眠らない姫 | ナノ


眠らない姫




 すごく自然な流れで、ウィンリィはオレの後ろをついてきた。だからオレは、部屋のドアを閉めようとしたときになってようやく彼女の存在に気付いたわけで。決して、何か考えがあって招き入れたわけじゃない。下心があったわけでもない。
「な、に……?」
「一緒に寝て」
「……は?」
 本気で言ってる?と尋ねる前に、再びお願いされた。どうやら、こいつは本気で言ってるようだ。だからといって、すんなり受け入れられる頼みでもない。オレたちは、もうそれなりの年頃で。ウィンリィだってそのくらいわかっているはずなのに、一体どうしたというのだろう。
「……理由、聞かせろよ」
 この時点で、オレはウィンリィを部屋に入れていた。なんだかんだで、初めから追い返すつもりなんてなかったのかもしれない。ドアを閉めると、恥ずかしそうに俯いて、ウィンリィは呟く。カミナリ、と。
「……カミナリだぁ?」
「あー、バカにしてるでしょ!」
「だっておまえ、今まで雷なんか怖がってなかったじゃねぇか」
「怖かったわよ、今までだって!」
 堪えられないほどじゃないけどね、せっかくいるんだから一緒にいてよ、と。たしかに今まで雷が鳴っていたときは、リビングにみんなでいたか、まだ幼くてばっちゃんと一緒に寝ていた気がする。最近、それも夜に、こんな雷雨はなかった。
 しかたない、とため息を零せば、ウィンリィはうれしそうにオレの手を引いてベッドへと進んだ。一応今はオレの部屋だけど、それ以前にここはロックベル家なのだから、彼女がリードすることに文句はつけられない。
「……なぁ」
「なぁに?」
「ホントに一緒に寝んの?」
「なによそれ、そうじゃなきゃ……」
 ウィンリィの言葉を遮るように、響く雷鳴。びくっと震えた体。それから、強張った表情。
(へぇ……)
 この歳になるまで知らなかったことがあるのは、なんとなく癪だった。でもそれよりも、守ってやらなきゃという気持ちの方が強くなる。
 さっきまでとは逆に、ウィンリィの手を引っ張って。そのまま二人で毛布を被ってごろんと横になれば、彼女はぽかんとした様子でこちらを見ていて。
「これで、音も少しは防げんだろ」
「う、うん……」
 近いな、と考える余裕はあった。何がって、ウィンリィが。だけど、こんな状況になったも、元はといえばウィンリィの発言のせい。オレは悪くないだろ……たぶん。
 再び聞こえた雷鳴は、さっきよりは小さいものの、ウィンリィの耳にしっかり届いていたようで。伺うような形で、オレの方を見ている。
(んな顔で見てくんな……っ)
 ……はっきり言って、この状況は、マズイ。正直、視線は口元にばかり向くし。不安げな瞳とか、いろいろ、ヤバイ。
「……文句ならあとで聞いてやる」
 うん?と尋ねてくる瞳。それに答えるように、そっと彼女の名前を呼んで。スパナが飛んでくるかも、と思いながらも、止めるつもりがないから、オレってやつはまったく。
「黙って目ェ、閉じろ……」
 彼女の髪を、撫でるようにして梳く。すると、ウィンリィは安心したように笑って。そのままそっと、瞳を閉じた。……そこまではよかったのだが。オレの心臓が高鳴るのとは逆に、ウィンリィはすやすやと……
(……って寝てんじゃねーよ!)
 心の中で、思わず盛大なツッコミ。いや、うん、解釈によっては、寝ろって言ったようにも聞こえる。だけど、さぁ……寝るの早くね?つか、そこで寝る?
(疲れてたのかな……)
 毎日仕事の連続で。好きでやってるとはいえ、その労働力は半端ないだろう。
「……おやすみ」
 しかたないというより、これでよかったのかもしれない、なんて無理やり自分を納得させて。頭をポンポンと叩いてやれば、ウィンリィはパチリと目を開けた。……え?
「キス、しないの?」
「……は?おま、何言って……」
 バリバリバリ、と落雷の音。まずい!と思ってウィンリィを見たが、こいつはけろりとした顔でオレを見ていて。……まさか。
「おまえ、もしかして……」
 えへへ、と眉を下げてウィンリィは笑う。そうだよな、やっぱおまえは雷を怖がるキャラじゃねぇよ。
「最初から騙してたのかよ……」
「バレるかなーって思ったんだけどね」
 演技派でしょ?と楽しそうに笑われて、ちょっと複雑な気分。完璧に騙された、ちくしょう。
「……で、オレを騙して何がしたかったわけ?」
「……言わせるつもり?」
「え……」
 思い当たるのは一つ。聞き間違いかなって思って流した、さっきのウィンリィの発言。あれ、まさか、本気?
「……そういうこと?」
「そういうこと」
「またウソだったりする?」
「しないわよ」
 一緒に寝て、って言えば、エドもその気になるかなーって思って、と。……へぇ。
「カワイイコト言ってくれんじゃん」
「……っ」
 そうやって照れるのも、かわいい。雷を怖がってるときより、全然かわいい。
 そうやって彼女の方から誘いがくるとは思ってなかったわけで。さっきまでの緊張がウソのよう。オレはいつになく強気になり、ニヤリとウィンリィを見た。
「……黙って目ェ、閉じろ」
 眠りについたお姫様を、キスで起こす趣味はない。ギリギリの瞬間まで、オレを見て。終わったらまた、オレを見て。そしてそっと、唇を重ねよう。




09.05.03.(エドウィンの日)
2009年の503Festivalさまに投稿させていただきました
お題は『文句ならあとで聞いてやる。黙って目ェ、閉じろ……って寝るんじゃねぇ!』
自分ではなかなか書かないギャグ風のお題で、難しかったけど楽しかったです
Polka Dotの鵺宵様とコラボさせていただきました




























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