![]() 「天気いいし、散歩でもしよっか」 そんな一言で外へ出た。彼女の愛犬も連れて、三人……正確には二人と一匹でのんびり散歩。しっかりと手を繋いで、ゆっくり落ち葉を踏み締めながら。 そこはお決まりのコースだった。花が咲いている季節も、からりと晴れた日も、たいていこの道を歩く。その途中で寄り道をして、新しい何かを見つけるのも楽しいんだ。彼女と一緒だから。 「……ふふ」 「なんすか?」 「ちょっとね。春のこと思い出して」 「あー……」 たしかこの辺だったよね、と彼女は笑う。もう半年も前のことだ。道端に咲いていた小さな花が目について、なんとなくそれを摘んだ。愛犬と戯れる大切な人を見て、似合うかな……と思ったりなんかして。 「おもしろかったなぁ……花井くんが真剣に花見てるんだもん、意外だったー」 「笑わないでくださいよ。あれは、百枝さんに似合うかなーって考えてたから真剣だったンすよ」 そう、あのときは目が合った瞬間に、花井くん似合うー!と笑われてしまったのだ。当然、オレから似合いますよと言えたはずもなく。そんな、なんでもない一場面だったのに。 「……よく覚えてますよね、半年前のことなのに」 「たった半年だよ?なんでもないことって思うかもしれないけど、そういうのって意外と覚えてるもんじゃない?」 「まあ……そうっすね」 オレだって覚えてる。大切な日のことはもちろん、こうやって散歩してるときとか、なんでもない日のことも。そうして、思い出って名前の写真が増えていくのなら。 (アルバムには終わりがない) 終わりがない代わりに、続きがあるアルバム。いっぱい知って、思い出を増やして、ページを埋めていくのだろう。 たとえば、彼女の泣き顔を初めて見たとき。驚いたけど、少しだけうれしかったのを覚えてる。強がりな彼女の、弱い一面が見られたから。恋人なんて関係がなかったら、きっと一生見られなかったであろう姿だから。 あのときは掛ける言葉も思い付かなくて、ただただ慌ててしまったけど。だけど、今度は。 「……いつか」 繋いだ手をぎゅっと握って。まっすぐな瞳を見つめて。 「いつかきっと、もっとしっかりした男になりますから」 年下だなんて思わせないくらい。強気で、大人で、でもフツウの女の人のあなたを、支えたいから。 「弱いところを見せたり、甘えたりしても大丈夫なんだって、安心してもらえるように」 一人で大丈夫なんて言わせない。護りたいんです、なんて、おこがましいだろうか。だけど、笑ったり泣いたり、もっと二人のアルバムを。 「……今日の花井くん、恥ずかしいことばっかり言ってくるよね……」 うん、でも、ありがとう。その照れたようなやさしい笑顔が、またページを重くする。 ××.××.××. BUMP OF CHICKENの『とっておきの唄』より この曲は個人的にずっと花モモソングだと思っておりまして 大好きな曲で書けたのですごく満足しています →back |