一悠生が一悠生である由縁



あたしが産まれた家は白軍傘下の地区に住んでいること以外はごくごく普通の家。
両親は昔は学生兵として、今は指導者、医療職者として白軍に所属している。

そして、あたしには一つ上のおねぇちゃんがいた。一つしか違わないのにあたしよりもずっとしっかりしたおねぇちゃんだった。

お父さんとお母さんがお仕事であたしたち姉妹が留守番する時だって、大泣きするあたしを宥めてずっと手を握ってくれた。お父さんとお母さんが帰ってきた時も2人に泣きつくあたしをそっと見守ってくれた。たった一つしか違わないのに、何もかもあたしを一番に考えてくれた。

でもおねぇちゃんただ1人だけ弱みを見せる人がいた。その人はお母さんの弟で当時はまだ学生兵から卒業してすぐだった人。來人さんという人だった。

お母さんにも、お父さんにも甘えなかったおねぇちゃんが唯一甘えを見せた人だったと思う。あたしはあまり会うことがなかったからよくわからないけれど。でも近くに住んでた來人さんの家によく1人でおねぇちゃんが行っちゃうから、ずっと來人さんに嫉妬していた。

それでも、あたしとおねぇちゃんは基本的にいつも一緒にいた。でもあの日からもうずっと会えていない…。


その日は冬の寒い日で空が澄んでいた日だった気がする。5歳になったおねぇちゃんと4歳になったあたしはいつも通り留守番していた。

おねぇちゃんと一緒におままごとをしていたかな。おねぇちゃんがお母さん役であたしが子供役。一緒にお料理したり歌を歌ったりするの。
でも突然外と家のラジオから警報が鳴った。
他の軍から強襲を受けた。白軍の心臓部に近いこの場所は他の軍に侵攻されていた。

その時のあたしは意味がわからなくて怖がってただけだけど、おねぇちゃんは警報の意味をしっかりわかっていた。
おねぇちゃんは部屋に置かれた大きな箱から私の大好きな猫のバックを取り出してあたしに渡した。

「悠生、猫さん絶対に落としちゃダメだよぉ。猫さん、泣いちゃうからねぇ」

そしておねぇちゃんはどこかに電話をかけた。でもずっと待っていても電話には誰も出ないようで少し慌てた様子だったけれど、すぐに何かを決意したような顔になった。そして、あたしにテディベアを渡した。それはおねぇちゃんが來人さんにもらった何よりも大切にしているものだった。

「おねぇちゃん、今から來人おじさんのところに行ってくるね。悠生はお隣のおばさんと一緒に逃げてて」
「なんで?!おねぇちゃんがいっしょがいい!!」
「おねぇちゃん、來人おじさんを助けに行かなくっちゃ。そのかわり、くまさん貸してあげる!私に絶対返してねぇ」

そう言っておねぇちゃんは私を外に連れ出した。非常用の手のひらに収まるくらいのリボルバーを片手に、お隣のおばさんにあたしを押し付けてどこかに走って行ってしまった。


その後あたしはカバンの中に入っていた住民カードのおかげでスムーズに両親に会えた。
でも…おねぇちゃんとは会えなかった。奇襲によって荒らされていた私の家と來人さんの家には2人の痕跡は見つからなかった。



だからこの人形を大切にしているの。だっておねぇちゃんが死んだ痕跡なんてなかった。だから今もどこかで生きてるよ。
取り敢えずあの赤フードを殺して、由香里先輩のお墓参り行って、おねぇちゃん探してテディベア返さなくちゃ!
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bkm




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