天使の羽の奪い方


「じゃ、あとは頼んだぜ」
「イエッサー!まっかせて下さい!」
「…無駄に元気だねえ、おめーは」

ちゃんと見張っとけよと一言残し阿伏兎さんは暗い道を走り去って行った。カンカンカンと暗い道に響く阿伏兎さんの靴音が次第に小さくなっていく。よくよく耳を澄まし完全に阿伏兎さんの靴音が聞こえなくなったのを念入りに確認し、もう大丈夫だと足元に座り込んでいる人質の縄を解き始めた。

「あ、あの」
「はい、なんでしょう」
「な、なんで縄、解いてるんですか?」
「あなたを逃がすためですよ」
「え、」
「はい、縄解けました」

綺麗に縄を解き立ち上がると人質もおどおどと立ち上がる。さあ逃げて下さいと促す私にますます意味がわからないのか、怪訝そうな顔をし私を見つめてきた。

「どうしたんですか?早く逃げて下さい」
「な、なんで」
「あなたはラッキーです、見張り役が私だったからこうして逃げるチャンスをゲットできたんですよ」
「で、でも、僕が逃げたら、あなたは」
「そこら辺は大丈夫です、なんだかんだで世話好きの阿伏兎さんがなんとかしてくれますから、あ、阿伏兎さんっていうのはさっきまでここにいたおじさんですよ、ああ見えてなかなか面白い人なんです」
「…あ、ありがとう」
「いえいえ、さ、急いで下さい、阿伏兎さんはあっちに行きましたから逆方向に進んで行けば大丈夫でしょう」
「ありがとう、ほんとにありがとう!」
「おっかない私の仲間に会わないように気をつけて下さいねー」
「あなたのこと、絶対忘れません!ほんとにありがとう!」
「面白いことしてるね」

走り去って行く人質がこちらに手を振りながらだんだんと小さくなっていく光景を見つめていた最中、突然聞こえてきた背後からの声に驚き後ろを振り返るがなぜかそこには誰もおらず。まさかと前方に顔を向けたときには既に遅かった。少しの悲鳴と血が飛び散る音。カツンカツンと靴音を鳴らしながら暗闇から姿を現した返り血だらけのその姿に、小さくため息をこぼした。

「…人質殺してどうするんですか」
「よく言うね、その人質を逃がそうとした分際で」
「……」
「お前が一緒に仕事にくるとなかなかうまく事が運ばない理由がはっきりわかったよ、何か言うことは?」
「…すみ、ません」
「あはは、そんな嫌々ながら謝られてもなあ、結局人質はいなくなっちゃったし」
「そ、それは団長がっ…!」
「どうやらお前には少しばかり調教が必要みたいだな」

面倒くさいけど部下の躾は上司の役目だからねとにっこり私に微笑んできた団長。あの笑顔はやばい。すぐに逃げようと一歩後ずさったが団長の速さに勝てるはずもなく呆気なくその場に組み敷かれてしまった。勢いよく床に背中を叩きつけられ小さく苦痛の声を漏らす。ぎりりと両手首を片手で掴まれ頭上に抑えつけられれば抵抗する術がなくなり、恐る恐る見上げた先に見える団長の微笑んだ表情に背筋が凍る。
恐怖で固まる私をよそに団長はにこにこしながら一気に私の胸元を大きく開いた。ぶちぶちと服を破られ団長の眼前に現れた素肌と下着にどうしようもなく恥ずかしくなり思わず顔を逸らす。そんな私に一度視線を向け、なんの躊躇もなく団長は私の胸を下着の上から鷲掴みぎゅっと握りしめてきた。

「いっ、た…!」

あまりの痛さに顔を歪め唇を噛み締める。それでも団長はにこにこ笑顔を浮かべながら胸を握りしめ私が痛がる様子をじっと眺めているだけ。いつもの笑顔より幾分か暗みを帯びた恐ろしい笑顔で。怖い、こわい。団長が、見てる。苦痛に耐える私をじっと、ただただ見てる。見ないで。恥ずかしい、恥ずかしい。

「つまんないな」
「…え、」
「お前じゃ勃たない」
「…!」
「女の魅力が欠片もないよ、お前」

ケタケタと軽快に笑う団長の姿にさっきとは違う恥ずかしさが込み上がり無償に泣きたくなった。女の魅力が欠片もないなんて、そんなの大きなお世話だ。胸が小さいことくらい私だってわかってる。男の人を引き付けるような妖艶さがないことだって。ああもう嫌だ。お願いだから阿伏兎さん早く戻ってきて下さい。団長とふたりきりなんて嫌だ。
こんなことならあの人質を逃がすなんてことしなきゃよかった。それに私が逃がしたせいであの人は団長に。本当に申し訳ない。無駄に善意なんか出すからこんな目に合うのかな。

少しだけそんなことを考えていると突然口の中にずぼりと団長の指が入ってきて、苦しさを訴えるように唸るが団長は変わらず笑顔を浮かべたまま。三本の指を使って器用に口の中を這い回る。
ゆっくりと団長の指が歯列をなぞる感覚にびくりと体を強張らせた。そんな私の様子に少しだけ目を細めた団長は三本の指で舌の裏側をゆるゆると擦りあげぎゅっと舌を指で挟む。うっと声を上げながら唾液が口からつーっと伝って行く感覚を感じ眉を潜めた。ずるっと団長の指が口から抜かれ咳をしながらもやっとで呼吸すると、それを楽しそうに見つめながら団長が私の唾液がべっとりとついている三本の指を自身の舌でべろりと舐めた。あまりの挑発的なその姿に、ぞくりと全身が震えた。

「…前言撤回」
「…え、」
「今の顔はなかなかいいよ、その調子で俺をもっと楽しませてくれ」

にやり、口元を歪めた団長の見たこともないその表情に不覚にも釘付けになってしまった。目を見開きぼーっとする私に笑みを浮かべた団長の顔がだんだんと近付いてくる。口元に伝う唾液をねっとりと団長の舌で舐めあげられやっと我に返った私は抵抗するがまるで意味はなく、悔しい思いを押し殺すように唇を噛み締めた。耳に歯をたてられ痛いと声を荒げるがいい顔だとなぜか褒められ行為は進む。
もうこれ以上は限界だ。そう願った私の思いが天に通じたのか、私の耳を舐めている最中の団長の元に天の使者であろう阿伏兎さんが登場しやっとで行為は終わった。ほっと胸を撫で下ろすも邪魔をした阿伏兎さんに笑みを浮かべながら追いかけ回す団長。その光景にご愁傷様ですと他人事のように私は手を合わせた。

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