一握りの愛情で


毎度毎度、なんでオレがこんな事しなきゃなんねえんだよ。
めんどくせえ。

「なあ、ジュース持ってきてくんない?あとお菓子も」
「ジュース…お菓子…」
「オレはCDね」
「CD……?」

きょとんとする女に、クロトの眉間にシワが刻まれる。
たく、めんどくせえ。
いつもの日課が始まると思い、オレは小説に視線を戻した。

「ねえ、お前さあ、いつまでそこにいる気なわけ?さっさと言われたもの取りに行けよ」
「お菓子、ジュース…どこにあるかわからない…」
「は!?あーもう!昨日教えたじゃねーかよ!ブワァーカ!」
「クロト…」
「うっせーな!いいから早く持ってこいよ!」

クロトに怒鳴られ、少し眉を下げながら女は腰を上げる。

「あ、オレのCDも忘れないでね」
「シャニ、CDってなに…?」

この言葉に今度はシャニの眉がぴくりと動く。
マジで勘弁しろよ、めんどくせえ。

「お前さ、ふざけてんの?」
「……?」
「毎日毎日オレにCD持ってきてんじゃん、何がCDってなに?だよ。ふざけんな、さっさと持ってこいよ」
「どこにあるの…?」
「へえ、そこまでとぼけるんだ、オレの部屋に決まってんだろ。早く持って来いじゃないと殺す」
「うっ、わかった…」

半分泣きそうになりながらも、あいつはいそいそと部屋から出て行った。
今回はちゃんと頼まれたもん持ってこいよなんて、そんなオレの思いは見事打ち砕かれた。

「ふざけんじゃねー!!てめえ僕をなめてんのかよ!?僕はお菓子とジュースを持って来いって言ったよねえ!?なのになんでせんべいと水なんて持ってきてんだよ!ブワァーカ!!」
「だっ、だって、それしかなかったから…」
「んなわけねーだろ!ちゃんと探せって言ったじゃん!お前マジ使えねえな!!」
「クロト…」
「ねえ、オレCD持って来いって言ったよね?なのになんで本なんて持ってきてんだよ、お前さあ、ほんと使えない。ただでさえ存在が目障りなんだからパシリくらいしっかりやれよな」
「シャニ、ごめ…っ」
「なんですぐそうやって泣くわけ?ほんとイライラする」

やっぱり始まってしまった。
毎度のごとく泣きだしたあいつに、苛立ちを隠せずクロトが一発蹴りを食らわす。シャニも本を持ってこられたことが相当頭にきたのか、いつもより多くあいつを蹴り飛ばしていた。
あーもう、本気でめんどくせえ。なんでいつもこれを止めるのはオレだけなんだよ。
オレは大きくため息をつき、ゆっくりと立ち上がった。
クロトがあいつに向かって放った拳を、オレが受け止める。

「邪魔すんなよオルガ!!」
「うっせー、てめえらこそこいつに頼んで頼まれたもの持ってきてもらったことほとんどないくせに、バカみてえに毎回頼んでんじゃねーよ。つーか自分で取りに行け」
「オルガウザーイ、なにヒーロー気取ってんの?目障りだから消えろ」
「うるせえよシャニ、イラついてんならてめえが消えろ」
「は?お前、殺すよ?」
「たく、めんどくせえ。勝手にキレてろよ」

オレは女の手を無理矢理ひっぱり、まだぎゃあぎゃあうるさいクロトを無視してその場をあとにした。

「…オルガ、怒ってる…?」

女の声にハッとし、オレはすぐに手を離す。
少しだけ後ろを振り返ると、女は申し訳なさそうな顔でオレを見上げていた。

「お前も頼まれたもんくらいちゃんと持って来いよ、毎回めんどくせえことしなきゃなんねえオレの身にもなれ」
「うん……」

女はしゅんとしてまた目に涙を溜める。
面倒だな、なんなんだよこいつ。

「いちいち泣くんじゃねえよ」
「うん…」
「だから、泣くなって言ってんだろーが!」
「う…オルガ…ごめ…っ」

おいおいおいおい、勘弁しろよ、マジで。なに泣いてんだよこいつ。めんどくせえ、だからいやなんだ。
毎回こいつを助けるなんざしたくもねえ。

「おい」

イライラした口調でオレが声をかけると、女は歯を食いしばり袖で涙を拭う。

「…オルガ、もう泣かないから、私のこと…嫌いにならないで…」

そんなすがるような目で、ぎゅっとオレの腕に抱きついてくるこいつ。
めんどくせえ、めんどくせえんだよ。

「……ああ、嫌いになんかなんねえよ」

それでもオレがこう言った瞬間の、こいつの死ぬほど嬉しそうな顔が。

「…私ね、オルガ大好き…」

そう言って、オレを抱きしめるその体が、こいつのすべてがオレを刺激する。
めんどくせえけど、また明日もオレは、こいつを助けると思う。
ほんとうに、なんて面倒くさいオレの心。

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