ハッピーバレンタイン


「ほんっとくだらないよねえ、バレンタインなんてさー」

ゲームをしながらクロトはブツブツと独り言を呟く。

「チョコなんてもらってどーすんだよって話?好きなら好きって言えばすむじゃん?ほんっとやってらんないよねー」

いやいや、あんたこそさっきから何なの?ずっとバレンタインの事でぐちぐち言って。意味わかんない。

「ねえ、お前もそう思わねえ?」

ずっと独り言のように呟いていたクロトがいきなり私に話題を振ってきた。
それでもクロトの視線はゲームの画面に釘付けのまま。

「…別に、そもそもバレンタインなんて忘れてたし」
「うっわ、お前女として終わってるー」
「は?あんたに言われたくないんだけど」

怪訝そうに眉をしかめても、クロトはゲームに夢中で私のほうを見ようともしない。
私が再び雑誌に視線を落とそうとすると、すぐにまたクロトから声を掛けられた。

「バレンタインってさー、好きな奴にチョコあげんじゃん」
「そーだね」
「なんでよりにもよってチョコ?って思わね?意味わかんねーじゃん、飴とかじゃだめなのかよって思うよねえ、普通は」
「…いや、別にどっちでもいいじゃん。どうでもいいし」
「お前マジ頭おかしーんじゃねえの?僕が一発撃滅させてやろっか?」
「クロトのほうが頭おかしいんじゃない?」
「てめえのほうがどー見ても頭おかしいでしょーが!ブワァーカ!」

ほんとに、なんなのこいつ。口喧嘩しながらも絶対こっち見ようとしないし。いちいちバレンタインにはつっかかってくるし。
今日のクロトはなんだか変だ。

「ねえ、クロト」
「なんだよ」
「あんたさ、もしかしてチョコ欲しいの?」

冗談のつもりで言った言葉に、クロトはものの見事に反応した。
ゲーム画面を見たまま一時停止状態なクロト。
え、なに。まさかほんとに?

「ク、クロト…?」

私の問いかけにはっと我に返ったクロトは、顔を隠すように背中を向けた。

「バッ、バッカじゃねーの!?誰がチョコなんてそんな甘ったるいもん!食いたくもねーよ!ブワァーカ!」
「ふーん…」

軽い返事をしながら私はポケットの中に偶然入っていたチロルチョコを一個、クロトに向かって投げつける。
クロトはいてえ!と叫んだあと、チロルチョコを見てまたもや固まった。

「今はそんな小さいのしかないけどあげるよ、チョコ欲しかったみたいだし」

そう言って手元の雑誌に目を向けようとした瞬間、いきなりクロトがガバッと起き上がってきた。
クロトに視線を向けると、クロトはチロルチョコを見つめながらなぜか真っ赤な顔をしていて。
それがあんまりにも赤い顔で嬉しそうにチョコを見てるもんだから。

「もっと大きいほうがよかった…?」
「……これでいい」

なんだかすごく嬉しそうにチロルチョコを見つめているクロト。
そんなにチョコ欲しかったのかな。
そんなことを考えながら、私は目の前の赤い顔のクロトからずっと目が離せなかった。

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