坂本雄一が坂本雄一である由縁




俺の実家は白軍のそれなりに大きな家だった。曽祖父、祖父の代で大きくしたらしい。忠臣であることをアピールするためか、彼方此方に白蛇の像や旗があった気がする。

俺には兄がいた。兄、影和は次期当主となるために日々勉強に明け暮れる反面、俺は両親には放られていたと思う。だが、一緒に住んでいた祖父が俺を育ててくれた。

祖父は白軍で中将まで上り詰めた男だった。当時は退役しすっかりそのなりも潜めていたが、俺の剣術や戦術の師でもあった。

ただ、祖父にはただ一つ問題があった。嘗て中将まで上り詰めたものであるのにも関わらず、戦術の手解きをしているのにも関わらず……あの人は、平和に恋をしていた。

「雄一は筋がいい。きっと将来この俺さえも抜いてしまうだろう。だが俺にはそれが悲しいのだよ。孫に抜かれてしまうと言うことではなく、孫が戦場に出なければならないという事実がね」

「お前が剣を持たぬ未来が有れば良いのに。何故国を守るもの同士手を組むことができないのか」

そう毎日のように呟くようになり、祖父はとうとう父に呆れられてしまった。

「父さんの平和主義には参ったよ。雄一、あんな話を信じてならない。第一話し合いでどうにかなるなら、もうとっくにこの世は平和だよ。…あの人はボケてしまったのだろうか」

父はそう言ったが、俺は祖父が大好きだった。
その膝に乗せられ一緒に本を読んだ。剣を握る喜びを教えてくれた。俺の知らない事を何でも教えてくれた。

「おれがへいしになったらおじいちゃまをまもるからね!」

今だって覚えているこの誓いは決して嘘ではない、本心からの言葉だった。祖父は聞くと少し悲しそうに微笑んで嬉しいよ。と言っていた。

俺が小学校に入学したのとほぼ同時に俺は精鋭育成部に送り込まれた。
大きな剣術の大会に何度も出るようになった。数年すると優勝回数も増え、金メダルやトロフィーも腐るほどあった。父と母には手放しで褒められたが、一番褒めて欲しかった祖父はただ悲しそうに微笑むだけだった。…と言っても、そのトロフィーやらなんやらは今頃土の中。殆どが溶けて見るも無残な様子だろう。

そう。あの日はちょうど軍の大会で優勝した帰り道だった。
大きなトロフィーを両手で持って家に帰っていた途中だった。
今度は父と母だけでなく祖父も喜んでくれるのだろうか。ワクワクしながら帰り道を歩いていたが俺が家に帰ることは二度となかった。

突然真っ白な車が俺の横に並ぶようにとまり、その後部座席からにゅっと角ばった手が俺を捉えた。驚いてトロフィーを落としてしまったがその手の主…祖父はそんなことを全く気にもせず、俺が知る中で一番難しい顔をしてこう言った。

「白軍連中に屋敷に火を放たれた。屋敷にいた父さんと母さん、影和は死んだ。お前を俺の友の元へ送る。お前は、生きるんだ」

突然のことすぎて何が何やらわからなかった。車を全力で走らせて俺はある家の前で降ろされた。最後にみた祖父の目には涙が溢れていた。

車が去った後家の中から2人の同い年の男女が出てきた。…和彦と夏羽だ。俺はそこで2人に会った。その日はその2人と過ごした。

翌日、車の衝突事故と火事によって一軒の家が跡形もなく焼け落ちたニュースを聞きながら來人とあって赤軍に所属することになった。


後から聞いた話なのだが、平和主義を唱える祖父は白軍にとって目の上のたんこぶだったらしい。それはそうだと思う。元々中将だったと言う無駄に影響力のある人物が平和を唱えると兵士たちの士気がだだ下がりになり、白軍なのに白軍に反抗するようになる可能性がある。
要するに祖父は白軍にとっての癌細胞だった。増殖されると白軍は最悪機能しなくなる。だからその前に手を打ったというわけだ。
ついでに、祖父を含む坂本一家が殺された理由を赤軍か黒軍のせいにすればより他軍に対するヘイトを溜めることが出来る。
癌細胞を駆逐し、他軍を恨む理由を作れる。一石を投じる代償は大きいが、二鳥を得ることはまぁ、出来たのだろう。



別に白軍を恨んじゃ居ない。父も母も兄も俺にとっては重要な人物ではなかった。俺にとっては祖父が一番だった。…が、今回のことは祖父に原因があったからしょうがないのではと思う。大好きな祖父とはいえ自業自得だと。

…いや、原因は祖父だったが…黒幕はあんただっただろう。別にあんたのことも恨んでない。和彦や夏羽と会えた。今俺は幸せなんだ。それでいい。
…それでいいんだが、できれば、イベントごとに菓子をつくるのは勘弁してくんないかな……?…いやだ?ふっっっっざけんじゃねぇよ!!恨むぞあんた!!!





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bkm




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