TWILIGHT TALES | ナノ


Just my love




 目を閉じたエドワードの脳裏には、あの日のウィンリィの姿が焼き付いていた。あの日、家に誰もいないのをいいことに、今までより深く彼女を求めた。これまでに、そういう雰囲気になることが全くなかったわけではない。初めはキスだけで恥ずかしがってスパナを投げつけてきたウィンリィも、今では自ら舌を絡めてきてくれる。彼女と想いが通じ合って、もうそれなりに月日は経った。だからその先を望んでしまうのは、健全な十代の男子としてしかたがないことだろう。
 半分開き直りではあるが、エドワードは自分のそんな気持ちに自覚があった。そういう年頃なのだからしかたがない、とも。
 けれど、そんな自分勝手な欲望を、押し付けたいわけではない。ウィンリィが大事だ。合意もなしに、それ以上先へは進めない。大切にしたい。そう思えば思う程、どうしていいかわからなくなってしまった。
 あの日、デンの鳴き声ではっとしたものの、あのままでは間違いなく押し倒していただろうと思う。もっと触れたい。もっと知りたい。そんな気持ちに、抑えが効かなくなっていた。
 身体が離れたとき、ウィンリィは驚きに目を丸くしていた。大きな瞳はさらに大きく開かれて、息苦しかったのか頬は少し紅潮していた。その表情が、頭から離れない。
(あれは、たぶん、わかってねぇ)
 雰囲気に流されてしまった、とでもいうのだろうか。彼女はたぶん、純粋に好きという気持ちでいてくれている。だから拒まない。それだけだ。それなら、今はまだそのときではないのだろう。無理に行為に及ぶ必要はない。怖がらせたくない。傷つけたくない。
(……はっ、どっちがだよ……)
 一瞬浮かんだ考えに、自嘲気味に笑う。傷つけたくない、だなんて嘘だ。ロックベル家の女がそんなに柔な人間じゃないことくらい、自分が一番身に沁みてわかっている。今までもずっと、その強さに甘えて許されてきたのだ。
(傷つきたくないのは、オレの方だ)
 脳内でグルグルと思考しているせいか、目を閉じてはみたものの、眠気は一向に襲ってこない。けれど隣に座るウィンリィに掛ける言葉も見つからず、エドワードはしかたなくそのままの体勢で時を過ごした。


* * * 中略 * * *


 何度も啄むようにキスを交わして、時々ちゅっと音を立てて。胸の奥がきゅんと甘く痺れるのを、心地よいと感じていた。その心地よさが、次第に熱を呼び覚ます。頬を滑らせていた彼の指先が、耳の下から顎を辿り、首筋を撫でる。ぞくぞくと肌が粟立つのは、この前と同じだ。ウィンリィは震える吐息を零しながらも、次第に深くなる口付けに応えた。
「あ……」
 ギシリと音が鳴る。背中の柔らかな感触に気付いたときには、視界いっぱいにエドワードの顔があった。光源を背にした彼の顔には影が差し、零れ落ちた金色の前髪が頬をくすぐる。心臓がやけに煩い。
「オレ、おまえに無理させたいわけじゃないんだ。でも、最近は、途中で止まれそうにねぇ」
「うん」
「だから、嫌なら嫌って言ってくれ。それかスパナか何か使ってでも逃げろ」
 真剣な表情で、エドワードは告げる。それがたとえ、相手に答えを求めるずるいやり方であっても、今の彼にはそれ以外の手段が思いつかないらしい。
「……こんな体勢で、言うことがそれ?」
 ウィンリィの口からは、思わず本音が零れた。下から見上げた彼の表情は大人びていて、見慣れないオトコの顔に不覚にもドキドキしているというのに。そんな気持ちも見通せず、あまりにもヘタレな彼の発言に、少しだけおもしろくなってしまった。ガーフィールが「男はガキ」だと言っていたことを思い出し、ウィンリィは目の前の金色の瞳を見つめる。
 言葉は不器用でも、それは彼なりの心遣いだ。そしてきっと、不安の表れでもある。だったら、きちんと答えを返さなくてはならない。
「あたしだって、その……」
 こんなことを言うのは、本当は恥ずかしいけれど。それでもやっぱり、二人で前に進まなくちゃ、と思う。
「嫌じゃ、ないから……」
 安心して、と告げた声は、この距離でなければ聞こえないくらいに小さくなってしまった。それでも、きちんと伝わったのだろう。そっと背中に腕を回せば、再び深く唇が重ねられた。




First starlet




 ウィンリィとともに家に戻り、二人きりになってからは、当然のようにお互いを求め合った。初めから深く口付け、そのままなだれ込むようにベッドへと身を沈める。余計な言葉を交わすこともなく、ただただ身体を寄せ合った。
 ゆっくりと、エドワードは腰を動かす。次第にその動きを早めていくと、奥を突くたびにウィンリィから声が洩れた。
 それでも、初めの頃に比べたら、感じてくれていることがよくわかる。肢体をくねらせながら、気持ちの良い箇所を探して自ら腰を揺らして求めてくる。おそらく本人は無意識で行っているから、指摘はしないけれど。突かれるたびに歪む表情も、痛みのせいだけではない。それがわかるからこそ、容赦なく奥を突く。
「やあっ、あっ、エド……っ」
 エドワードは彼女の片脚を持ち上げると、自身の肩にかけた。そのまま腰を突き動かせば、より深いところへと当たる。
「あんっ! んんッ!」
 初めの頃は、声を出すことにも抵抗があったウィンリィだが、今はどうだ。我慢せず、素直に反応を返してくる。甘い喘ぎは互いの興奮を高め、言葉にはせずとも「もっと」と強請る。
「んっ、ふ……っあ」
 豊満な胸を揉みしだけば、詰めていた吐息が零れた。腰の動きはそのままに、赤く尖った胸の先端を執拗に弄る。
「……ッ」
 ウィンリィは身体を震わせると、さらに締め付けを強くした。
「っ、あんま、締め付けんな……!」
「や、だって、……あああッ!」
 エドワードは柔らかな彼女の肢体を抱きしめると、さらに動きを加速する。ウィンリィも彼の背中に腕を回し、ぎゅうと身体を押し付けた。肌がぶつかり合う音と、そこから溢れる水音が、部屋に響く。何度も擦り付けるように内部を掻き混ぜ、奥を突けば、ウィンリィは背中を反らして身体を震わせた。
 兄弟が再び旅に出るまで、あと数日。はっきりと口には出さずとも、その日を意識しているのは明白で。いつもどおりを装う昼間とは対称的に、熱情に身を委ね、相手を求める夜は続いた。言葉よりもよっぽど正直に気持ちを表していたのが、なんだか可笑しくて、それでいて胸を締め付けられるような気持ちにもなる。
 きっとまた、朝になれば変わらぬ笑顔でおはようと声を掛けてくるのだろう。軽いやり取りを交わしながら機械鎧を整備して、旅支度を手伝ってくれる。そんな女だからこそ共にいたいと願ったとはいえ、もらってばかりではあまりにも情けないような気がした。




2016.05.04.発行




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