l'amour du chocolat | ナノ


l'amour du chocolat




 翔とのキスは好きだ。それだけで、身体が蕩けてしまいそうだと感じるくらいに。
(でも、今日はそれだけじゃだめ……)
 そっと唇を離すと、熱を帯びた瞳がじっとまっすぐに見つめている。嬉しさと恥ずかしさにどうしたらいいのかわからず、そっと肩に顔を埋めた。
「春歌? どうした……?」
 すり、と頬を寄せたまま、指先を滑らせる。背中をゆっくりと下り、足の付け根を辿って、固い太ももの上へ。パジャマの上からでも、充分に伝わる熱。
「…………あの」
 今日は、わたし、が。
 付け根の辺りを這わせていた指先を、そっと中心部に近づける。じりじりと撫でるように躊躇っていたものの、覚悟を決めてその上に触れた。翔の身体が小さく跳ねる。顔は上げられないけれど、おそらく意図は伝わったはずだ。
(ううっ……やっぱり恥ずかしい……!)
 そこから手を離してぎゅうっと抱きつき直せば、翔も同じように抱き返してくれる。重なり合う鼓動は早鐘のよう。好きという想いがいっぱいになって、寝室へ向かう前にもう一度キスをした。

* * *

 ベッドの上であらたまって見つめ合うと、なんだかそれも照れくさい。控えめに点したダウンライト。ちょっと重心を移動させると、スプリングが軋む。
「……緊張するな、これ……」
「? 翔くんも……?」
「そりゃそうだろ。だっておまえに、その……シてもらうの、初めてだし……」
 翔はそっと春歌の頬に手のひらを添えると、やさしく口付ける。柔らかな感触があったかと思うとそれはすぐに離れ、ふっと吐息が零れた。
「嫌なら、無理しなくていいんだぜ?」
「そんな……嫌なわけ、ないです……」
 羞恥心が動きを鈍くするだけで、決してその行為自体が嫌なわけではなかった。いつも自分ばかり気持ちよくさせてもらっているのではないかと気にしていたから、都合の良い理由を見つけてむしろよかったとさえ思っている。
 近距離で見つめ合い、そのまま引き寄せられるように口付けを交わす。ただ触れ合うだけのキスから、大人のそれへ。
(あ……)
 身体をぐいっと引かれ、そのまま翔に覆い被さるような体勢になる。思わず目を開ければ、翔もまじまじとこちらを見つめていた。慣れない視線に、つい狼狽えてしまう。
「春歌」
「翔くん……」
 あたたかな手のひらが、ゆっくりと髪を撫でる。その心地よさにうっとりとしながら、春歌は彼の唇を塞いだ。拙く舌を絡め、できるだけその気持ち良さに酔い痴れる。
 ぎこちない手付きでパジャマのボタンを外していくと、そういえば自分はまだ着替えていなかったと思い出す。どうしようかと迷ったけれど、自ら脱ぐのはなんだか緊張してしまう。幸い緩めのニットとスカートだ。多少汗はかくかもしれないけれど、邪魔にはならないだろう。
 露になった翔の肌を見下ろしながら、こくんと喉を鳴らす。鼓動は速くなる一方だ。恐る恐る近付いていきながら、まずは首筋にキスを落とす。どうしたらいいのかなんてわからないから、翔がしてくれることを思い出すしかない。
 ちゅ、ちゅ、と繰り返しながら鎖骨へと下りていく。あたたかな肌に触れていると、次第に落ち着いていくのを感じた。熱くなる身体とは反対に、安心感が生まれる。
(翔くん……翔くん……)
 想いを込めて、心臓の辺りにキスを一つ。それからまた、胸の辺りにちゅう、と何度も口付けた。頂に吸い付き、反対側を指先で弄る。これも、いつも彼がしてくれる行為の真似だ。
(翔くんも、気持ちいいのかな……?)
 声は出さないようにしているみたいだけれど、時々震えた吐息が零れている。それだけで、春歌の背中もぞくりと震えた。
 そろりと手の位置を下げていき、腰を撫で、腹筋をついとなぞる。手の端に触れた熱いモノ。思わず離してしまいそうになるのをなんとか堪えて、手で包むようにして触れた。いつも春歌の中に入ってくるそれに、手で触れたのは初めてだ。肌なんかよりもずっと熱い。
(これ、が……)
 春歌は思い切って身体の位置を下げる。さすがにじっと見ることはできなくて、薄く目を閉じた。
 戸惑いながらも、包んだ右手を動かし始める。
(こ、これで、いいのかな……?)
 何しろ正解がわからないのだから、翔の様子を伺うしかない。ちらりと上目遣いで見上げると、ちょうど翔もこちらを見ていて、思わず勢いよく視線を逸らした。一瞬しか見ていないはずなのに、熱っぽい眼差しが焼き付いて離れない。まさか、あんなふうに見つめられていたなんて。
 じわりと身体の奥が熱くなるのを感じて、春歌は躊躇いながらもそこに唇を寄せた。




2017.02.12.発行




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