その感情に名前は無く | ナノ


その感情に名前は無く




 誰とでも仲の良いあなたが羨ましいと思った。私もそうなりたいと思った。だけどそれだけじゃなくて……それ以上に、私もその一人として、あなたとお友達になりたいと思った。
「だからね、結構ショックだったんだよ?」
「え……そんなことあったっけ」
「あったよー。でも……そっか、燐は覚えてないんだ……」
 燐にとっては、その程度のことだったのかな。お友達になりたいって、燐や雪ちゃんとならそうなれるんじゃないかって、意気込んだあのとき。『友達じゃねーよ』の一言に、予想以上に傷ついた。覚えてないと言われた今も、少しだけ傷ついている自分がいる。
 夏休み以降も忙しくて、まだ遊園地には行っていない。一緒に行こうねって約束したけど、それは覚えてくれているだろうか。
「いや待て、思い出したような言ったような気がしないでもないっつーか……つかあれだろ?友達じゃないってそういう意味じゃなくて……」
「?」
 ぽつりぽつりと、何かを思い出したかのように言葉が紡がれる。燐の気まずそうな表情の意味を、私は知らないけれど。
「……だから、さ。たとえば、今度遊園地行くっつったろ?あれ、雪男は一緒じゃねぇから」
「え、そうなの?雪ちゃん忙しいって?」
「……やっぱりな」
 なんで雪ちゃんが行けないのかも、燐が拗ねたように唇を突き出す理由も、わからない。わからないけれど、遊園地の約束を覚えてくれていたことが素直にうれしくて、ブサイクな顔だなんだと言われても、顔がにやけるのは抑えられそうにない。
 燐はピタリと歩を止め、唇を突き出したまま視線を外してさらに続ける。
「もし、『俺はしえみのことを友達だって思ったことは一回もない』って言ったら、怒るだろ?」
「……怒るっていうか……結構落ち込むかも……」
 もしもの話であるにも関わらず、心の奥が痛んだ。それだけ聞きたくない言葉だということ。そんなのわかりきっているはずなのに、燐はどうしてそんな意地悪な言葉を並べるのだろう。
 だよなぁ……とため息をついた彼は、私を抜かして再び歩き始める。置いていかれないようにその後ろをついていくけれど、隣には並ばず、なんとなく一歩後ろを歩いた。
「俺は、おまえに満面の笑みで『燐はお友達だよーっ』って言われる方がよっぽどショックだけどな」
「……へ?」
 小さく呟かれたその言葉の意味がわからず、今度こそ尋ねるけれど、答えは教えてくれなかった。二人の間に溝があるみたいで本当はいやだったけれど、燐が半分おもしろがってるようにも見えたから、今はまだこのままにしておこう。遊園地に行く頃には、わかるようになってるといいな。




11.08.16.
遊園地ネタは原作でやってくれるのを待っているので書きません…が、お友達発言ネタだけはどうしても書きたくなりまして
わかりやすい燐の思春期が楽しいです




back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -