舌打ちするほど傲慢な体の擦り合いに凍りついても


幼なじみの神威に久しぶりに俺の家に遊びに来てと言われ、休日に早速神威の家を訪れた。高校に入学してからクラスも別れお互いあまり話さなくなりぎこちなくなってしまっていたから、私としてはすごく嬉しい神威からのお誘い。関わり合いがなくなっていた私をなんで突然家に呼んでくれたのか。そんな少しの疑問が頭を過ぎるがなかなか神威本人に聞くことができず、もやもやとした感情を抱いたまま神威の部屋に入った。神威の部屋にくるのは本当に久しぶり。幼い頃と変わらず神威の部屋にはあまり物がなくなぜだかほっとした。

「そういえば、誰もいないね」
「親も妹も用事があって遅くなるってさ」
「そっか…」

それじゃあ、今この家には私と神威のふたりきりってことか。神威とふたりきりも久しぶりだ。こうやって普通に話すのだってすごく緊張する。ずっと前は全然平気だったのに。
差し出されたコップを受け取りお礼を言うと神威もにっこりと笑みを浮かべてくれた。いや、神威はいつもにこにこ笑ってるからな。そういえば高校でも廊下とかですれ違い様に見れば神威はにこにこしてた気がする。神威はモテるから、ときどき女の子の集団に囲まれている光景も目にしていた。そのときも変わらず神威はにこにこしてたな。小さいときと同じ笑顔で今も笑っている神威。それがたまらなく嬉しかった。

ちらりと神威に視線を向ければにっこりと笑顔を浮かべる神威とばっちり目が合い慌てて顔を背ける。それからコップに口をつけている間もずっと、じりじりと神威からの視線を感じどきどきと心臓が高鳴った。あまりにもじっと見られているもんだからどうしていいかわからず視線を泳がせているとふいに神威が口を開いた。

「彼氏、できたんだってね」
「…!」

突然の言葉に驚いて神威のほうに顔を向けると、神威はさほど驚いている様子もなくいつもと変わらない笑顔を浮かべている。神威の言う通り、私は一週間前くらいから同じクラスの男子と付き合い始めた。人生で初めてできた彼氏。それでもあまり広めたくないからと教室でも極力一緒にいないようにしてたのに、やっぱりそういう話はすぐに広まってしまうのだろうか。違うクラスの神威が知ってるくらいだからもうほとんどの人が知ってるのかもしれない。そう思うと恥ずかしくなり少しだけ顔を俯けた。

「その反応じゃほんとみたいだね」
「う、ん」
「…悪い女だ」
「え?」
「ちょっとこっちきてよ」

そう言ってぽんぽんとあぐらをかいた自分の足を叩く神威。ただじーっと見つめるばかりだった私はやっとで意味を理解しあたふたと慌ててそれを拒否する。それでも神威はにこにこしながらおいでと私を呼んでいて。そのときの神威の笑顔がなぜだかすごく怖く感じた私は嫌だと後ろに下がった。神威は笑顔を浮かべながらしょうがないなと小さく呟き、私に寄ってくると簡単に私を抱きあげ自分のあぐらの上に私を座らせる。開いた両足を神威の体に巻きつかせるような自身の大勢に恥ずかしさが込み上げた。

「か、神威、どうした、の」
「俺の言うこときいてくれたら離すよ」
「言うこと…?」
「付き合ってる奴と別れるって言うなら離してあげる」

こつん。私の額に自分の額を合わせ至近距離で私を見つめる神威。あまりの近さによく見えないがやはり神威の口元には笑みが浮かんでいた。それなのに。神威の目は全然笑っていない。射抜くように私を見つめ瞬きさえしないその目に私はごくりと息を飲んだ。真剣な神威の目。ずっと一緒だったけど、小さい頃はこんな顔一度も見たことがなかった。初めて見る神威の表情。ぐっと後ろに体重を乗せ逃げようとするが腰回りに神威の手がありぎゅっと抱きしめられているせいで逃げられない。どうするんだ。まるでそう追いつめられてる気がして私は意を決して口を開いた。

「わ、かれ、ないっ」
「なに?」
「別れない、よ」
「なんで?」
「…好き、だから」
「ふーん」
「は、なして、神威」
「言ったよね、言うこときいたら離してあげるって」
「言うことは、きけないよ」
「別れない?」
「わか、れない」
「そっか」

じゃあ、離さないよ。
そう呟いた瞬間、いきなり片手を掴まれずぼっと神威の口の中に突っ込まれた。驚く間もなく神威は私の指を口の中で舐めまわす。べろべろと舌が指を這うたびぞくぞくして目をぎゅっと閉じる。そんな私の様子に神威は私の指を舐めながら楽しそうにケタケタ笑っていた。ねっとりと指に絡む神威の舌の感触が嫌で手を振り解こうとするが強い力で掴んでいる神威の手はびくりともしない。顔から火が出そうなほど真っ赤になる私を見つめながら、神威は私の中指をちゅうと吸った。

