日直はおふたりで


「ヤック、日直はどうすんの」
「無理、俺部活あるし」
「は!?ちょ、そうやって逃げる気なんでしょって、コラ!!」

私の声なんて完全に無視してヤックはゲラゲラ笑いながら教室から出て行ってしまった。あの野郎、日直なんてくそ面倒くさいもん私だけに押し付けやがって。だんだんと帰って行く友達に恨めしそうに手を振りながら、忌々しい日誌を机の上に置く。開くと項目がたくさんあってもっとやる気をなくした。こんなことなら休み時間の合間にでも書いとくんだった。
日誌の名前を書く欄に自分の名前を書き、もうひとつの欄にはあのアホロン毛の名前を憎しみを込めて書き綴る。私に全部任せてサボった罰だあのロン毛め。あれ、そういえばこいつの名前ってなんだっけ。名字は八熊だったよねたしか。ヤバ、本気で忘れた。もういいや、八熊ロン毛って書いておこう。

素晴らしいネーミングセンスじゃないかと自分を褒め称えつつ、日誌を書くのをやめ窓の鍵をチェックする。おいおいおい、どこもかしこも開いてるじゃん。みんな窓は開けたら閉めてよほんと。いや、私も窓閉めたら鍵なんてやんないけどさ。
自分自身においとつっこみを寂しくしながら窓を確認し、外に視線を向ける。丁度部活の時間のため校庭では部活動に励んでいる人達の姿がたくさん見えた。うわー頑張ってる頑張ってる。私帰宅部だからよくわかんないけど部活とかってやっぱり大変なんだろうな。あれ、そういえばあの部活バカは何部だっけ。

忘れたなあとヤックの部活について悶々と考えながら、残りの日誌を片付けていく。適当な字で適当に書き終わった日誌を閉じて、本当に掃除したのかと疑いたくなるほど汚すぎる黒板の前に立ちため息をひとつ。あーあ、観たかったテレビもう終わっちゃったよ。
黒板消しを取りのろのろと黒板に書かれた文字を消していく。こういうとき背が低いってのが嫌だ。黒板の上のほうなんて全然届かないし、これじゃあ全部消せない。椅子とか持ってこなきゃだめだよねやっぱり。うわーかったるい。こんなときあんなバカでも背は無駄に高いんだからいてくれたほうよかったなあ。

「あっの、バカロン毛」
「誰がバカロン毛だ、このチビ」
「え、ヤ、ヤック!?」

独り言に返ってきた声は明らかにヤックの声だった。驚いて後ろを振り返ると、すでに汗を流して息を切らせているヤックが教室に入ってきていて。もうひとつの黒板消しを持ち黒板に書かれてある文字を消していく。

「な、なに、なにしにきたのあんた」
「うっせーな、関係ねえだろ」
「いや、関係ないとかじゃなくて、あ、もしかして手伝いに戻ってきたとか!?」
「ちげーよ、自惚れんなバカ女」

乱暴なことを言いながらヤックの手は黒板を消し続けている。ちがうって、それじゃあなんで黒板消してんのよ。素直に日直の仕事やりにきたって言えばいいのに。ヤックって素直じゃないって言うかなんて言うか。まあこれで椅子使んないで黒板消せるし助かったからいいや。あ、そうだ。

「あのさ、ちょっと聞いていい?」
「なんだよ」
「ヤックって何部だったっけ」
「は!?おまえ、はあ!?」
「いや、そんな驚かなくても」

照れるじゃんと笑いながら言うと、バカだ、ここにバカがいやがるとヤックが言った。私はすかさずヤックの脇腹にパンチを食らわせヤックは痛そうになにすんだと私を睨みつける。あれ、なんか思い出しそう。そういえばヤックってたしか。

「…バスケ部?」
「そうだっつの!知らねえとかマジありえねー」
「あれ、んじゃ今いいの?部活中なんじゃないの?」
「無視かよ、あーもう、今は休憩中だからいーんだよ」

もう行くけどなと言い黒板消しを置くヤック。黒板消しを離したその大きな手はそのまま私の頭へと置かれ、ぐちゃぐちゃと乱暴に撫でられた。せっかく綺麗にセットしてきたのに!

「なにすんの!?離してよバカ!」
「どーせあと帰るだけだろーが、つかそんなんやっても全然かわいくなってねえぞ」
「はあ!?あ、あんた!この、離せってば!」

思いっきりヤックの手を掴んで払おうとした瞬間、それはなぜか私の手から離れなかった。何度振り払おうと手を振ってもなぜか離れない。不審に思って見ると、ヤックの大きな手が私の手をぎゅっと握っていて到底離れそうになかった。なに。なんでこいつ私の手、握って。

「ちょ、ヤック手」
「は、あ!?」

やっとで気づいたのかヤックは自分が私の手を握っていることを自覚すると驚いたようにすぐに手を離した。な、なに。意味わかんない。なんなのいきなり。うわ、顔とかすっごい熱くなってきたし。なにこれなにこれ、ヤック、そうだヤックは?
だんだんと熱くなっていく自分の顔に手を当てながら顔を上げると、ヤックの顔も私同様に真っ赤に染まっていて。お互い目が合った瞬間すぐに目をそらした。い、意味わかんない意味わかんない!ヤックがいきなり手なんか握ってくるからだ、ヤックのバカ!
どうすればいいかなんてわかんなくて、ずっと目を泳がせているとじゃーなと言うヤックの声が聞こえてきて。顔を上げたときにはもう目の前にヤックの姿はなく、廊下からばたばたとうるさく鳴り響く足音が聞こえてくるだけだった。

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