私にはずっと仲の良かった女の子がいました。その子は中学一年生の終わり頃転校してしまいました。それから月日が流れ私、柳生比呂士は中学三年生になりました。二年もの間、仲の良かったあの子とは一度も会っていません。

その子とは中学で一緒のクラスになり仲良くなりました。大人しい雰囲気とは裏腹に先生の手伝いなどで私とふたりきりになると、よく私にちょっかいを出してくるやんちゃで可愛らしい性格をしていました。よく眼鏡を奪い取られその度にこけそうになる私を見てその子は楽しそうに笑っていました。私はその子の眼鏡を取る癖にとても困りましたが、とても嬉しかったのを今でも覚えています。なぜかはわかりませんが。
その子の存在を仁王くんに知られ、仁王くんがその子をからかおうと私の姿に変装してその子に会いに行ったこともありました。仁王くんの変装は完璧です。常人ならまず気付かれることはないでしょう。それなのに、その子はすぐに気付きました。柳生くんじゃないよね?と言う彼女に仁王くんも影で見ていた私も心底驚きました。まさか気付かれるなんて。仁王くんは変装を解くと驚いている彼女ににっこりと笑みを浮かべました。ああしまった…そう思ったときには既に遅く、仁王くんは彼女に自己紹介をしていました。仁王くんはすっかり彼女を気に入ってしまった模様です。やれやれ。

席替えで隣同士になりました。授業中、私は真面目に授業を受けています。当然です。隣の席にいるその子も真面目に授業を受けています。彼女は真面目です。つんつんと腕をつつかれたことに気付きそっと視線を向けると、彼女は満面の笑みを浮かべ教科書に描いたパラパラ漫画をこれみよがしに私に見せつけてきました。…間違えました、彼女は真面目ではありません。周りからはそう見えるだけです。私は先生に気付かれないように授業中に何をしているんだと、彼女の頭を持っていた鉛筆で優しく小突きました。痛くないはずなのに彼女はいててと恥ずかしそうにはにかみました。なぜだか私も恥ずかしくなって急いで顔を前に向けました。

一度だけ彼女とふたりきりで出掛けたことがあります。遊びではありません。彼女のテスト勉強を見てあげるためです。私は喜んで承りました。紳士ですからね。図書館はとても静かです。隣に座る彼女もとても静かです。私が指示した問題を真面目に解いています。私はそんな彼女の横顔に見入っていました。言い表しにくいのですが、真面目な彼女の表情はとてもいいです。いつまででも見ていられると思いました。ふと、彼女が私のほうに顔を向け私は突然のことに動揺しながらもどうしましたか?と問いかけると、彼女はにっこりと笑みを浮かべノートを見せてきました。ノートには私の似顔絵がデカデカと描かれてありました。上手く特徴をとらえているそれは私にとてもよく似ています。なぜか恥ずかしくなって真面目にやりたまえ!と大声を出してしまいました。紳士あるまじき行為です。当たり前ですが周りから痛いほど視線を感じうるさいと注意されてしまいました。なんてことだ。彼女はお腹を抱え、必死に笑いを堪えています。私は赤い顔をごまかすようにゴホンッと咳払いをしました。

中学一年生の終わり頃、突然彼女が転校していきました。あまりにも突然すぎる出来事に私は信じることができませんでした。しかし、机の中に彼女が入れたのであろう新しい住所とバイバイと一言だけ書かれた紙が入っているのに気付き本当に彼女はいなくなってしまったんだと実感しました。ぽっかりと穴が開いたように、なんとも言えない虚しさだけが残りました。でも、まだ手紙があります。彼女は私に新住所を教えてくれました。さっそく、当たり障りのない手紙を書き送りました。一週間後に彼女から返事が返ってきました。いろんな色ペンを使って賑やかなその手紙はまさに彼女が書いた手紙です。私はとてもあたたかい気持ちになりました。彼女は元気に過ごしているようでした。私も彼女のいない毎日に少しずつ慣れてきていました。

半年間続いた文通は、ぱたりと途切れてしまいました。彼女から返事が返ってこなくなったのです。何かあったのだろうか。私には彼女の状況を知る術は手紙以外何も残されていません。しかし、返事のない手紙を出し続けることは私にはできませんでした。ただただ虚しさばかりが募るからです。いくら待っても、彼女から手紙の返事は送られてこない。
ふと、彼女からの最後の手紙が気になりもう一度よく読んでみることにしました。いつもと同じく明るい内容の彼女からの手紙。いつもと違ったのは一番最後の一言だけでした。バイバイ。今まで送られてきた手紙にはその一言は添えられていません。バイバイ。その一言が私にはとても重い一言でした。

私はもう中学三年生です。君も中学三年生になったことでしょう。今、君はどんな学校生活を過ごしていますか?楽しんでいますか?ちゃんと笑っていますか?
私は君に会いたいです。

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