壊れたスピーカー


ヘッドホンから流れでる音。オレと世界との音を遮断する。周りの耳障りな音は聞こえない。
なにも聞こえない。

「クロトてめえ!オレの本どこにやりやがった!」
「は?てめえのきたねえ本なんか僕は知らないよ」
「きたねえだと!?ゲームしかやらねえくそガキが!!」
「なっ、うっせーよブワァーカ!触覚変態野郎!」
「てめえ!ぶっ殺すぞ!」

キレたオルガがクロトに掴みかかって、またいつもの喧嘩が始まった。オレはすぐに曲の音量を最大にした。
アイマスクを着けると、完全に遮断される世界とオレ。ガンガンと頭に響いてくる曲は、オレには心地よかった。
なにも聞こえない。

ふと、オレの体になにか当たった気がした。
ゆっくりとアイマスクを外すと、クロト達の喧嘩を楽しそうに見ているあいつがオレのすぐ隣に座っているのがわかる。
オレの視線に気づいたのか、女はオレのほうに顔を向けた。

「あ、ごめんシャニ。起こしちゃった?」
「……いや…」
「それならよかった」

そう言って女はオレに笑いかける。
オレは体を起こして女の隣に座った。

「…あいつら、うざいよね」
「あははっ、でも見てて面白くない?」
「…うん、面白い…」
「でしょ?」

にこっと笑顔を向けてくるこいつは、またクロト達に視線を送った。
オレはそんなこいつを横目でじっと見ている。

「…シャニってさ、いっつも音量大きいよね」
「…これの事…?」
「うん。うるさくないの?」

オレのヘッドホンを指差しながら、こいつは問いかけてきた。

「これよりあいつらのほうがうるさいから」
「うーん、そーなの?」
「うん。オレうざいの嫌いだし」
「あはは、シャニの口癖はうざいだもんね」

オレ、そんなにうざいって言ってるっけ?
首を傾げながら、クロト達のほうに視線を向けているこいつに声をかけた。

「……でも…」
「ん?」
「お前はうざくないから、嫌いじゃない…」

オレの言葉にこいつは少しだけ反応する。
オレに視線を向けていつものように、にっこりと微笑んだ。

「シャニに嫌われてなくてよかった」

こいつの言葉はいつも心地いい。
曲とは違う感じの心地よさ。

「……お前もこれ聴く…?」

オレの問い掛けに、こいつは優しく笑う。
世界との遮断に、オレは少しだけ音量を下げた。

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