どいつもこいつもくそったれ。横柄な態度と誰彼構わずに暴言を吐く私に近寄る者などいるはずもなく、私はこの教室でいつもひとり、だったはずなのに。

「…さっきからなに?人の前に突っ立って、邪魔なんだけど」
「頭の悪い君に教えてあげよう、これからなんの時間だと思う?」
「帰宅」
「正解、だが君と僕はちがう」
「はあ?なに」
「今から図書委員の集まりがある、君も図書委員だろ、行くぞ」
「ひとりで行けば」
「そうしたいのはやまやまなんだが先輩が君を連れてこいとうるさくてね、まだ一度も委員会に顔出したことないだろう?喜べ、先輩がえらくお怒りだ」
「めんどくさ、私がいてもいなくても関係ないじゃん」
「関係ないね、だが今日こそは絶対に連れてこいと言われているんだ、ぐだぐだ言わずにさっさとこい」
「うっさいなあ、大体、図書委員なんて最後まで残ってたから仕方なくなっただけだし、あ、そういえば伊東が立候補してから誰も図書委員やりたがらなかったよね、あんた嫌われ者の自覚ある?」
「…その言葉、君にだけは言われたくないな、嫌われているのは君もだろう」
「私はひとりが好きだからいいの、でもあんたはさあ、みんなに好かれようと必死だよね、いっつもみんなの視線気にしてバッカみたい、この前なんてさ、」
「黙れクソアマ」
「…は」
「僕とお前が同類だとは思っていないが多少似ている部分もあるのだろう、まったく認めたくはないがな、気づいた以上そう思うしかない」
「なに、」
「僕がなにも知らないとでも?」

バカはお前だろう。
身長差から伊東を見上げる私とそんな私を見下す伊東の目線が、ふいに私から外れ私の、スカートへ。そこばかりをじっとりと見つめる伊東にぞわりと悪寒が走りすぐにその場から逃げ出した。うそ、まさか本当に。あいつは、あいつは気づいた?私、の。ふざけんじゃねえ、気持ち悪い気持ち悪いくそメガネが。

吐き気がする。あいつは私と同じくクラスでいつもひとりだったけど、私は一度だってあいつを同類だとは思わなかった。あいつは他人から好かれたくて努力するけどそれが逆効果で他人からは疎まれる、でも好かれたいからもっと努力する、そしてまた他人から疎まれる。この無限ループが続く様を遠くから見ていつも鼻で笑っていた。いや笑うでしょ、てか気づけよ。お前のやってる努力はすべて逆効果なんだよ。他人との壁を広げてるのが自分自身だってなんで気づかない。学年トップの成績を誇るくせに頭が悪いったらない。
私は違う。なにをすれば他人が嫌がるのかすべてわかった上でそれを実行して、嫌われ疎まれひとりきりになった。毎日が地獄で苛立ちばかりの退屈で窮屈なくそみたいな日々。その上友達なんか作ったら、考えただけで面倒くさい。自分のことで毎日が精一杯なのに他人のために思考する時間なんてもってのほか。学校だってできれば行きたくないけど高校は卒業しておきたいし、なにより家にいなくていい口実になる。

一気に階段を駆け上がり開けた扉の先は、屋上。帰宅する人や部活動に勤しむ人がいる中、私はひとり屋上で暇つぶし。これが毎日の日課。できるだけ遅く家に帰るためのささやかな抵抗。のろのろといつもの定位置に向かいずるずると寝そべる。夏が近いからこの時間でもまだ明るい。空がきれいだ。

「やっぱりここにいたか」

突然耳に届いた声に驚き上体を起こすと、私に近づいてくるあいつの姿が。なんで、委員会に行ったんじゃ。ぐるぐると先程のことが頭の中で旋回し苛立ちが募る。ぎりり、歯を食いしばりながらすぐさま立ち上がりすでに目の前にいる奴を睨み上げた。私の威嚇に伊東は余裕の表情でにやりと口角を上げ、私の、スカートの裾に、手を。

