放課後シークレット | ナノ


放課後シークレット(恋人設定)




「あれ? 田島くん、まだ残ってたんだ」
「あー、隣で西広に数学見てもらってた」
「試験前だもんねぇ。調子はどう?」
「もう全っ然! いや、赤点取るわけにいかねーからがんばるけど!」
 ガラッとドアを開けて入ってきたのは田島だった。試験前の今は部活も休みで、教室はガランとしている。もちろん野球部以外も活動休止期間であるから、校庭から声が聞こえてくることもなく、夕日が似合う静かな教室に、一人。そこに不意に現れたのが恋人ともなれば、千代の胸は自然と音を立てた。
 田島は千代の目の前の席に腰をかけ、彼女の手元を見つめる。そういえば、今日は日直だったか。日誌には綺麗な字が並び、彼女の真面目な性格が窺えた。
「田島くん、もう18歳なんだね」
 早いなぁ、と呟いた言葉に深い意味はなかったけれど、キョトンとした大きな瞳がこちらを見つめてくる。
「しのーかはまだまだだもんな」
「うん。卒業してからになっちゃうもんね」
「そっか。……でも、みんなでお祝いしような!」
 オレともするけど、みんなでもやろーぜ!
 そう言ってニカッと笑う彼を、好きだなあと改めて感じる。そんなつもりはなかったのに、言葉に滲み出た寂しさに気付いてくれるから。たまに応援に行くとはいえ、部活を引退したこと。放課後、教室ではなく図書館に行って勉強するクラスメイトの方が多いこと。小さな違和感が重なって、卒業を連想させる。切ない気持ちになる機会が増えた理由。けれど、そこに「大丈夫だよ」とでも言ってくれているかのような彼の言葉に、なぜだかひどく安心するのだ。
「田島くんのお祝いもしなくちゃね」
 プレゼントは朝一番であげたけれども、もっと何かできないだろうか。こうやって誕生日当日に一日一緒にいられるのは、最後かもしれないから。卒業後のことは、まだわからないから。
 さっさと日誌終わらせよう、と意気込んだ千代に向けて、田島が声をかけた。
「……ここで、ちょーだい」
 ふっと顔を上げれば、楽しそうな、けれど真面目な顔をした彼と目が合う。
「千代から、キスしてよ」
 ドクン、と大きく心臓が鳴る。ずるい。ずるいずるいずるい。これまでにも何度か思ってきたけれど、こんなときに、こんな場所で、その声は卑怯だ。
 ん、と唇を突き出して、目を閉じて待つ体勢に入る。恥ずかしいよ、誰か来たらどうするの、なんて言い訳が通じるとは思えない。それだけ、彼は真剣だった。
「……っ」
 周りに誰もいないことを確認し、だったらいっそ今のうちに!と、軽く身を乗り出して、掠めるようなキスをした。それは本当に一瞬のことで、目を開けた田島が物足りなさそうにしていることにも気付いている。けれど、これ以上は無理だ。いくら誕生日とはいえ、学校でこれ以上はできない。
「んー……ま、いっか」
 へへ、と笑った田島は、今度は自分が身を乗り出してキスをする。先程のとは違う、しっかりと唇を重ね合わせた、味わうようなキス。やがてそれが離れると、千代はゆっくりと息を吐き出した。目が潤んでいると、自分でもわかる。
「照れてんの? かーわいい」
「い、じわる…っ!」
 耳元で囁かれれば、ますます顔が熱くなった。恥ずかしいと思っているのは、きっと自分だけなのだろう。田島の満足そうな笑顔を見ると、すべて許してしまいたくなるけれど、それが正しいのかどうなのか、もう千代にはわからなかった。「イケナイコトしたみたいで、ドキドキするな!」と笑う彼の頬も少しだけ染まっていて、つられるように笑った。




12.10.16.(田島悠一郎誕生日)
キスで20題(06:秘密のキス)
診断メーカーの結果(千代は『教室で声をかけられ囁くような声で「照れてんの?かーわいい」と言われるとキュンするでしょう。』、しのーかにキスをねだってみたら、すぐにキスをしてくれたが少し触れるくらいの軽いものだけだった。もっとしてくれてもいいのに。 )を組み合わせてみました
やっぱりたじちよかわいいですね 大好き




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