わかりにくい恋愛感情 | ナノ


わかりにくい恋愛感情(恋人設定)




 好きな人の前では笑顔になる、なんて絶対ウソだ。ウソとは言わないまでも、みんながみんなに当てはまることではない。だってこいつは、まず最初に嫌そうな顔をするから。
「たまにはうれしそうな顔したらどうでィ」
「うれしくないのにうれしそうな顔しろなんてムリに決まってるネ」
 久しぶりに会えたってーのに……まったく、なんて素直じゃない女なんだ。かわいくない。好きを認めない、照れもしない、かわいげの無い女。だからこそ、気に入ったんだけど。
「……うれしいくせに」
 俺と一緒にいられること。たわいない口喧嘩。もちろん口だけじゃない、本当に攻撃を仕掛けることもある。なんでそんなことしてるのかって、楽しいからに決まってんだろ。俺も、おまえも。
 口には出さないが、こういうくだらない付き合いには何度も助けられている。トモダチではない、腐れ縁でもライバルでもない。どんなに口が悪くても、甘い空気でなくても、コイビトなのだ。ただそれだけの事実でも、こんなに助けられている。
「たまには素直に甘えてこいよ、なァ?」
「たまにはたまにはって……さっきから失礼アルな」
「ホントのこと言ってるだけでィ」
 その”たまには”の表情がすごく好きで。すごくすごく、好きで。だから見たい。見せてくれ。見せろよ、たまには。
「……そーいうおまえだって、ツンデレの”デレ”の字ないだロ」
「そんなことねーよ」
 知らないとは言わせねェ。俺が何回、おまえの前で素を見せたと思ってんだ。
 会いたいときに会いたいって言ったり。キスしたいときにキスしたり。抱きしめたいと思うままに抱きしめたり。そんなこと、たまーにしかしないけど。チャイナの前でしか、したことない。
「……チャイナぁ」
 わかんねェなら今すぐその姿を見せてやってもいいんだぜ?久しぶりに会えて、ホントはおまえを感じたくてたまらなかったんだ。
 なにヨ、と振り返るその身体を抱きしめる。小さくて、柔らかくて、いいにおいがした。どんなに強くても、かわいげがなくても、女の子なのだと実感する。
 俺の腕の中でもぞもぞと動いて、背中に腕を回してくる。こんなふうにすんなり甘えてくるのは珍しい。俺にも同じことが言えるけど。
「あったかいアル……」
 似た者同士だなんて思わない。ただ、波長が合っているとは思う。らしくないことを思っているのは自覚済みだ。そんなの、とっくの昔から気づいてる。ことごとく狂わされて、狂わせて、それでも一緒にいたいと思うのだ。
 こいつの独り言に対しては何も返さなかったが、たしかにあったかい。俺が感じているように、おまえも俺をあたたかいと感じているということだろうか。……それは多分、ちょっと違う。俺はあったかくなんかねーよ、と思ってしまう。俺とおまえは違うから。おまえみたいなあたたかさを、俺はもっていないから。
「……あったかいよ、そーご」
 まったく、こいつは。ホント、いいタイミングで呟きやがる。
 返事の代わりに、抱く腕に力を込めて。苦しそうに、でもくすぐったそうに笑うこいつを、今だけは独り占め。
(……あ、でもやっぱ顔見たい)
 そう思ってゆっくり身体を離せば、思ったとおりの柔らかい表情。いつもより子どもの表情で、ふにゃりと笑っているのが一瞬だけ見えた。
(俺もこんな顔してんのかねェ)
 どうしたの?とでも言いたげな表情に変わる前に、視界を閉ざして唇を塞いだ。




10.07.26.
恋人な沖神は妄想するのが難しい
なんやかんやで相手に絆されてるといいと思います




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