「土方さん沖田くん、こんにちは」

銀ちゃんと買い物帰りにぶらぶら歩いていると、前方から見知ったふたり組が歩いてくるのが見え笑みを浮かべ挨拶をする。私の言葉におうと軽く返事をする土方さんとどこか遠くを眺めそっぽを向く沖田くん。そんなふたりを前に私の隣で買い物袋を持った銀ちゃんがにやにやとちょっかいを出し始めた。

「おふたりさん昼間っからこんな街中ぶらぶらしちゃって堂々とおサボりですかー?まったくいいご身分だこと」
「んなわけねえだろ、俺達は仕事だ、お前らと一緒にすんじゃねえよ」
「土方さん私達もちゃんと仕事してますよ、今は仕事の合間に買い物しにきただけです」
「そーなんですー、あんたらと違って僕達ほんと真面目人間なんでえ」
「おい、誰かこのうぜえの黙らせろ」

終始にやつきながら土方さんに声をかける銀ちゃんと、そんな銀ちゃんの態度に今にも怒りが爆発しそうな土方さん。ふたりの言い合いに時折仲介に入りながらさっきから一言も声を発していない沖田くんへと視線を向ける。同時に見事沖田くんとばっちり目が合い、どうしようかと考えている間にさっと沖田くんが私から顔を背けた。なんだかいつもの沖田くんらしくない。気付いたときにはとっさに口を開いていた。

「沖田くんもお仕事お疲れ様」
「どーも」
「あ?なんだ総悟、腹でも下したか?」
「うるせえ死ね土方」
「お前が死ね」
「あ、そういや今日の晩飯ってなんだっけ」
「今日はお鍋だよ、銀ちゃんがそう決めたんじゃん」
「おーそうだったそうだった、うお!?」

買い物袋の中を銀ちゃんと一緒に覗いていると突然私と銀ちゃんの顔の間に掌が出現。驚く私達を尻目にそれはなぜか銀ちゃんの頬を思いっきり叩きすっと姿を消す。ばちん!と一発平手を食らった銀ちゃんはぶっ!と吹き出し赤くなった頬を抑え叩いたであろう人物をぎろりと睨みつけた。唖然としながら銀ちゃんの視線を辿っていくと見えたのはなぜか沖田くんで私の驚きは倍増。そんなこと気にも留めていないのか、沖田くんはなんとも悪びれなく平然とし片手を顔の真横にあげていた。

「おっまえ、いきなりなにしやがんだ!」
「すいやせん、旦那の顔に蚊がいたもんで、つい」
「ついじゃねーよ!つか蚊とかありえなくね?いるわけなくね?ひどくね?俺かわいそうじゃね?」
「総悟よくやった」
「てめえ!!」
「ちょ、銀ちゃん鼻血出てるよ」
「んなあ!?」

怒りで我を忘れそうな銀ちゃんをなんとか抑えつつ、慌ててポケットから取り出したティッシュで銀ちゃんの鼻血を拭こうと銀ちゃんの顔に手を伸ばした瞬間。

「土方さんそろそろ仕事に戻りましょーや」
「は?なんだお前、ほんとに大丈夫か?お前が真面目に仕事やるなんざ気味がわりー」
「いいからさっさと歩けやちんかす」
「誰がちんかすだ!!」

ぎゃあぎゃあと喚きながらふたりは何事もなく去ってしまった。ぽかんとだんだん小さくなっていくふたりの背中を眺めている私に早く鼻血拭いてちょーだいと銀ちゃんが声をかけてきて慌てて銀ちゃんの鼻にティッシュを詰めた。それにしてもやっぱり、沖田くんはどこかおかしかった。いつもならもっと喋るしいきなり銀ちゃんを叩くなんてもってのほか。なにかあったのだろうか。
ひとりで悶々と頭を悩ませていると、ぽんっと私の頭に優しく手が置かれ顔をあげると目の前には怪しい笑みを浮かべ鼻にティッシュを詰めている銀ちゃんの姿が。

「いやー、青春だねえ」
「え?」
「銀さん妬いちゃうなあ」

一体なんのことを言っているのか。銀ちゃんの言葉の意味がわからなく首を傾げている私を銀ちゃんは楽しそうに眺めている。結局答えは見つからず銀ちゃんとふたり、買い物袋を手に万事屋へと帰った。

