無意識のうちに雑誌を持つ手も震えてきた。どうしよう。なんでこんな緊張してんの私。いやじゃないいやなわけない。でも震える。

私だけがバカみたいにべらべら喋って、次の雑誌をとりに立ち上がったのと同時になぜかトビも腰をあげる
。どうしたのと声をかけようとしたときには手を掴まれていて、トビの雑誌は私の手から床に落ちていた。まってと言う前にトビに口を塞がれうまく声がでない。トビに押されるがまま私はベッドへと押し倒された。
とうとうきた。このときがきちゃったんだ。トビが私の首元に顔を埋めて音をたててキスをしていく。そのたびに体に電流が流れるような感覚が襲って変な声がでそうになる。なにこれなにこれ。わかんない、私はどうすればいいの。
ぎゅっと目を閉じ声がでないよう必死になって手で口を塞いだ。その手をトビに無理矢理剥がされ、今までしたこともないキスをされる。キスの合間にもトビの手が私の服の中に入ってきて、こわくてこわくて、目を開けることができなかった。

「…おい、目開けえ」
「む、り」
「ワシのこと見とうないんか」
「むり、む、り」

しぼりだすように目を閉じたまま発した声。その声を聞いたトビの手がふいに止まり、私に覆いかぶさっていたトビの体重が軽くなる。不思議に思いそっと目を開けると、トビは私に背を向けてベッドに座っていた。トビはなにも言わない。どうしよう、トビに嫌われた?

「ト、トビ」
「……」
「トビ、ごっごめん、私、」

トビに嫌われたくない。
あふれそうになる涙を堪えながら、それでもトビにちゃんと届くように声を振り絞った。少しの沈黙が訪れる。私にとってはもう何時間もの沈黙のような気さえした。ただただトビの言葉だけを待って待って待ち続けて。こんな気まずい沈黙を破るのはやっぱり、彼の静かな言葉だった。

「…すまんのう、びっくりしたか?」
「う、ううん!ぜ、全然!」
「まあ、我慢できんかったワシも悪いしな」

そう言うとトビは、罰が悪そうな顔をして私のほうに振り返り、これでおあいこだと自分の唇を指差す。え、なに?もしかしてキス、してってこと?

「ト、トビ」
「なんじゃ」
「わ、私からしなきゃだめ、なの?」

あたふたとする私の言葉に、不機嫌そうに眉を潜めるトビ。こっこれは確実に私からしなきゃダメなんだろうな。私からキスとかしたことないけど、トビと仲直り、したい。
両手をぎゅっと握り締め、ゆっくりゆっくりトビの顔に自分の顔を近づけていく。どくどく鳴る心臓がうるさい。顔がどんどん熱くなっていって、合図のように目を閉じたトビの唇に少し触れるだけのキスを落とした。
唇が触れ合ってすぐに顔を離すと、トビが不満そうな顔をする。これ以上無理だと弁解すると仕方なさそうにトビがふわりと笑った。

「へたくそじゃの」

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