「沖田隊長、誕生日おめでとうございます」

ふと聞こえてきた声に顔を上げれば隊士の方々が沖田さんにお祝いの言葉をかけていた。そんな隊士の方々に沖田さんはいつものように涼しい顔をして、誕生日なんだから何かよこせと暴言を吐いている。やっぱりいつ見ても素敵な方だな。性格は少しアレだけど。

こっそりとしか沖田さんの姿を見ることができない私は少し前から真選組の女中を勤めている。そう、ただの女中。故に今まで一度だって沖田さんと会話などしたことがない。所詮は私の片思い。初めてここに来て沖田さんの姿を目にし一瞬で恋に落ちた私はどれほどのバカだろう。こんな意味のない、叶うはずのない気持ちなんて存在するだけ無駄なのに。そう何度も思えば思うほど、不思議なことに沖田さんを想う気持ちは強くなっていく。今だってまた無意識に沖田さんを見てしまっていた。本当に私はバカだ。
そしてバカな私はとうとうそれを形にしてしまった。誰にも気付かれないようにそっと懐から出したのは、この日のために夜な夜な必死になって作った手作りのマフラー。無難にもほどがあると自分に何度もツッコミをしたけど、沖田さんに贈り物をするという考えだけで頭が一杯だった私には最早これしか思いつかず。しかも出来栄えは我ながら最低。虫食いでもされたのかと疑われるほど至る所に大きな穴が空きどこもかしこもよれよれ。なんだこれ、こんなのどこからどう見てもただの雑巾にしか見えないよ。

「ちょっとォオ!あんた何サボってんのォオ!!年寄りにばっか働かせてんじゃないわよ!!これだから若い子は!」
「あ、すみません!」

年長の女中さんに見つかり、手にしていたマフラーのようなボロ雑巾のような物をすぐさま懐にしまう。急いで仕事へと向かう中、額を流れる汗を拭い空を見上げた。今日も太陽は無駄に元気で尋常じゃない暑さが辺りを漂う。もう夏なんだなとため息をつき私は立ち止まった。え、待って。ちょっと待って。夏?今の季節は夏、どっからどう見ても夏。この暑さからして夏。待って、え、ちょっと、それじゃあ。

「なんで私こんなの作っちゃったのォオ!!」
「うるせェエ!!いいからさっさと働けって言ってんだよこの小娘がァア!!」

本気でキレている年長さんを前に私はただただ呆然とするしかできず、年長さんに引っ張られながら再び仕事場へと移動していく。どうしよう、まさか自分がここまでバカだなんて。いくら沖田さんへの贈り物で緊張して頭がうまく回らなかったとはいえ、普通すぐ気付くでしょ。なんでこんな暑苦しい夏の季節にマフラーなんてさらに暑苦しい物作っちゃったの。しかもマフラーとも言えない雑巾みたいな出来上がりだし。ありえない、ありえなさすぎる。もうほんとに泣きたい。

結局あまりのショックから沖田さんにプレゼントを渡せず、気がつけばすでに夜になってしまっていた。どうしよう、今日がもうすぐ終わる。でも今更こんな物沖田さんに差し上げるなんて。ギュッと雑巾のようなマフラーを握りしめ私はふと思いつく。
そうだ、せっかく沖田さんのために作った物なんだから渡すだけ渡してこよう。沖田さんのことだからきっと季節外れのマフラーなんて思うわけないし、すぐに雑巾だと思って雑巾として使ってくれるはず。例え雑巾のように使われようとも、私が使うより沖田さんに使われたほうが何倍も嬉しい。気付かれないように、沖田さんの自室の前にそっと置いておこう。

半ば開き直った私は、そう考えたのと同時にそれをすぐに行動に移した。しきりに辺りを見渡して誰にも見られていないのを確認し、沖田さんの部屋の前に静かにマフラーを置いてすぐさま自室へと戻る。自分の布団に潜り込むとなぜかドキドキと心臓がうるさく鳴り続けていることに気付いた。明日、沖田さんはあれをどうするだろう。どうか捨てることだけはしないでほしい。雑巾でいいから、沖田さんに使われているといいな。

翌日、奇跡を見た。

「沖田隊長、ど、どうしたんですか、それ」
「なんでィ」
「いや、だから首に巻いてる雑巾みたいな無駄に暑そうなモコモコのことです」
「どっからどう見てもタオルじゃねーか、最近は歩いてるだけでも汗だくにならァ、首にタオルは常識ってもんだぜィ」
「えええ、でも逆に暑そうですよ、ていうかタオルなのになんでモコモコ?ちょ、これ毛糸じゃないですか!?」
「おい、何してんだテメェ、誰が勝手に触っていいっつった」
「えええ!ちょ、刀抜かないで下さいよォオ!!」

仲のいい隊士に向かって刀を振り回す沖田さんの首にはしっかりと見覚えのある不格好なマフラーが。呆然と立ち尽くす私に顔を向け、ニヤリと笑みを浮かべた沖田さんをやっぱり好きだと思う私はどうしようもないバカ者だ。

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