翌日、銀ちゃん達が仕事でいないため今日はひとりで夕飯の買い出しへと出かけた。スーパーに入り昨日は鍋だったから今日は何にしようかと財布の中身を確認しつつ慎重に夕飯を考える。今の時期は寒いからなあ。でもこのお金じゃあまり凝ったものはできないし。カレー、は前に食べたばっかりだからだめだよね。うーん。あ、そうだ。おでんとかいいかも。うん、今日はおでんにしよう。
今日の夕飯も決まりるんるん気分で野菜コーナーへと移動する。早速大根を置いている場所に向かうとなぜかそこには沖田くんの姿があった。

「沖田くん!沖田くんも買い物しにきたの?」
「さあ」
「お仕事中?」
「そうかもしれやせん」

笑顔で声をかけるとちらりとこちらに視線を向けすぐにそっぽを向く沖田くん。やっぱり変だなあ。前はみんなと接するときみたいにたくさん話もしてくれたのに。目だってこんなにすぐそらさなかった。そういえば沖田くんがよそよそしくなったのもつい最近な気がする。それもいきなり。一体なんで。せっかく年も同じだから仲良くなりたいなって思ってたのに。
眉間にしわを寄せ悶々と考え込みながら置いてある大量の大根を見ていると、その中のひとつが沖田くんの手によって取り上げられそれは流れるように私が持つかごの中へ。きょとんとしながら沖田くんを見るといつもの涼しい顔をした彼と目が合う。嬉しいことに目を逸らされる気配はない。

「沖田くん大根買うの?」
「あんたが難しい顔して選んでるんで俺がとっておきの上物を選んであげやした」
「あ、そっか、ありがと!」
「今晩も鍋ですかィ?」
「違うよ、今日はおでんです」

私の言葉にぼそりと俺も食べたいと沖田くんが呟いたから食べにおいでよと誘うと嫌だときっぱり断られてしまった。平然とした顔でそうきっぱり告げられては苦笑いを浮かべるしかない。このなんとも言えない空気を変えようと次の食材探しに歩きだす私の背後からなぜか沖田くんもひょこひょこついてくる。思わず仕事はいいんですかと尋ねるとさあとまた曖昧な返事が返ってきて私は再び苦笑い。そんな私を尻目に沖田くんはいつもと変わらない表情で。まったく、沖田くんの考えてることは想像できないな。

「今日はありがとう!」
「暇だったんで遊んだだけでさァ」

本日の買い物袋はふたつ。それをどちらも手に持ち私の隣を歩く沖田くん。私が何度持つと言っても聞く耳を持たず沖田くんが袋を離さなかったためふたり一緒に万事屋まで向かうことになった。夕暮れ時の道を歩きながらそっと隣を盗み見る。暇だったなんて、口ではそう言ってたけど。本当は何度も何度も携帯が鳴っていたのを私は知っていた。やっぱり仕事中だったらしい。なんだか悪いことをしてしまったようで申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「あの、沖田くん」
「なんでィ」
「その、ごめんね」
「なんのことだかさっぱりでさァ」

空を見上げながらとぼける沖田くんになぜか笑いが込み上げくすくすと小さく笑う。同時に斜め上のほうから視線を感じ少し見上げると私を見下ろしている沖田くんと目が合ったが、すぐにそらされてしまった。まただ。買い物してるときは普通だったのに。そんなことを考えながら視線を逸らしたままの沖田くんの横顔を見つめ、ふと夕日に照らされている彼の髪に目が止まった。

「…髪、きれいだね」
「は?」
「沖田くんの髪が夕日に照らされててね、すっごい綺麗だよ!」

夕日に照らされてなくても綺麗だけどと笑顔を浮かべると再び沖田くんが私のほうに顔を向け私をじっと見つめる。目が逸らされないことに内心驚きながらなんだろうと私も沖田くんをじっと見つめていると、突然ぼんっと音がしたように真っ赤になった沖田くん。いきなりの変わりように目を丸くしているとふいっと沖田くんは私から顔を背けてしまった。それからはなぜかぎくしゃくして。何度声をかけても沖田くんはこっちを向いてくれなかった。
なんだかいつもより時間がかかったような気がしながらも無事万事屋に到着。万事屋の前で沖田くんから買い物袋を受け取りお礼を言おうとすると沖田くんはさっさと行ってしまって。どんどん遠くなっていくその背中に慌てて声をかけた。

「今度遊びにきてね!」

大声で言った私の声にも振り返らず背中を向けたまま、沖田くんはなにも言わなかった。

数日後。万事屋の玄関に現れたのは普段着姿の沖田くん。その手にはお菓子がたくさん入った袋が握られていた。

「おっじゃましまーす」
「沖田くんいらっしゃい!」

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