ほら、まただ。この突き刺されるような嫌な感覚。

「…また子ちゃん、私もう無理、実家に帰らせて頂きます」
「ええええ!ちょ、いきなりどうしたんスか!」
「ごめん、ほんっとごめん、お願いだから帰らせて、早く!一刻も早くここから逃げたいの!!」
「と、とりあえず落ち着いて!」

自分でもわかるほどに目を見開きながら必死になってまた子ちゃんに詰め寄ると、また子ちゃんは意味も分からずに焦りながら物凄い勢いで後ずさりをする。そんなまた子ちゃんを見てハッと我に返った私は、大きく深呼吸を繰り返しやっとでいつもの落ち着きを取り戻した。大丈夫っスかと恐る恐る私に声をかけてくれる優しいまた子ちゃんはなぜか私から三メートルも距離をとっている。え、なんで?よく見るとまた子ちゃんの顔がかなり引きつってるような。え、また子ちゃん私にドン引きしちゃってる?

「待って!また子ちゃん違うの!いつもの私はこんなんじゃないの!だってまた子ちゃんだって知ってるじゃん!ただちょっと取り乱しただけだから!実家に帰りたいとか嘘だから!お願いだからそんな目で私を見ないで!!」
「わ、わかったっス!わかったからまず落ち着いて!ほんとにいきなりどうしたんスか、目が血走ってるっスよ」
「う、うん、あの」
「もしかして悩みがあるんスか?」

また子ちゃんの核心をつく言葉に図星と言わんばかりに押し黙る私。初めて見る私の異変にまた子ちゃんも疑問を感じたのだろう、三メートルもあった私との距離を一気に詰め私のそばへと寄ってくる。悩みがあるならなんでも言っていいっスよと優しく囁いてくれるまた子ちゃんに感動しつつ、私は最近身近に起こっているおかしなことをまた子ちゃんに話し始めた。

「…最近、妙な視線を感じるの」
「妙な視線、というと?」
「その、た、高杉さんに、見られてる気がして」
「晋助様が?ただ見てるだけなんじゃないスか?」
「ちちち違う!!あの視線はほんと尋常じゃないから!私の体中に穴が空くんじゃないかってくらい見てくるんだよ!?しかも私が高杉さんに目を向けてもずっと目逸らさないし!しかも見てるって言っても睨みだからね!?あの人絶対私のこと目で殺そうとしてるよ!そのせいで最近は怖くて怖くて全然寝てないんだから!!」
「あー、たしか今日も寝不足だって言ってたっスねー、じゃあ私仕事してくるんで」
「ちょっと待て!!」

なんで逃げるのと歩き出すまた子ちゃんの腕を掴むと、また子ちゃんは心底信じていないとでも言いたそうな疑いの眼差しを私に向けてきた。えええ、この目は本気で信じてない目なんですけどォオ!なんで!?こんなに必死になって助けを求めてるのになんで信じないの!?悩みがあるならなんでも言っていいって言ってくれたのに!

「また子ちゃん信じてないの!?」
「いや、だってありえないっスよ、その話聞いてるとまるで晋助様が変態みたいじゃないっスか、嫌っスよそんなの、変態な晋助様なんて認めないいい!!」
「また子ちゃん!?」

私の制止も聞かずにまた子ちゃんは物凄い勢いでどこかに走って行ってしまった。いやいやちょっと待ってよ。私だってそんな変態な高杉さんなんて断固認めたくない。認めたくないけど。それじゃあ最近のあのガン見はなんだァア!何!?もしかして私高杉さんに何かした!?何かひどく怒らせてしまうようなこと…そんなことしょっちゅうしてるからどれが原因かなんてわかんないんですけど。どうしよう、なんだ。なんで高杉さんは私をあんなにガン見するんだろう。
また子ちゃんもいなくなってしまったところでどうすることもできず、私は仕方なく自分の武器である銃の手入れを始めた。あー最近手入れしてなかったからひどいことになってるなあなんて考えるのも束の間。最近頻繁に向けられるようになった突き刺さるような痛い視線を再び背中に感じた。痛い、背中が痛い、痛すぎる。もうほんと穴のひとつやふたつ空いちゃってるんじゃないかな。

銃を手にしたままそっと何気なく後ろを振り返ると、やっぱりそこには高杉さんの姿があって私と目を合わせても変わらず私をジッと見つめている。見つめているというか睨んでいる。微かに高杉さんの目が細められたことに気付き私は静かに顔を元の位置に戻し手元の銃へと視線を落とす。ちょ、ほんとに怖すぎるんですけどォオ!何!?なんなんですかあの目は!なんであんなに睨んでるの!?私の存在自体に殺意を抱いてるんですかあの人は!あ、ちょっとこれ有り得そうで軽くへこむ。
意を決して本当に私に対して殺意を抱いているのか確かめるべく再度振り返ると、やっぱり合ってしまう私と高杉さんの目。どす黒い憎悪を含んだ鋭い片目で私を睨みつける高杉さんに負けじと私も見つめ返していると、ふと高杉さんの表情に変化が起こった。口角が上がりニヤリと不敵な笑みを浮かべる高杉さんの顔。彼の目は少しだけ柔らかいものになっていた。

突然の高杉さんの表情に私は驚きを隠せずにすぐに立ち上がると、さっさとこの場を去ろうと早足で歩きだす。なんだあれなんだあれなんだあれ。まるでいい獲物でも見つけたみたいな。ちょっと待って、本気で怖すぎる。高杉さんは本当に私を殺す気なのかもしれない。そんなの嫌だ、このまま逃げよう。ドキドキ心臓がうるさいし顔とかすっごい熱くて意味わかんないけど。きっとこれはさっきの顔が格好よかったとか綺麗だったとかそんなことを考えてるからじゃなくて、これは。

「おい、逃げるんじゃねえ」

背後からかけられたこんな一言で、私の足はバカみたいに止まる。
ああもう、好きにして下さい。

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