![]() 店長であるお登勢と話をしたあと、次に銀が店を訪れたのは四日後だった。話をした直後はもやもやとした想いに悩まされていたものの、少しずつ落ち着いてきたかな、というタイミングでの来訪だった。 あからさまに動揺している妙に、銀はすぐ気付いた。あからさまと言っても、それは銀の目に映る妙が動揺しているのであって、傍目に見ればいつもどおりだったのかもしれない。ただ、彼からしてみればいつもどおりではなかった。声の掛け方や視線を逸らすタイミングに、違和感を感じた。 「おい」 別の客の会計を済ませたタイミングを見計らって、声をかける。自分から声をかけるということはあまりしないのだけれど、今日の態度を見逃すことはできなかった。何かがおかしい。避けられている気がする。 「……なんです?」 ほら、おかしい。彼女は今にも逃げ出してしまいそうな様子で、思わずその手をとった。一瞬びくりと反応したけれど、そのまま手を引っ込められてしまわないよう力を込める。 「何があった?」 「……特に、何もありませんけど」 「……」 「……」 無言で見つめ合う。威嚇するつもりではなかったが、自然と睨むような目付きにはなってしまったと思う。ああそうですか、では済ませられそうになかった。 「……今夜」 耐えきれず、彼女は先に口を開いた。静かで、いつもより少しだけ低い声。 「三丁目の川の橋の下で待ってます。そこで、少しだけお話ししましょう」 「……わかった」 彼女がどこか悩んでいるような、戸惑っているような、そんな様子なのは明白で。その原因が自分にあることもまた明白だった。彼女の選択肢としては、話し合うのが精一杯なのだ。 その真剣な想いにどうしても応えたくて、約束を交わした。三丁目の、川の橋の下。確認するように呟きながら、ゆっくりと手を握る力を緩めた。するりと抜けていった彼女の手と、店の奥に行ってしまったその姿を目で追っていたのは、きっと無意識ではなかった。 →Next →back |