遠回しな恋を | ナノ


遠回しな恋を 1




 坂田銀時が温泉のペアチケットを当てたのは、つい一週間前。どうせこういうのは一等なんて中に入ってないんだよ、なんて悪態をつきながら回した福引の抽選器から、出てきたのは白ではなく青の玉。はずれである白玉の景品はティッシュだ。それでも有難いと思っていたのに、出てきたのは青。二等の景品って何だっけ?下手なもんだったら売ればいいか、なんてぶっそうなことを考えていた銀時の耳に、カランカランカラン!という祝福の音と「おめでとうございまーす!」という店員の高い声が響く。
「二等、一泊二日の温泉ペアチケットでございます!」
「お、温泉〜?」
 ……マジでか。ぽかんとしているうちに、店員はてきぱきと仕事をこなす。チケットを手渡し、簡単な説明を終え、そしてすぐに次の客を見守りに行く。
 銀時はと言えば、わけがわからないうちに事が進み、いまだに呆然としていた。しかし頭に浮かんでいたのは、最近できた歳下の恋人の顔。志村妙とようやく恋人という関係になったのは、つい数ヶ月前のことである。
(温泉でペアっつったら……あいつしかいねぇよな)
 泊まりがけで温泉なんて、新八は許してくれるだろうか。神楽は自分も行きたいなんて言い出したりしないだろうか。いや、それでもお妙と行くけど。
 万事屋に帰る前に、恒道館道場に寄った。この時間ならまだ仕事前、家にいるはずだ。
「温泉……ですか」
「おう。福引で当てた」
 その反応を見てようやく気付いた。問題は新八でも神楽でもない、妙本人である。恋人同士とはいえ、泊まりがけで温泉……彼女は乗り気になってくれるだろうか。断られるかもしれないと思ったその瞬間に、差し出したチケットが手から引き抜かれ、同時に「わかりました」という声が小さく響く。
「……え?」
「いつにします?これ」
「……」
「……銀さん?」
 予想よりすんなりといったので気が抜けたが、何はともあれ一緒に行ってくれるらしい。何か裏があるんじゃないかと疑ってしまうのは、今までの経験があるのだからしかたがない。それでも、その嬉しそうなはにかんだような笑顔を本物だと信じるしかないのだけれど。
「休みが取れたら教えてくれ。もちろん連休で、だからな」
「はい。あ、新ちゃんには私から話しておきますね」
「おう、頼むわ。そんじゃな」
「あ、銀さん!」
 帰ろうと背を向けたその瞬間、引き止められて振り返る。すると遠慮がちに、それでもはっきりと、「楽しみにしていますね」と言って彼女は笑った。
(ったく……不意打ちだろ、それ)
 銀時はガシガシと頭を掻き、ひらひらと右手を上げて、再び彼女に背を向けた。その日まで待てっかなー、俺……そんなことを思いながら。
 思ったより早く休みが取れたんです、とお妙が銀時に電話をしたのは、それから一週間後のことであった。銀時が福引を引き当ててから、一週間と五日後。それが、二人の温泉旅行の日に決定した。




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