服従の下手ないぬ


私は自分の上司を心から尊敬している。春雨第七師団団長、神威様。素晴らしい強さを持ちながら毎日笑顔を絶やさず部下の私達に気兼ねなく接してくれる何とも心の広いお方。今日も笑顔が素敵です。団長のためなら私はなんでもやります。団長の命令だって喜んでききましょう。さあ団長、私に何なりとご命令を!

「じゃあおにぎり100個とみたらし団子150本お願いね」
「はい!すぐに持って参ります!」

言ってすぐに厨房へと猛ダッシュ。堂々と厨房の真ん中を陣取り大量に炊かれた米をテンポよく、かつ迅速に握りあげていく。中に入れる具もいろんな物を使用。以前地球に行ったときに少し覚えた地球食の作り方がこんなところで役にたつなんて。どうやら団長は地球の食べ物がなかなか好きらしい。よかった。地球食の作り方覚えて本当によかった。これで団長に喜んでもらえる。ふと団長のいつもの笑顔を思い出し緩む口元をごまかすようおにぎりを握るスピードを早めた。

「またなんか作ってんのか?団長の飯かそれ」
「そう、おにぎり100個とみたらし団子150本」
「よくもまあそんなんに付き合ってられること、俺には真似できないね」
「ちゃんと命令通り作れば団長喜んでくれるよ」
「あーそうかい、お前のわけのわからねえ団長好きはいつになったら落ち着くんだか」
「それは絶対ないね」

きっぱりと否定する私に、だと思ったとお手上げ状態の阿伏兎は好きにしてくれと厨房から出て行く。結局手伝いに来たのではなくからかいに来ただけなのかとため息を吐き急いで料理を再開させた。

「お、おまたせしました!」
「んー、おいしそうだね」

ほかの人達にも手伝ってもらいなんとか出来上がったおにぎりとみたらし団子を数回に分けて団長の部屋へ運んだ。すべてを運び終えた団長の部屋にはすでにカラになったおにぎりとみたらし団子の入れ物がいくつか置かれている。さすが団長。私達が運んでいるうちにもう食べていましたか。ぱくぱくと何ともおいしそうに頬張る団長の姿を私はうっとりと見つめる。食べているときも笑顔を絶やさないなんて。もうさすがとしか言いようがない。口元についた米粒を舐めとる姿は私を骨抜きにした。素敵です、団長。

「はー、食べた食べた、ごちそうさま」
「お、お口に合いましたか?」
「うん、うまかったよ」

か、神様…!団長がおいしかったよって、私の作った料理をおいしかったって!ああもうほんと嬉し過ぎる。こんなに嬉しいことってない。よし、また頼まれたらいつでも作れるようにレパートリーを増やしておこう。
頭の中でどんなものを作ろうかなと考えながら後片付けをしていると、ふと手元に影ができ不思議に思いながらも見上げるとなぜか団長が私を見下ろしていて。また命令してくれるのではと心を躍らせていると、何とも不可解な命令が投げかけられた。

「食後の運動に一発ヤろうか」
「や、やる?」
「そう、一発」

一発、やる。ぐるぐるとその言葉ばかりが頭の中を巡り巡っている私を差し置き団長はその場に座り込むと私の服に手をかける。ハッと我に返り急いで団長の手を払いのけ気付く。私、なんてことをしたんだ。

「ひどいな、いつもは俺の命令はなんでも聞いてくれるのに」
「いや、あの、これは」
「命令だよ、それでもだめなのかな?」

にこにこ。いつもと変わらない笑顔を浮かべ団長は問いただす。命令、そうだ団長の命令なんだ。それなのに私はさっき。私は団長になんてことをしたんだ!団長の命令は絶対なのに!大丈夫、今度は大丈夫だ。どくどくと焦る心臓を感じぎゅっと手を握りしめる。大丈夫大丈夫。だって相手は団長だもん、初めてだけど怖くない。怖くないんだ。団長だから大丈夫。団長だから。
なんでも受け入れる覚悟を表すように私は目の前の団長を見つめる。それを見た団長はゆっくり私に手を伸ばしてきた。ぎゅっと唇を噛みしめ俯く。大丈夫大丈夫、永遠と心の中で自分に言い聞かせるようにそう呟き続けるが細かに震えだす体の震えを止めることはできない。団長の手が再度服に添えられ心臓が一際大きく鳴った。

「冗談だよ、冗談」

ケタケタと笑い声が聞こえ顔をあげると乱暴に頭を撫でられ私は唖然。じゃーねと手を振りさっさと部屋から出て行く団長をただただ見ていることしかできない。冗談、冗談?一発やるって、冗談だったの?なんだ、冗談か。そっか。
ぷつんと緊張の糸が切れたように私は肩を落として大きくため息を吐く。なんだかよくわからないけどすごい緊張した。だめだな、こんなんじゃまだまだ団長の部下として認められない。もっと頑張らないと。まずはどんな状況になっても緊張しないよう強い精神力を作るところから!

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