![]() みたらしとこしあん。それから、抹茶あんみつ。 熱いお茶とともに運ばれてきたそれらを二人の間に置くと、銀時はそのままみたらし団子を一本手に取った。流れるような自然な動きに妙が驚く暇もなく、彼は大きな口を開けてそれを頬張る。むしゃむしゃと口を動かしながら、食えば?とでも言うかのように、死んだ魚のような瞳が向けられた。 妙は「いただきます」と小さく呟くと、少しだけ迷ったあとに、こしあんがたっぷりと乗った団子に手を伸ばした。銀時の視線を無視しながら、それを一口齧る。すると、予想どおりのふんわりとした甘みが口の中いっぱいに広がった。自然と顔が綻ぶ。 「うまいだろ?」 「ええ、とっても」 店先にある縁台に、二人並んで腰掛けて。ひんやりとした空気の中、熱いお茶を啜る。ほう、と吐き出した息が白くて、もうそんな時期なのねと妙はぼんやり考えていた。澄んだ空を見上げれば、ゆっくりと雲が流れている。木々に囲まれたこの甘味処は、あまり知られていないのか人が少ない。都会の喧騒とは異なり、風で揺れる木の葉の音と、立ち寄る人が鳴らす砂利の足音が聞こえる。 珍しく、銀時に誘われて甘味処へやってきた。彼の甘い物好きは多くの人に知れ渡っているだろうが、だからといって人を連れて来たがるような男ではない。どちらかといえば一人でふらりと立ち寄って、満足して帰ることが多いだろう。 だから、妙は驚いたのだ。自分を誘ってきたことに。 何かあったのかしらと顔色を伺っても、特に変わった様子はない。いつもどおりの目と眉が離れた銀さんで、人に聞くより先に自分の分を取って、ぼんやりと向こう側を見ながらそれを食すのだ。二人の間には団子とあんみつとお茶を置くだけの間があって、それすらも適度なパーソナルスペースのように思えてしまう。 (変な銀さん……) 私はどうしてここにいるのかしら。美味しいからいいけれど。 たとえば猿飛さんのように彼を好きな女性だったら、まるでデートのようだと喜ぶのかもしれないわ、と他人事のように考えていた。 一方で銀時も、なんでこいつと来たんだっけ、と思案しているところだった。 ふらふらと街を歩いていると、偶然彼女を見かけて。よぉ、と声を掛ければいつもどおりの微笑みが返ってくる。声は掛けたものの特に用事があるわけでもなく、ふと甘いものが食べたくなってそのまま誘った。ただそれだけだった。 なにを急に、と訝しがられるかとも思ったのだがそんなことはなく、妙は少しだけ考えるそぶりを見せたあとに、「銀さんの奢りなんですよね?」とだけ確認をした。その反応も銀時には意外だったのだが、結局そのまま二人で甘味処へ足を運んで、今に至る。以前、偶然見つけて以来あまり来られていなかった、森の中にある甘味処。わざわざこんな場所へ立ち寄る人は珍しいのか、前回同様人は少ない。 (けど、美味いんだよなァ) せっかくなら、のんびり美味い団子を食おう。なんとなく、この女と行くなら静かな場所がいい気がした。 しばらくだらだらと店先で過ごし、妙は新八への手土産に四つ入りの饅頭を買った。帰りもまた、のんびりと来た道を戻る。 「そろそろ熱燗が欲しくなる時期だなァ」 時折強く風が吹き、銀時は肩を縮こませながらぼそりと呟く。すかさず妙は「うちのお店に来たらいいじゃない」と返すのだが、それがたいして本気でないことも、銀時の財布に余裕がないことも、互いに承知の上であった。キャバクラの煌びやかな装いよりも、屋台のおでんの方がお似合いだ。 「今日は、夜どこか行かれるんです?」 彼の少し赤くなった鼻先を見上げながら、妙は問う。 「いんや。神楽もいるし、まっすぐ帰るわ」 飯の当番俺なんだよ。 主夫のような父のようなその台詞が微笑ましくて、つい笑みが零れる。本物の家族のように暮らす彼らを、羨ましいと思うくらい。 「それなら、今晩はうちでお鍋にでもしましょう。特別に、熱燗も出してあげます」 「えっ。マジで?」 「マジです。でも、材料が足りないから買い出しに付き合ってくださいね」 四人分、あるいは神楽が食べる量を考えるとそれ以上の材料が必要だ。二人暮らしで出かけることも多い志村姉弟の家に、そんなに多くの野菜のストックはない。 (なんとなく誘ってしまったけれど、銀さんもこんな気持ちだったのかしら) 甘味のお礼か、ただの思いつきか。妙の中にこれといった理由はなくて、そんなものよねと自分の中で完結させた。 新八のために買った饅頭は、きっと一人一つずつ、夜のうちに食べきってしまうだろう。 2016.10.23 今年も銀妙10月祭の開催おめでとうございます そして感謝の気持ちを込めて 銀さんといえば甘いもの、そして私と言えば甘いもの、なのにあまり書いたことがない気がしたので… 進展しない銀妙も好きです →back |