欲しいだけあげる | ナノ


欲しいだけあげる




 ソファに寝転んで本を読んでいたら、ウィンリィがオレにかぶさるようにして抱きついてきた。それに機嫌を良くしたオレは、右手で本を脇にやり、左手で彼女を抱きとめながら起き上がる。
「なに、おまえから甘えてくんの珍しいじゃん」
「へへ、たまにはいいでしょ?」
「ん、」
 悪くねーよな、こういうのも。平穏っつーかなんつーか。すぐ隣にウィンリィがいる、そんな毎日。
「……エド」
「ん?」
「……」
「……ウィンリィ?」
 おろされた髪がさらりと揺れる。ドキッとしたのもつかの間。いたずらっぽく笑って、ウィンリィは言った。
「浮気したら許さないわよ」
「は?なんだよ急に、オレは……」
「……離れないでね」
「……」
 ああ、そっちが本音か、と。突然甘えてきたのは、不安のサイン。潤んだ瞳と、涙が零れないように引き結んだ唇がその証拠。
 何かをした覚えはないけれど、不安なんてそんなものだ。平和な毎日に、急に不安になって、寂しくなって。オレだってそう感じる日がないわけじゃないけれど、しあわせな毎日に、どこか安心していた。
「……離れねーよ」
 俯いてしまった彼女に、オレは一言だけ呟いた。たった一言。だけど安心させるための言葉なんかじゃなくて、それは本音。
 絶対離れねぇ。……違う、離れらんねーんだ。毎日顔を合わせるのが当たり前になってしまって、そしたらもう、離れるなんて考えられなくなった。旅してた頃が嘘みたいに。
「足りない?オレのこと」
 左手でこいつの頭を引き寄せて、こつんと額を合わせれば、ウィンリィの温度。淡い金色の髪は、梳くとサラサラで気持ちいいけれど、今日は頭ごとしっかり捉えて離さない。
 ごめんな、気付かなくて。いろんな想いを溜め込ませて。溜め込ませてることにすら気付けなくて。
「……おら、ウィンリィ」
 こっち向け。
「ウィンリィ……」
 ぬくもりも、キスも、オレ自身も。欲しいならあげる。欲しいだけあげる。おまえが寂しくならないように。不安に思わないように。傍に、いるから。
 もう一度名前を呼べば、何かをこらえるようにウィンリィはぎゅうっと目を閉じた。その瞬間、溜めていた涙がとうとう溢れる。目をつむったまま、「ずるい」と「ばか」を繰り返して。
「名前呼ばれるの、弱いって、知ってるくせに……っ」
「ああ、知ってる。わざと言ってるに決まってんだろ?」
「……っ、バカぁ……」
 オレの服の裾をぎゅっと握って、ぽろぽろと涙を流すウィンリィ。かわいくねぇだの色気がねぇだの今まで散々言ってきたけど、やっぱり彼女はオンナノコで。強いけど、弱い。
「ほら、こっち見ろってば」
「うー……」
 涙に濡れた瞼を、ゆっくりと持ち上げて。それでも、合わせた瞳は勝ち気な碧。これで文句ないでしょ、とでも言わんばかりの、まっすぐな瞳。弱いだけじゃない、そんな女だからこそ。
 「すき」の二文字を伝える代わりに、キスをした。




10.05.03.(エドウィンの日)
2010年の503Festivalさまに投稿させていただきました
護られるだけの女じゃないのがウィンリィの魅力ですが、時には護られるべきだと思うんです
シアワセ連鎖反応の原田うり様とコラボさせていただきました




























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