いつの日から ロックベル家には、コルクボードに貼られた写真がたくさん飾られてある。毎日何気なくそれを見て育ったウィンリィは、新居にも同じように写真を飾った。自分たちの写真はもちろん、エドワードが旅先で撮ってきた風景も。何を撮っていいのかわからないと口をへの字にした彼が撮ってくる写真は、空や花など自然が多かった。 そうして鮮やかに彩られたコルクボードは、ふたつ、みっつ、と増えていく。 「なぁ、前から気になってたんだけど」 十歳の誕生日を迎えた息子の写真をコルクボードに飾っていると、後ろから声が掛かる。まだ声変わりをしていない柔らかな声と、父親そっくりの顔。好奇心いっぱいの大きな瞳にはエドワードの面影があって、ウィンリィは小さく微笑んだ。 「なあに?」 「ロックベルのばっちゃんちにもさ、父さんと母さんの写真たくさんあるじゃん」 「うん」 「ちっさい頃の写真もあるじゃん」 「うん」 「二人はいつ知り合ったの?」 「……え?」 てっきり写真の話をされるのかと思っていたのに、彼の疑問は自分たちのことだった。予想外の問いかけに、事実を教えてあげればいいだけだとわかっていても、答えに詰まってしまう。なぜそんなことを。急に、どうしたというのだろう。 「いつって……うーん。父さんと母さんはね、幼なじみだから、気付いたら昔から一緒だったのよ」 「幼なじみ? ずっと一緒にいたの?」 「そうよ。父さんとアルおじさんと母さんは幼なじみなの。まあ、あいつらは二人でこそこそ研究したり修行に出たりしてたから、ずっと一緒っていうわけでもないけど……」 「修行!? 父さん修行したの!? かっこいい!」 「あはは、そうね。でも母さんも修行したのよ」 「えっ、そうなんだ! 母さんもすごい!」 瞳をキラキラと輝かせ、尊敬の眼差しで見つめてくる。おそらくこの子が想像しているようなヒーローの修行とはかけ離れているけれど、それは黙っておいた。 ずっと一緒に育ってきたようで、じつはそうでもないのかもしれない。けれど、二人が大切な幼なじみであることには違いなくて。家族のように育ったのも事実で。そうして、今度は本当に家族になってしまったのだから、人生は不思議だ。 「でも、そっかぁ……」 まじまじと写真を見つめる息子に、どうしたの?と問いかける。 「……」 今度は視線がこちらに向けられ、くりくりとした金色の瞳に射抜かれた。息子だとわかっていてもドキリとする。エドワードと同じで、それはあまりにも純粋な、探求者の瞳だった。 「父さんは、昔から母さん一筋なんだって」 「なっ……!?」 「……って、この前アルおじさんが言ってたから、昔っていつかなーって」 無垢な探求者の発言に、ウィンリィは思わず額に手を当てた。たしかにアルは時々、子どもたちに昔話を聞かせている。娘もすっかり懐いていて、好きなタイプは「アルおじさんみたいなやさしい人!」だ。けれどまさか、そんな話までしているとは。アルはそうやって、間接的にあたしたちをからかうところがある。熱くなる頬をごまかすように、ため息を吐いた。 「……ほんと、いつからなんだろうね」 「え?」 からかう気持ちは確かにあったのだろうけど、その言葉におそらく嘘はない。あたしが幼なじみとして家族のように思っていた頃も、エドはきっと、あたしを好きでいてくれた。知らないうちにあいつに惚れていたように、エドもたぶん、気付いたときには好きでいてくれたのだろう。だから「いつ」というのがはっきりとはわからない。お互い様だからあまり気にしていなかったけれど、言われてみれば、だいぶ長い年月を好きでいてくれているのかもしれない。 ウィンリィは息子の髪を撫でながら、ぼんやりと思う。まだ小さいこの子も、きっといつかは背が伸びて、あたしなんか追い越して。誰かに恋をする日も来るのだろう。 「……あんたも好きな子でもできた?」 「ばっ……! そ、そんなんじゃねーよ!」 「わかりやすいわねー。そういうところ父さんにそっくり」 「だから違うってば!」 そうやってすぐムキになるところが似てるのよ、とは口に出さなかった。 17.05.03. そんなわかりやすい兄さんの恋心に気付かなかったくせに…ふふふ… エドウィンの日おめでとうー! 兄さんが出てこなくてもエドウィンだと言い張る →back |