今日から私は銀魂高校の三年生になる。一年二年と自分自身に別段目立った出来事もなければ忘れられない事件なども体験しなかった。言うなればどこにでもある普通の高校生活を私は過ごしてきたということになる。それを二年間。別にそれに対し不満を感じることもなかったし、むしろそれでよかったと思っていた。普通が一番いい。それはこれからも変わらない。高校生活最後の一年間も普通に過ごしていくのだろう。そう、思っていた。

いつものように銀魂高校に行くため私はいつもの電車に乗り込む。朝のこの時間帯はいつも人がぎゅうぎゅう詰めでほんと勘弁してほしい。特に夏場なんか最悪だ。いまの季節は春。今日から私は三年生でクラス替えも今日発表。友達と離れないといいなーなんてのんきに考えていたら、電車の扉が閉まる直前にドタドタと騒がしくふたりの男が入ってきた。
そのふたりは心底焦っていたのか、荒い呼吸をなだめようと必死になっている。扉の近くにいた私は、私に背を向けているその男ふたりから数歩離れると小さく身を縮める。目の前にあるスーツを着たおじさんの背中が嫌に密着してきて私は自身の胸元でカバンを抱きしめた。ふと気付くとギュウギュウとしているこの密集地帯に押されるように、いつの間にかさっきの男ふたりが私の隣に立っていて、私は小さくため息を漏らした。

「ヅラ、俺のいちご牛乳の借りはきっちり返してもらうからなァ、覚悟しとけよアン?」
「ヅラじゃない桂だ、大体寝坊する貴様が悪いんだろう、もう少しでこの電車に間に合わなかったかもしれんのだぞ、この年中モサモサヤロー」
「んだてめー、モサモサってのは俺の髪のこと言ってんのかコノヤロー、言ってくれるじゃねーかよヅラごときがよォ、ただでさえ寝起きで機嫌わりーってのにさあ、これは久々に銀さんキレちゃったね、プチーンとキレちゃったよ、どうすんの?お前これどうすんの?」
「大丈夫だ落ち着け、深呼吸をしろ、ゆっくりと息を吸ってー吐いてー、吸ってー吐いてー死んでー」
「あれ?なんか変な言葉が聞こえたよーな」
「気のせいだ」
「ああ、気のせいね、もー銀さんびっくりしちゃったって、んなわけねえだろ!!」

勢いよく銀髪の男が長髪の男に掴みかかったのと同時に、周りから痛いほどの視線と迷惑だとでも言うようなわざとらしい咳払いが聞こえてきて、それに気づいた銀髪の男は仕方なさそうに長髪の男に睨みを利かせながら胸倉を掴んでいた手を離した。どうでもいいけど、私の隣で暴れるのだけはしないでほしい。
そういえば。バレないようにこっそり隣を見上げて見えるのは、やる気のない目とくるくるふわふわな銀髪。おまけに制服が私と同じ。まさかとは思ったけどどうやら私の考えは当たっているらしい。

この銀髪の人、うちの高校のZクラスの人だ。というか絶対。問題児ばかりが集まるZクラスの面々はある意味有名だから。たぶんこの銀髪の隣の人もZクラスの人なんだろうな。長髪の男がいるって噂で聞いたことがある。銀髪の人は学校でもときどき見かけてたなあ。確か名前は。あれ、なんだっけ。
うーんと頭を悩ませていると、電車の振動で目の前にいるおじさんの背中と隣にいる銀髪が勢いよく私のほうに寄って来た。ちょ、待って待って、潰れる!これほんと潰れる…!

ぐえっと女の口から出たとは思えないような声を出しながら耐える私の足に、誰かの手が当たった。まさか。今まで生きてきた中でそんなことは一度たりとも経験したことはない。というかしたくない。それはこれからも。だからさっきのはただの気のせいだ。そうだよ気のせいだ、気のせい気のせい。
自分を落ち着かせるように念仏のごとく気のせいを連発していると、再度自分の足を誰かの手が撫でる感触を感じ私は固まる。一瞬で鳥肌がたち触られた方向に顔を向けると、そこにはかなり密着している銀髪が。顔を引きつらせ見上げていたら、ふいに締まりのない銀髪の目が私に向けられた。

「あれ?女の子?どうりで柔らけえはずだよ、てっきりどこぞのおっさんの足触ってんじゃねえかってすげー焦ってたからさあ、あ、俺も好きで触ってたんじゃないからね?なんつーの、勝手に手が動いちゃいましたー的な」
「へ、」
「へ?」
「変態!!」

力の限り隣にいる銀髪の脇腹を殴りつけてやった。ぐおっ!とお腹を抱えて苦しむ銀髪に気づいた長髪がどうした!曲者か!?と辺りをキョロキョロしているうちに全速力で電車から降りて高校に向かう。最悪だ。なんで朝からこんな目に合わなきゃなんないの。
さっきまでの銀髪の手の感触がまだ足に残っていてゾワゾワと身震いする。本気で気持ち悪い。お願いだから最悪なのは今だけにしてクラス替えは最高にしてほしいな、なんて普段はしないくせに神頼み的なことをしながら貼り出されているクラス替えの表に近づいていく。多すぎる人ごみをかき分けながら目にした事実は私に留めをさした。そんなバカな。

三年Z組。そこにははっきりと、私の名前が記されていた。

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