「さわんな!!」
「なんだ、こんなことは日常茶飯事だろう?ちがうかアバズレ」
「死ね!てめえの憶測で適当なことぬかしてんじゃねえよ!!」
「へえちがうのか、それじゃあ何か見られたくないものでも?」
「…!」
「当たりか、本当に知能レベルが低い人間は扱いやすくて助かるよ」
「…気持ち悪いんだよ根暗野郎が、なに?おともだちがひとりもできないからって私に八つ当たりでもしにきたわけ?ガキかよ、そんなんだから誰もあんたなんか見ないんだろーが、気づけバーカ」
「…本当に口の悪い女だな、僕よりはるかに劣る分際で威勢だけはいい社会のクズが。僕はね、前々からお前の存在が嫌でたまらなかったんだよ、忌々しい、いっそ殺してやろうか」

私が反論しようと口を開いた瞬間、一気にスカートをめくられた。伊東に下着を見られた、なんてそんなことよりも重要なことが私の脳裏を過ぎり思いっきり声を張り上げる。その声に一瞬隙を見せた伊東の顔面を怒りにまかせてぶん殴ってやった。たまらず頬を押さえ痛そうによろける奴の姿に、それでも怒りが収まらずもう一発殴ろうと拳に力を込めると伊東は躍起になってその手を掴みぎろりと私を見下す。そんなもので怯えるはずもなく睨み返す私は怒りでどうにかなってしまいそうだった。こいつ見やがった。こんな奴に、くそったれが。殺してやりたいのは私のほうだ。

「っはは、なんだお前、その痣は、ああ家庭内暴力か?」
「死ね変態!!!」
「お前が何を隠しているかは大体見当がついていたよ、はっ、くだらない」
「てめ、」

瞬間、太ももに痛みが走る。びくりと体が震え見ると、伊東の大きな手がスカートの中に入り込み太ももに触れていた。触れていた、なんて生易しいものじゃない、ぎりぎりと痣の上から指先に力を込めてくるから痛くて痛くてたまったもんじゃない。こいつわざと、ぎりり。再度強く痣を押し潰され声を出しそうになる口をやっとの思いで固く閉じる。自然と視界がぼやけ始めぎゅっと眉間に力を込めた。いやだ、こんな奴の前で泣きたくない。
そう思っていたのに。必死に我慢する私の姿ににやりと口角を上げた伊東はスカートから手を抜き、今度は上着の中へ。体全体が大きく波打つようにびくりと揺れ、無遠慮に侵入してくる伊東の腕を掴むが片手じゃあまり意味は無く、簡単に侵入を許してしまった。依然強い力で掴まれている片手は振りほどくこともできず、あまりの非力さにどんどん視界がぼやけていく。伊東は何も言わずに私の制服の上着を胸の上までまくりあげ、痣だらけの私の上半身をまじまじと見つめる。なんなの、なんなのこいつ。なにがしたいの、もういやだ、だれか。

気づいたときには私の頬に涙が伝っていた。少しでも伊東には見られたくないと顔を背ける、そしてお腹にあたたかな感触が。ごつごつとした大きなそれは伊東の手。見ると、なぜか伊東はいつくしむように私のお腹にある痣を撫でていて。そのあまりの優しい姿に少しだけ体から力が抜けた。何度も何度も痣の上を滑るように撫でるその感触がくすぐったい。さっきまであんな乱暴だったのに、いきなりどうして。ぐすん。鼻をすすると伊東が驚いたように顔を上げ私を見つめる。私が泣いてるの気づいてなかったのか、やだな。見ないでほしい。そんな、ありえない優しい目で。

「…きらいだ、僕と同じでいつもひとりきりの君のことが、きらい、だ」
「……」
「でも僕は、ひとりでいる君から目が、離せなかった」
「…え」
「おかしいだろう?君が図書委員に決まったときも、なぜか嬉しくて、僕自身この矛盾がわからなくて、いや、今でもよくわからないが」
「い、とう」
「だから、君の異変はすぐに気づいたよ、本当に、こんなものが君の体にあるだなんて、忌々しい、きたない」

苦しそうに目を細めた伊東は、自分の制服の襟に指をかけゆっくりと下にずらす。現れたそれに私は目を見開いた。そこには私と同じ痣が黒々と存在していて。
時が止まったかのようにまばたきを忘れた私は、もやのかかった脳内が少しずつクリアになっていく不思議な感覚を感じながら、人差し指を静かに、伊東の痣の上に置く。優しくそれを撫でると、伊東は眉を下げて悲しく笑った。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -