![]() アプリコットピンクの髪が、一つの束となって揺れている。彼女が歩くリズムに合わせて、毛先が首の上をとんとんと跳ねていた。その様子を横目に、翔は少しだけ歩を緩める。いつもは並んで隣を歩いているけれど、なんとなく、今は半歩だけ後ろで。 結婚式を数ヶ月後に控え、春歌は髪を伸ばしていた。学生時代からずっと肩の上で揃えられていた髪は、セミロングと呼べるくらいにまで伸びている。家では下ろしていることが多い彼女だが、出かける前に「今日は暑いから」と髪を束ねている姿はとても新鮮だった。どうかな、とポニーテール姿で微笑む春歌は、夏空に映えてきらきらと眩しい。そのまま二人で海にでも行きたい気分だった。 残念ながら目的地は海ではなく事務所なのだが、それでも多少足取りは軽い。今日は新曲の打合せで、春歌と一緒の仕事だからということもある。 「楽しみだなぁ、翔くんの新曲!」 「なーに言ってんだよ。作るのはおまえだろ?」 「そ、それは、そうなんだけど……」 春歌は俯きながら、少しだけ頬を染める。 「……翔くんの曲を作れることがうれしい、のかな……。詞をつけてもらえて、歌ってもらえて。完成するのも楽しみだけど、作るのもすごくすごく楽しみなんです」 春歌とパートナーを組んで、もう何年目になるだろう。それでも、その気持ちは変わらないのだと彼女は言う。ぴょんと跳ねる後ろ髪が彼女の気持ちそのものを表しているようで、眩しさに目を細めた。 「幸せ者だなぁ、俺」 「わたしもです!」 「いーや、俺の方が幸せだぜ!」 わたしの方が、と言いかけた春歌に、ぴしりと指を突きつける。 「そのシュシュ、俺が昔あげたやつだろ?」 「お、覚えていたんですか……!」 「やっぱり。なんか見覚えあると思ってたんだよなぁ」 半歩後ろに下がって気がついたのは、彼女がつけている水色のシュシュだった。レースとパールがあしらわれたそれは、学生時代に翔が春歌にプレゼントした――もっと正確に言えば、小傍唯が一度だけ仕事で使ったものだった。春歌の髪の長さでは使わないだろうなと思いつつもあげたかったのは、幼い頃の独占欲に過ぎないのかもしれない。実際、それが使われる場面を見ることなく何年も経ち、あげた本人ですらその事実を忘れかけていた。 けれど彼女は、大事に大事にその時を待っていてくれたのだ。 「すっげー似合ってる」 「ありがとう……! あ、でも唯ちゃんの方がポニーテール似合って」 「それは言うな! 言わなくていい!」 変わらないやりとりがこんなにも愛しくて、思い出を大切にしてくれているのが嬉しくて。春歌が笑う度に揺れるその髪を一掬い、手のひらに乗せる。 「……翔くん?」 「もっともっと、幸せになろうな」 まずは新曲だ!と意気込んで言えば、春歌も元気よくそれに応えた。 16.10.10 「フォロワーさんからリプ来たタイトルでSS書く」というタグでリプをいただきました 夏の翔春で「ポニーテールとシュシュ」です 私ですら知っている某有名な曲ではなくタイトルからストレートにいきました お題をいただいたときは…夏だった… →back |