「顔真っ赤」
「か、むい、やめてっ」
「別れる?」
「う、」
「ねえ」
「そ、れは、いや」
「あはは、やっぱり昔から頑固だね、お前は」

掌に舌を這わせていた神威は楽しそうに笑い私の手を離す。すっかり神威の唾液まみれになってしまった手をすかさずごしごしと自分の服に擦りつけていると、唇に神威の手が当たり恐る恐る顔を上げる。神威は笑みを浮かべたまま私の唇に指を這わせていた。

「次はお前だ」
「え、」
「ほら、さっき俺がやってみせただろ?同じように俺の指も舐めて」
「な、なに言ってるの!やるわけ、ないよ、そんなこと!」
「じゃあ別れる?」
「む、りだって、それは無理、だよ、神威」
「でしょ?それなら舐めるしかないよ」
「い、いや、できない、できないよ」
「できないんじゃなくてやるんだよ、ほら舐めて、さっき俺がやったみたいにちゃんと舌使ってね」

有無を言わさぬ神威の雰囲気に私はぼろぼろと涙をこぼしながらゆっくり神威の指に舌を這わせていく。なんで、なんでこんなこと。なんで神威はこんなこと私にさせるの。訳がわからなくてただ涙を流すだけの私に神威はもっと舐めろと命令してくる。そう言われてもどうすればいいかなんてわからない私は恥ずかしながらも懸命に神威の指をぺろぺろ舐め続けた。

「へたくそ」
「こ、こんなこと、したことないから、わ、わかんない!」
「へえ、彼氏としてないんだ」
「しないよ!」
「じゃあエッチは?」
「す、するわけないじゃん!」
「まだなんだ、上出来上出来」
「な、にが!」
「そんなに怒らないでよ、キスはした?」
「し、して、ない…」
「したんだ」
「してない!」
「隠してもバレバレだよ、お前はすぐ顔に出るからね」

瞬間、神威の目が氷のように冷たくなった。確かめるようにじっと見つめているとふっとそれは消え、さっきの冷たい目が嘘のように瞳はにっこりと笑みを浮かべている。見間違いだろうか。額に冷や汗が滲む。同時に私の口に添えられている神威の指にぐっと力が入った。

「なにぼーっとしてるの、まだ終わりじゃないからね?」
「も、もう、いいで、しょ」
「だーめ」
「か、神威っ」
「今度は噛んでよ、俺の指、もちろん思いっきりね」
「な、なんで」
「いいから」
「いや、だよ、思いっきり噛んだら、神威が痛い思いするんだよ?」
「血が見たいんだ、それともお前が血を見せてくれるのかな?」
「…か、むい」
「痛い思いは嫌でしょ?だから俺の指噛んでよ、ちゃんと血が出るくらいね」

たじろぐ私を尻目にずぼりと二本の指を突っ込んできた神威は、早くと呟く。口の中の神威の指がつんつんと私の舌を刺激し思わず歯をたててしまった。がりっと口内で嫌な音がし、私は慌てて口の中から神威の指を引っ張りだす。案の定神威の指には歯型がついていて血が流れていた。あまりの衝撃にさーっと全身から血の気が引いて行く。

「ごめ、ごめん神威」
「予想してたより痛かったな」
「ご、ごめ、大丈夫!?」
「血出てる」
「か、神威が!神威が噛めなんて、言うからだよ!私、やりたく、なかったのに」
「なに泣いてんの?大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃ、ない!」
「俺も大丈夫じゃない」

ぐっと私の首の後ろを掴み引き寄せた神威と私の顔の近さはどちらかがあと少し近付けば容易に口づけできる距離だった。あまりの近さに動揺する私をじっと見つめる神威。舐めて。静かな声が耳に響き先程と同じく口元に血が出ている神威の指があてがわれた。

「一緒に舐めて」
「い、いや、だよ」
「別れる?」
「ま、た、それ」
「別れないの?」
「別れない、よ」
「本当に頑固だね、お前は」

細められた瞳と一段低くなった声。ぞっとするほどの冷めた瞳が目の前にあった。神威。消えそうなほど小さな声で呼んだ私の声を合図に神威は舌を出しねっとりと血が出ている自分の指を舐め始める。私の唇にくっついている神威の指。そのせいで神威が指を舐めながら私の唇も舐めてくるからぞわぞわと体中が変な感覚に包まれた。そのまま神威の唇は上にあがり涙を溜める私の目に軽くキスを落としべろりと舐めあげる。しょっぱい。ため息のようにこぼれた神威の言葉。ゆっくりと私と視線を合わせると薄い唇を私に押しつけ、血の味がする神威の舌が私の口の中に入ってきた。

口内で蠢く神威の舌。それを拒絶するように両手で神威の肩を押し返す。私の舌を絡めようとしてくる神威から逃げるように顔を背ける。しっかりと腰に手を回している神威から離れようと両足をばたつかせる。
やっとで離れた神威の唇。神威はもういつものように笑ってはいなかった。どうしようもない苛立ちを露わにし私を抱き寄せ舌打ちをひとつ。

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