「よっ」
「うわ!なんか出た」

突然窓からひょっこり現れた不審人物は、ふわっふわの真っ白な髪を揺らしながらよっこらせと無断で家の中に入ってくる。もちろんその場には私だけなんてそんなことはあるはずもなく、テンパった仲間の男達が曲者だああなんて叫ぶわ騒ぐわ。どたどたと部屋中騒がしくなり私は注意する気も失せ顔をしかめて両手で耳を塞いだ。騒ぎの元となる不審人物はそんなこと気にも留めずなぜか私の目の前に座り込みわくわくと懐からお菓子を取り出す。

「ほら、銀さんが直々に選び抜いた菓子持ってきてやったぜ、名付けて銀さん特製お菓子!」
「なにしにきたの?」
「いや、だから菓子持ってきたって言ってんじゃん、ぜーんぶ俺が好きなもんばっかだから安心しろー」
「意味わかんないんですけど」
「つか相変わらず男しかいねえむさ苦しいとこだなァ、お前もよくこんなとこいられるもんだ、そのうち乗っかられても知らねーぞ」
「この変態が、誰もそんなことしないし」
「そう余裕ぶってられんのも今の内だよ?後ろ見てみろよ、男共がお前を取り合ってはしゃぎ回ってらァ」
「おめーがいきなり現れたからだろーが、あーもう、かーつらあ!!」

ぼりぼりと人の目の前で持参したお菓子を食べ始める銀時を無視し、後ろを振り返り大声を張り上げる。バカみたいに騒ぐ仲間に一括するためとこいつの友達であろう人物を呼ぶため。私の声に我に返ったみんなは落ち着きを取り戻し静かになった。それでも目的の人物は現れない。耳障りなぼりぼりとお菓子を食べる音が嫌でも耳に入り苛立ちは募る。これでもかというほどヅラ!出てこいー!と声を張り上げるとやっとでエリザベスと一緒に長髪がひょっこり姿を現した。

「ヅラじゃない、桂だ」
「お客さんだよ」
「おい、誰がこいつ呼べっつったよ」
「銀時、入るときはもう少し用心しろと言っただろう、下水道通ってくるとか下水道通ってくるとか」
「できるか!なに?わざわざ遊びにきてやったってのになにこの扱い、ひどくない?」
「やっぱり遊びにきただけかこの天パが」
「おいおい、遊びにきたなんてのは実は嘘でお前がそこらの獣に乗っかられてねえか心配で来たっつー銀さんの隠れた優しさに気付かなきゃだめだぜー」
「案ずるな、俺がいる」

真顔で私の頭に手を置く桂にお前が一番危険なんだ!と桂に華麗な蹴りを食らわせる銀時。ばりぼりとやけ食いのように持参したお菓子を食べ始める銀時の姿に深くため息をついた。
私が銀時の場所、万事屋から出て桂のところに来たのは数ヶ月前。理由は前々から気になっていた攘夷活動をどうしてもやりたくなったから。その話をしてすぐに承諾してくれたのは桂、そして大反対したのが銀時。その銀時の反対を押し切り半ば無理矢理桂のところへ。それからというもの、銀時はちょくちょくここへ顔を出すようになった。それは何日も続けて来たりずーっとこなかったのにいきなり現れたりとまるで神出鬼没。銀時の突然の出現に私達はいまだ慣れずさっきのように騒ぐことが多い。明らかに過保護にしては度が過ぎている。

「おい、これ食べてみろ、すんげーうまいから、銀さん一押しの菓子だから」
「どれ、そんなに言うのなら食べてみるとしよう」
「だからなんでお前!?誰もてめーに言ってねえよ!いいから消えてくんない!?」
「おお、なかなかうまいな、見直したぞ銀時」
「なに勝手に食ってんの!?もーほんとお前さァ空気読めよマジで!」
「桂、口の周りにお菓子ついてるよ」
「なに、どの辺だ」
「そこじゃないって、ここ」
「なにいちゃついてんだてめーら!!」

突然鬼のような形相になった銀時が私と桂をびりりと引き離し間にエリザベスを置いた。ちらりと見た銀時の表情はまさに不機嫌。本当にこいつはどんだけ過保護なんだ。いくら心配だからって桂にまで警戒することないじゃないか。お前は私のお母さんかっつーの。

「銀時落ち着け、俺達は別にそんな怪しい関係ではないぞ、しいて言うならぐちょぐちょな関係だ」
「ぐちょぐちょお!?」
「ちょっと!なに誤解を招く言い方してんのよ!銀時違うから!桂と私はなにもないから!」
「そうだぞ銀時、俺達はなにもしなくてもぐちょぐちょな関係だ」
「ぐちょぐちょお!?」
「だから違うっつーの!桂、ちょ、黙っててくんない!?」
「ぐちょぐちょお!?」
「うるせえ!お前もそこばっか反応してんじゃねえ!!」

銀時がそろそろ自我を失いかけたとき、タイミングよく桂が仕事だとか言ってエリザベスと一緒に部屋からこそこそ出て行ってしまった。あからさまに嘘だあの野郎。逃げた桂を睨んでいるとばりぼりと何かを食べる音が聞こえ銀時に目を向ける。案の定銀時は思いっきり不機嫌な顔をしてむしゃむしゃと持参したお菓子を食べていた。食べかすこぼしまくりだし。なんなんだこいつは。

「ちょっと、食べかす落とさないでよ」
「ヅラとの攘夷活動は楽しいですかー?」
「はあ?」
「楽しいかって聞いてんだよバカヤロー」
「なにそれ、楽しいわけないじゃん遊びじゃないんだし、私も桂も必死なんです」
「ああそうかい、万事屋は遊びだったってわけかい」
「誰もそんなこと言ってないでしょ」
「こっちはお前の心配してやってるっていうのによー」
「あんたは私のお母さんか」
「だーれがお母さんだ!!」

ばん!とお菓子の袋をその場に叩きつけもう帰ると銀時は来たときと同じく窓に足をかける。何も考えずにそのまま出て行こうとする銀時の着物の裾を慌てて掴んだ。突然後ろに引っ張られ不機嫌そうに顔を歪めた銀時が私のほうに振り返る。私は自分がなぜ銀時を止めたのかもわからず手を離しながらごまかすように笑顔を作った。

「え、えーと」
「なんだよ」
「こ、今度は私がそっちに行くから」

銀時の好きなお菓子持って。そう言うとふいっと私から顔を背けそーかよとたった一言、素っ気ない言葉を残し窓から出て行ってしまった。どんどん小さくなる背中を見送り部屋の中を見渡す。部屋中食べかすだらけにして暴れるだけ暴れて、本当になんて奴だ。それでも。
去り際の、私から顔を背けたあいつの耳が真っ赤になってたから許してやろうなんて私もとんだ甘いやつだ。

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